Motors

◆ チューニングに関するうんちくメモ ◆
・慣性過給、脈動効果原理  管内の空気を吸い上げる時、管内体積以上の空気を急激に吸い上げると空気は圧縮性流体であるため膨張し、同時に負圧が生じる。その負圧によって入り口方向の空気が吸われ、加速流れ(脈動)が生じる。この加速された流れがシリンダ内に押し込まれる現象が慣性過給である。  勿論、この急激に吸われ、負圧が生じた時に脈動波長が合わないと、一旦シリンダーに入った空気が負圧によって引き戻されてしまうため、十分な燃焼が行えない。この時に十分な空気が管内にあれば、負圧になる前に十分な空気量が吸えるため、効率の良い燃焼が行える。この効果を狙ったものがインテークチャンバーである。  慣性過給には吸入管の全長が関係しており、全長が短いと同じ量の空気を吸い込むにしても大気を吸えるために負圧は生じにくい。勿論、より大量の空気を急激に吸えば負圧が生じるので、高回転領域では脈動も生じる。(もっとも、流速には音速という限界が存在するため、吸気速度が上がれば上がるほど、脈動は小さくなる。)そして、管径が長いと吸気の圧力伝播はなかなか入り口まで届かないため負圧が生じやすく、吸気量の少ない低回転から慣性過給効果を得られる。また、管径が長いと高回転領域では脈動も生じず(正確には脈動が届く前に更に次の空気が吸われる)、常に負圧となるため、出力が低くなってしまう。
・整流の必要性  大量の空気を導くためにダクトの導入を行うにも、直にラム圧をエアクリーナーに吹き付けないほうが良い。ラム圧、つまり走行風は環境により常に変動しており、一定速度においても安定していないため、エアフロメーターやECUが補正しきれず燃調不良に伴う効率低下、最悪エンジンブローする恐れすらある。純正品においても、基本的にはラム圧を密封してエアクリーナーへと導いているが、純正品ではエアクリーナーの前にレゾネーターと呼ばれる消音装置へと外気が押し込まれる構造となっており、ここで消音に加えて脱水、大型ゴミの分別、そして空気の整流を行って、エアクリーナーへと導かれる構造となっている。純正品ではラム圧を得ているとはいえ、導入口は極めて狭いため、エンジンが必要とする空気量以上の空気を押し込むことは無い。純正品でのラム圧の狙いは過給ではなく、あくまで吸入抵抗の低減であり、必要以上の空気を押し込んで大量の燃料を吹き付ける事による燃費の悪化およびエンジン挙動の不安定化を招くことを防いでいる(と思う)。  以上より、開口部の大きい(100cm2以上)吸入口のダクトにラム圧を掛ける際に整流を行うことは、車をいたわって長く乗る為には必須条件と言える。  では、具体的にどのように整流を行えば良いのか。 具体的に3種類の方法がざっと考えられる。ひとつは純正品同様、レゾネーターに相当するエアチャンバーへと一旦取り込む。二つ目に整流板を設ける。三つ目は流路を一旦絞る。
・絞り・ノズルの考え方  流路を絞る事は、一見流入抵抗にしかならないように思えるが実はそうでもない。吸入の絶対量は基本的に入口部の面積で決まっており、途中の面積が変化しても大きくは変わらない。(※ラム圧によって押し込まれる空気量がエンジンの要求する空気量に達していない時には逆の事が言え、出口面積(スロットルバルブ)によって流量が決まる。)これは流体力学の基本である連続の式(流量Q=速度V×面積A=一定)より分かる。勿論、流れが剥離してしまうほどの急激かつ大きなな絞り及び広がりは抵抗となるが、ゆるやかであれば流速は上がるが流量はほとんど変わらない。また、絞りすぎにより流速が音速に近づくと急激に抵抗は増加する。絞りを加える事により、一旦空気が束ねられ、乱れはかなり消える。  絞りによる整流は非定常的な流量変化にはあまり対応できないため、ここには更なる工夫が必要になるだろう。
・非定常流量対策  流量制御を行うには、流量を決定する要素である面積と流速の比を一定に保つ必要がある。面積は基本的に可変するものではないので流速に注目すると、流速を制御するには簡単に言ってしまうと空気を機械的に区切って一定速度で送れば良いのだ。具体的な例で言えばポンプやタービンにあたる。あれらは羽が一定速度で回転する事により、流量は予定以上にも以下にもなりにくい。(つまり、ターボエンジンではラム圧を利用しても冷却効果以上の効果はほとんど無い。)では、動力の介入しない吸気孔でどうやって一定速度で回転する羽を付けるのか。実は市販品で丁度良いものがある。商品名:POWER DEVICE AIRFLOW これは一見サイクロン2と同じ効果を狙った模造品に映るが、実はそうではない。これは管の中央部に金属製の羽が入っており、流れが発生すると羽が回転し、速度エネルギーの圧力エネルギー変換及び流量制御を行っている。この金属製の若干重量のある羽がポイントで、この重量によって慣性力を得て、回転数つまりは流量を一定に保つのである。(同じような効果を狙ったものにフライホイールがあり、あれはエンジン回転数そのものを制御している。)これにより、若干の流量変動は羽の慣性回転により強引に制御されてしまう。 なお、羽により流量を制御する、という機構でPC用のファンなども考えやすいが、あの程度の流量では高速度領域では抵抗にしかならず、しかも止まっている時から強引に押し込んでしまうため、燃調も狂いやすい。
・管路抵抗の考え方  吸入口からスロットルバルブへと導く間の管路抵抗は低速領域ならまだしも、高速領域では当然少なければ少ないほど良い。まず、管路で抵抗が発生するメカニズムを解説すると、圧力抗力と摩擦抗力に分かれる。圧力抗力は主に管の曲がり部で発生し、原因は剥離による渦の発生である。(理論上、剥離が存在しなければ流体による圧力抵抗は発生しない。)では、いかにして剥離を制御するのか。剥離の原理から説明すると、剥離は流体が膨張する際に膨張しきれなくなると発生する現象で、管が曲がっていると、流体は曲がり方向へと沿おうとして膨張する(コアンダ効果)。この膨張幅が大き過ぎると、空気の膨張速度を超えてしまうため剥離が発生する。したがって、急激な曲げ変化を付けない事が重要となる。もうひとつ剥離を出来るだけ発生させない方法として、乱流境界層の維持がある。境界層とは、壁面近傍の流れに存在する速度変化層の事で、流体は壁面速度を0とし、一定の勾配で速度が増してゆく。この速度勾配が0になる時に剥離が発生し、この速度勾配は層流よりも乱流の方が壁面方向へのエネルギー交換があるため崩れにくい。管内の渦流が抵抗を減らすというのは流体の世界では有名であるが、これは乱流境界層の維持へと貢献しているのも一因だろう。この考えは曲がり管だけでなく、直管でも同じ事が言える。直管内の層流はレイノルズ数(=速度×管径/流体粘度)の増加と共に崩れ、ついには剥離する。剥離すると逆流(渦)が発生するため、これが抵抗となる。一般論で言えば、直管で剥離させないためにはレイノルズ数を上げ過ぎない、すなわち流速を上げ過ぎない事と、管径を太くし過ぎない事が挙げられる。余談だが、理論的に言えば管径、すなわち面積と流速は一次的な関係が成り立ち、太かろうが細かろうが関係無い。しかし、細い管の欠点は流速が上がり過ぎ、音速に近づく事により、抵抗が増大してしまう事が挙げられる。例を挙げると、2000ccエンジンで排気管径が30mmだった場合、計算上3605rpm時には音速である約340m/sとなり、それ以上の回転数では排気が詰まってしまう事になる。(実際には管径が細いとそれだけ速度境界層の影響を受けやすくなるし、何よりエンジンシリンダ内で膨張して体積が増大しているため、もっと早い段階で速度が上がりきってしまう。) あまり一般的でない剥離抑制法として、先にも挙げた乱流境界層を生成することと、ジェット機などでも適用している技術だが、境界層を吸い取る(!)、または壁面からジェット流を吹き付けて強引に加速させてしまう事が挙げられる。後者は大掛かりな装置が必要となってしまうため、前者について言うと、実は管内の多少の粗さはあったほうが良い。もちろん境界底層以上の大きすぎる凹凸は抵抗となるが、若干の凹凸は乱流境界層の生成に寄与するのだ。そして渦流を発生させる事も乱流境界層維持に貢献する。ここで注意しておきたいのは、基本的に乱流はエネルギー損失を伴うため、摩擦損失は大きくなる傾向にある。また、いくら乱流境界層を生成したとしても、管長が長ければその分摩擦損失は大きくなる。以上を踏まえ、各種抵抗・損失のトレードオフをバランス良く見極めるのが大事である。
・スワール流れ  スワール流れ(渦流)が何故管路抵抗低減に効果があるか。まず、管路抵抗の発生メカニズムは突き詰めれば境界層の存在に起因する。この速度境界層が存在しなければ理論上抵抗は存在しなくなる。この速度境界層は流体に粘性がある限り無くなりはしないが、工夫次第で小さくする事は出来る。つまり、先にも挙げた乱流境界層を生成する事である。この乱流境界層と乱流を混同すると困るので説明を加えるが、乱流境界層とは壁面の極近傍の微小な領域での乱流であり、壁面から十分離れた主流とは直接の関係は無い。 乱流境界層を生成するには、壁面に極わずかな凹凸・粗さを設ける事と、主流そのものの乱流が挙げられる。スワール流れは後者の考え方で、渦流は基本的に乱流ではあるが、一般的な不安定な速度ベクトルを持つ乱流とは異なり、乱れ全てが同一ベクトルへと向かっているため、抵抗とは成り得ない。また、渦流中の流れは全体を見れば通常の流れと速度は同じだが、微小体積で見れば渦を巻いている為、非常に速度が上がっている。速度が上がれば当然圧力が低下するので、後続の流体もその低圧によりスムースに流れるのである。このように、スワール流れ(渦流)は複数の複雑な要因により抗力低減に寄与しているのである。
※ここでのうんちくは管理人独自の知識によるものであり、内容が正しいという保障は全く無いので了承ください。

Back