奇門遁甲とは

はじめに

現代の日本は、方位学といえば「気学」が流行してしていますが、日本では古来より「奇
門遁甲(きもんとんこう)」という吉方位を求めることができる占術が中国から伝えられ
ています。
日本に伝来した奇門遁甲は中国明代のものと考えられます。明代の奇門遁甲の源流は、一
説には、挨星法(神殺派の秘伝)から発展していると言われていますが、方位(時間的方
位選択)の吉方を取ることにおいて現代では、様々な憶測が流れて、本当に吉凶を取り出
せるシステムを持つ「奇門遁甲」が絶え失われる方向にあります。
この本来の奇門遁甲こそが開運占術として唯一効力があるといっても過言ではありません。

中国五協会報誌連載「五術関連資料の考察」 奇門遁甲の明史に残る文献より
第一節、奇門遁甲の歴史と思想  遁甲と奇門遁甲は異なる占術であった

「奇門遁甲」の源流の成立は中国でも古く、当時の『書目(図書目録)』を追っていくと
膨大な書が挙げられています。三國時代の蜀の宰相の諸葛孔明が「遁甲」を戦争に用いた
ことを歴史小説が伝えていますが、実際に「遁甲」という名称は『隋書(經籍志)』の五
行類に残されています。
 『隋書(經籍志)』には、「遯甲」という名称で記載があります。同じく「九宮」とい
う占術も残されており、恐らくこの「九宮」が現在の気学(九星)と同系統の占術であっ
たと考えられます。『唐書(經籍志)』『舊唐書(經籍志』にも『隋書(經籍志』と同一
名称の書籍が引き継がれていますが、名称は「遁甲」というように改められています。
 『宋史(藝文志)』は、大変多くの遁甲書の書名が有りますが、そのほとんどの書籍は
、現在に伝わっていません。筆者の知る限りでは、ただ残されている書は『景祐遁甲符應
經三卷(楊惟徳撰)』『遁甲捜元經一巻』のみであります。そして『八門遁甲入式歌』と
いう書名もあり、「八門遁甲」は、宋代に成立していたようです。つまり、奇門遁甲が成
立するまでに、

  遯  甲

  八門遁甲

  奇門遁甲

という変遷課程を経ていると考えられます。
『明史(藝文志)』で初めて「奇門遁甲」が歴史上に登場します。名称も遁甲の最初に奇
門がつけられています。奇門遁甲を八門遁甲と呼ぶ者がいますが、これは、まったく違っ
た占術であると分類すべきです。つまり、八門遁甲とは、八門の中に甲尊が遁れるもので
あり、これに対して奇門遁甲は、三奇八門に甲尊が遁がれるものであります。それぞれの
占術の価値基準は、名称によって明確にされています。戦時中の遁甲は、兵法として発展
しており、甲尊と八門の関係の表す方位は、戦争での必勝を表すものなのであります。奇
門遁甲は、むしろ冷戦時の遁甲であり、三奇の乙奇、丙奇、丁奇と八門の関係を重視して
おり、この三奇は、社会の中で人間が出世するために必要な人生の安定、財産、智慧を司
るものであります。そして甲尊は、目上の引き立てを表し、これは現代社会にも通じる共
通の価値観ともいえます。
 当時中国の国家が遁甲を禁止したなどと唱えるものがいましたが、遁甲が民衆に受け入
れられ実用化されたのは明代からであると考えられます。
 明代の代表的な著作は、明の宰相であった劉基が国家の奇門遁甲を著した『奇門遁甲秘
笈大全』があります。まさに公の奇門遁甲といえるもので、明以前からの遁甲、奇門遁甲
の資料が並立して書かれています。おもに雑占が主体に論が展開されています。また異説
と呼ばれながらも清代の奇門遁甲に多大な影響を与えた『甘氏奇門一得(五種秘竅全書)
』は、私の奇門遁甲の最たるものといって良いでしょう。この書は、別名『奇門秘要』と
も言われ、時盤に十時一局の局数が採用されています。ある一つの作成した遁甲式の中で
、戦争に於ける成敗、有利不利を論じており、一般は、格局を求めて吉凶を求めるのに対
して、天盤地盤の関係のみで勝敗を決定する占卜的な奇門遁甲となっています。ゆえに同
じ天地、星門、宮神を使っていてもその究明の方法が一般と完全に異なっています。これ
が異端と呼ばれる由縁なのです。
 奇門遁甲の大きな特徴は、そのすべての著作が『煙波釣叟歌(宋、趙普撰)』を基本論
理としており、この書をもとに明代の奇門遁甲が形成していったと考えられます。『煙波
釣叟歌』の特徴は、時盤の局数を決定する方法が十時一局の局数の取り方が採用されてお
り、奇門四十格という格局の前衛が整理された集大成だと言えます。『煙波釣叟歌』以前
の遁甲には、唐の李筌の『陰符經』が載せられているのです。事実、北京大学図書館(李
氏善本書目)に収蔵されている『秘伝金函奇門隠遁丁甲法書』と同一内容の『諸葛武侯奇
門遁甲統宗大全』の冒頭に『陰符經』が引用されています。これは恐らく唐時代以降にま
とめられたものであると考えられます。しかし、明代の奇門遁甲を現在に伝える書物は、
ほとんどが散佚して極一部の奇門遁甲書しか現在に残されていません。
今回の北京取材で発見した明代の奇門遁甲を伝えるテキストの『奇門原古三巻(不著撰人
)』には「李氏奇門」「林氏奇門」「陶真人遁甲神書」の三氏の奇門遁甲占盤(遁甲式)
の作盤上に複数の流派が存在したことを記述しています。奇門四十格の格局ついては、ほ
ぼ完成していたと考えられます。『奇門原古』の別タイトルは『奇門大全上中下巻』と書
かれており、後の『奇門遁甲全書』『奇門遁甲統宗大全』等の底本になったテキストと考
えられます。その他に『甲遁神授秘集』は、オリジナルの奇門遁甲を述べており、一門派
の奇門遁甲書だと言えます。六部(礼、樂、射、御、書、数部)の構成からなり、最後の
篇には、甲子(戊儀)から甲寅(癸儀)までの星門の判断が四言獨歩の詩で書かれていま
す。この奇門遁甲は、時盤の局数を決定する方法が五日一局の方法が採用されています。

明代の奇門遁甲は、風水に深い関わりがあり、奇門遁甲の源流は、四庫全書に残されてい
る『奇門遁甲演義(明、程道生撰)』の奇門原始に「造宅三白之法(挨星法)」から始ま
ったと書かれています。造宅三白之法は、「都天撼龍経八十一論」の中にあり、
 其一曰、都天九卦(都天八卦)
 其二曰、入地三元
 其三曰、行軍三奇
 其四曰、造宅三白之法(選宅三白)
 其五曰、遁形太白之書
 其六曰、入山撼龍之訣
 其七曰、轉山移水九字玄經
 其八曰、建國安邦萬年金鏡
 其九曰、玄宮獲福救貧生仙産聖(元宮入福救貧生僊産聖)
等の書名が残されています。この他『奇門遁甲秘笈大全(第二十一巻、遁甲神機)』『奇
門遁甲統宗大全』にも同様の書名の記載があります。この『秘笈大全』は、撰者が劉基と
なていますが、『統宗大全』は、撰者が諸葛武侯となっています。明代の奇門遁甲で、題
劉基撰とする写本は、実際には劉基の著作ではなく、劉基の名前を借りて出版されている
場合が非常に多くあります。その最たるものが『奇門遁甲十巻(明抄本)』だと考えられ
ます。
 「選宅三白之法」は、三元派(神殺派)の風水理論であります。ここから『陽宅遁甲圖
』が造られたと考えられています。最初は、家を造ることから始まったこの方法は、後に
方位にも応用され、現在の奇門遁甲が成立したとも考えられています。
 門派の奇門遁甲は、古典に残された奇門遁甲から発展しており、特に目を引くのは『奇
門天書(題劉基撰)』『奇門地書(題劉基撰)』の出現であります。門派は、そのほとん
どは、一子相伝という形態で伝承されています。内藤文穏氏の『奇門遁甲奥義』には『奇
門天書』は、赤い表紙で、この世に二冊の天書を残さない決まりがあるそうです。それは
下手をすると一門一派にそれぞれの『奇門天書』が存在するかもしれません。
奇門遁甲は、奇門四十格というものとその他に三奇と八門を基本に価値基準を定めていま
すが、『奇門天書』『奇門地書』で初めて天地、星門、宮神の六つの要素の関係を総合的
に看て吉凶が求められており、これが吉凶を特定する「奇門遁甲」の解釈の行き着いた最
終形態とも考えられます。
清代は、奇門遁甲書籍が多く出版されています。明代以前の遁甲、奇門遁甲をただ引き継
いだものもありますが、新しく創作された奇門遁甲書籍があります。その中でも特に目を
引くのは『奇門太宗直指(北京大学李氏善本書目)』という抄本も残されています。
 この他に清王朝が編纂した『古今圖書集成』『四庫全書』にも複数の奇門遁甲書籍が収
蔵されています。つまり、清王朝は「奇門遁甲」を公認した国家であり、民間においても
奇門遁甲書の出版が数多くみられます。「子平」は清王朝の民間において収束して行った
のに比べ、「奇門遁甲」は、清朝に受け入れられ時代の脚光を浴びたのだと考えられます。
 民間の出版物は『諸葛忠武侯行兵遁甲金凾玉鏡海底眼(漢、諸葛武侯撰)』『奇門遁甲
統宗大全(漢、諸葛武侯撰)』『奇門闡秘六卷(羅世瑤撰)』『奇門金章一卷( 不著撰
人名氏)』等があります。

第二節、奇門遁甲の明史に残る文献  ほとんどの資料が散佚して残らない

 『明史(藝文志)』には、幾つかの奇門遁甲の書籍の記載がありますが、『明史(藝文
志)』の五行類は、卜筮陰陽、星相、堪輿の三つに分かれており、その卜筮陰陽の奇門遁
甲の書籍は、次の書名が残されています。
*池本理 禽遁大全四巻、禽星易見四巻
 鮑世彦 奇門微義四巻、奇門陽遁一巻、陰遁一巻
 劉 翔 奇門遁甲兵機書二十巻
 徐之? 選澤禽奇盤例定局五巻
*胡獻忠 八門神書一巻  
 宋元明の資料を集めた『千頃堂書目(清代、黄虞稷撰)』には、以下の資料の記載があ
ります。
*池本理 禽遁大全四巻、注觧烟波釣叟歌一巻
 鮑世彦 奇門微義四巻、又奇門陽遁一巻、又奇門陰遁一巻
 徐之? 選澤禽奇盤例定局五巻
*李 □ 甲遁真授秘集三巻
 王巽曳 奇門吉方直指一冊 
 袁 善 奇門秘奥
 郭仰廉 奇門説要一冊
 蒋時吉 奇門総要一冊
 周 鍔 六甲奇書一巻
 以下、不知撰人の資料
*奇門原古三巻
 八門禽演碎金経三巻
 都天一巻
 禽星直指一巻
 流光玉暦八巻
*胡□□ 武侯八門神書一巻
 遁甲鉤玄集
 奇門大成
*紫庭秘訣
 玄女統甲子六十将軍伐鹵一宗符秘訣四巻
以上の書籍は、次のような名称で残されています。
 禽遁大全四巻補遺一巻 明、池本理 明弘治九序刊(問奇齋)日本 内閣文庫漢籍目録
 重刻校増武侯八門神書 明、胡獻忠 明萬暦四三序刊    日本 内閣文庫漢籍目録
 遁甲烟波釣叟歌一巻 明抄本 北京大学圖書館李氏善本書目
(重刻)曳元奇門遁甲句解煙波釣叟歌一巻 題宋趙普撰 
 明正徳戊辰三年(一五〇七)刊本アメリカ プリンストン大学東方図書館中文舊籍書目
 曳元奇門遁甲句解煙波釣叟歌不分巻 題宋趙普撰 不著注人 
                         明刊本 台湾国家圖書館善本書目
 新 煙波釣叟奇門定局 劉基撰  明萬歴、寶願堂秘笈      
                         台湾 藝印文印書局印行
 陽遁、陰遁□巻 楊墨林跋 明抄本 十四冊 北京圖書館古籍善本書目
 奇門原古三巻遁甲霊華秘経一巻 抄本 北京大学圖書館李氏善本書目
 甲遁真授秘集六巻 清薛鳳祚撰 清減豐花雨書巣活字印本北京大学圖書館李氏善本書目
 遁甲吉方直指一巻 明、王巽撰  天一閣蔵本 四庫全書総目提要
 奇門説要一巻   明、郭仰廉編 天一閣蔵本 四庫全書総目提要
 紫庭秘訣一巻   唐、王希明撰 清初抄本   北京大学圖書館李氏善本書目
この他に明代の奇門遁甲書で現在残されているものは、以下の通りです。
 黄帝奇門遁甲圖一巻 不著撰人名氏  天一閣蔵本 四庫全書総目提要
 遁甲秘文      明抄本 北京大学圖書館李氏善本書目
 兵占奇門遁甲不分巻 明唐楷徳釈 清抄本  北京圖書館古籍善本書目
 景祐遁甲蓮華通神經一巻 明抄本       北京圖書館古籍善本書目
 秘傳金函奇門隠遁丁甲法書三巻 明抄本    北京圖書館古籍善本書目
 遁甲起例           明抄本    北京圖書館古籍善本書目
奇門鴻寶不分巻 明天啓元年三色套印本     中國古籍善本書目
奇門遁甲十巻  明抄本     中國古籍善本書目
 奇門秘書握機經二卷陰陽十八遁不分卷 明萬暦四年抄本 中國古籍善本書目
 〔新編〕日用涓奇門五總龜四卷明池紀撰    明正徳戊辰三年(一五〇八)刊本
              アメリカ プリンストン大学東方図書館中文舊籍書目
 遁甲日用涓奇門五總龜四卷 不著撰人 明刊黒口本 台湾 国家圖書館善本書目
 遁甲日用涓吉奇門四卷 明不著撰人 明鈔本 台湾 国家圖書館善本書目
 遁甲演義     明、程道生撰 欽定四庫全書
 新刻奇門成式全書 官應震輯 台湾 国家圖書館善本書目
 新刻奇門成式全書 官應震輯 明末刊本
               アメリカ プリンストン大学東方図書館中文舊籍書目
 奇門陰陽十八遁  不著撰人名氏 明刊本   中国 江南圖書館書目
 奇門秘書握機經         明抄本   中国 江南圖書館書目
 遁甲全書  不著撰人名氏  抄本       中国 江南圖書館書目
 奇門鬼吼     喩龍徳撰 台湾 国家圖書館善本書目
 甘氏奇門一得二卷 明、甘霖撰 明唐氏文林閣刻本        中國古籍善本書目
 甘氏奇門一得二卷 明、甘霖撰 清刊 至善堂蔵版 五種秘竅全書
                            日本国会図書館漢籍目録

などであり、現代に伝わる明代の奇門遁甲書籍は、非常に稀少なのです。