中国占術入門

1.五術とは        『継善編の研究(阿藤秀夫著)』より 

五術とは、一般に日本では、聞き慣れない言葉でありますが、中国の文化形態の特殊性を構築するのに

重要な位置を占めていると考えられます。従来の日本の中国の学術研究は、このジャンルを軽視蔑視し

て、迷信として学術大系から外し具体的な研究が行われることはありませんでした。

中国の歴史的史料は、四庫全書の名称に代表されますが、四庫とは、四部のことを指し、経、史、子、

集を表します。つまり、経は経典、史は歴史、子は哲学思想、集は前記以外のジャンルを指し、文芸、

芸術、技術書等の類を集めたものであります。五術とは、四庫の分類法における集部の技術書なのであ

ります。

従来日本が行った、歴史的に残った開かれた学問のみを研究し、閉じられた学問を研究しないとい

うのは、非常にナンセンスであるといえるでしょう。

現実に経、史、子部は、開かれた学術であり、誰でもそのジャンルに触れることができます。しかし、

集部の特殊なジャンルは、閉鎖した学術であり、まして古典のものに関しては、非常に研究が困難であ

るといえます。五術の源流は、子部の諸子百家の中の術数家のジャンルとして現在でもその歴史的資料

を学ぶことができます。

過去の権威盲従の研究者が五術を迷信と断定しましたが、実際には彼らの手に負えないものだったと言

い方を変えるべきです。学術研究の基本である占術書の版本の考察すら今まで行われていなかったので

あります。

筆者の研究は、中国で絶え失われた学問を復興させるひとつの運動となったことは確かです。筆者は、

このジャンルの重要性と社会的価値を見出し、再評価するには今がよい時期であると考えています。

なぜなら、五術の扱う分野は、時代に左右されることがない、現実のなまの人間の解釈にあるからです。

その人間の現実を解釈するために体系されたシステムを持つ一種の技術と言ってよいでしょう。そして、

そのテーマは、人の運命、人の幸せ、人の成功、家庭の安定、社会の平和(民の幸せ)を目指している

のであります。

a.人の誕生する時をもって、その人の運命を解釈して行くもの。 

b.物事が発生する現象が未来においてどのように変動するのか、それに対してどう対処したらよいの

  かという疑問を正しい選択に導くもの。 

c.物体(人の容姿や家のデザイン、土地の形態)を観察することで、その本質を究明するもの。

これがつまり、五術の体系の中の命、卜、相なのであります。この他に、中医、山(各種養生法)を加

えて五術と称するのであります。

この五術の体系は喩えるなら建築物のように上下縦横の関係が連鎖しているのであります。これは今ま

で開かれることがなかった中国の家に伝わる「家学」であったのです。

閉じた学問は、開くことで開かれた学問として開示されるのです。そしてこれが五術の学術研究の出発

点となるでしょう。                       (黄字部分御子神龍児が追加)

 

各占術の内容については、以下にあるメニューから選択して、解説をお読み下さい。

★   基礎知識を読む  

★命  子平の簡単な説明を読む   紫微斗数の簡単な説明を読む  卜易大法身命占の入門講座を読む

★卜  奇門遁甲の説明を読む       断易の入門講座を読む  六壬の解説をダウンロードする

★相  透派面掌大法の簡単な訳を読む(工事中)

 

2.台湾の占い事情   阿藤秀夫著 (アカデメイア・カレッジ季刊誌創刊号搭載記事)

一般は、中国の占いを八卦と易、人相、手相といった、いわゆる迷信レベルでしかみていません。最

近は風水ブームなので、認識は一般的になってきていますが、現実には、表面的なものしか見ていな

い日本人が大勢います。いったい台湾の占いのレベルがどのくらいなのか、台湾の占いの現状を紹介

しようと思います。

プロと一般の違い―門派(もんぱ)という家元のような集団、団体が存在する。

門派(家元)と一般には非常に大きな段差があります。門派は、古典に残された資料から発展してい

ます。つまり、明、清時代に完成され実用された占いが、現代に伝えられています。ゆえに公的に伝

えられた刊本や、これ以外に私的に伝わる写本が残されています。その内容をみても当時の五術家(

易者)は、かなりの現実(人事や社会においての人間)を理解していたと考えられます。見方を変え

れば、現代の易者よりも、現実の物事の道理に通じていたともみれます。ゆえに現代には、何代にわ

たって研究が引き継がれたもの、一代の研究で一門を成すもの、あとは偽物しか存在しないことにな

ります。

中国には日本人の想像を絶するものが多くありますが、それに相乗してすべてのものが玉石混淆とな

っている傾向があります。なので、良書を見つけ、良師につくことは非常に大切なことだと言えます。

また占術のレベルをみるには、当の伝書があるのか、若しくは、ちゃんとした先生がいるのか、であ

る程度のレベルを測ることができるはずです。

紫微斗数(しびとすう)―ある三書の書籍から台湾の紫微斗数研究が始まった。

台湾の紫微斗数は1949年に出版された『紫微斗数命理研究(張開卷著)』と70年代の『紫薇發

秘(陳信蒼著)』『中國命相哲理學講義(曾坤章著)』の三書より本格的な研究が始まっています。

台湾女性の恋愛占いの読みものとしてブームを起こし、数百冊の書籍が出版されましたが、最近は少

しかげりをみせていることは否めません。判断方法は、みな似たりよったりで、「節気式」と「旧暦

式」の、つまり、「紫薇」と「紫微」の二つの紫微斗数があります。紫微斗数は、東洋占星術とも言

われ、西洋占星術と同じように十二宮を用いて判断を行いますが、西洋占星術との大きな違いは、実

際の実星を使うのでなく、現実に存在しない虚星を用いることです。

その判断の主体は、主に各十二宮の吉凶を絞ぼることにあります。台湾、香港では、古来より紫微斗

数を継承しているという門派が現在でも活躍しています。これらの門派は、紫微斗数を現代に応用し、

実用化しているケースが多いといえます。代表的な門派としては、南派、北派の紫微斗数があり、最

近では香港の王亭之の中州派や台湾の李達威の自称、崑崙派、このほかに占験派や河洛派などがあり

ます。

このように、門派を名乗り何々派の秘伝と名を打っていますが当の秘伝書が公開されていないので、

そのレベルがどの程度なのか解りません。ただ言えることは、その秘伝書自体が存在しないのが大半

なのです。ちゃんとした占いの門派(家元)にしか秘伝は存在しないし、家元は、けっして秘伝を安

売りすることはありません。つまりは、出版された書籍によった研究では、どのみち行き詰まってし

まうということです。

八字(はちじ)―いまだに徐樂吾が主流となっている。

八字(四柱推命)の研究は、日本より台湾の方がかげりをみせていることは、出版書籍を見ても明ら

かだといえます。いまだに徐樂吾の説をうわまわる研究書がないのが実状です。

ある一般書店に置かれた四柱推命書籍には、命式と女性のスリーサイズを表記した、大変低俗で理論

性をもたない四柱推命があり、このように研究方向を失った四柱推命書籍の存在がそのまま台湾の八

字のレベルといえます。

鉄板神数(てっぱんしんすう)―久しく秘伝論争を繰り返したが秘伝が公開された!

二十数年前、作家の星新一氏が雑誌などで紹介した幻の占いとされている「鐵版神数」は最近になっ

て秘伝が公開されたようです。近年様々な秘伝大公開と歌った本が出版されましたが、実際の占い方

を詳しく著したものがなく、秘伝が書いていないのに、訴訟問題に発展した例も少なくありません。

筆者は今から十年ほど前にこの占いに興味をもって、その実態を知るために台湾に訪れました。台湾

の占い専門書店の集文書局の黄社長の紹介で、鐵版神数の書籍も出版している台北市三重の朱雲山と

いう氏のもとで鑑定を受けたことがあります。

鐵版神数には、数種類の刊本や写本(抄本)があり、大きく区分けすると南派、洛陽派、江南派の三

種類の版本があるようです。南派の鐵版神数は、一万二千條の條文をもち、抄本によっては一万五千

や一万三千條のものがあるようです。洛陽派の鐵版神数は、邵夫子神数とも呼ばれ、一千二百條の條

文があります。江南派の鐵版神数は五千條の條文があります。この他、蠢子神数は、三千六百條の條

文があり、南極神数、北極神数というものもあります。

結局この鐵版神数は、八字、紫微斗数、河洛理数、星宗等の推命術ができない人のために作られたも

のであり、正統な推命術がおみくじ化したものと考えられます。

易卦、断易、米銭等―様々な立卦法で客を演出する!

台湾で最近流行しているのは、八卦を表した台の上に亀のような造りものが載せてあり、それを占い

に来た客に二回まわさせ、止まった亀の向きから易卦を立卦して判断する易者が多くいます。

それから絵札のようなものを二枚客に引かせて、その象意を使って判断しているようです。断易に関

しても一般書籍では、久しくこれといった研究書が出版されていません。筆者のもつ『卜易大法(ぼ

くえきたいほう)』は、断易の秘伝が著されているものですが、その方法は、一般に出版されている

『卜筮全書(黄金策)』『増刪卜易』『卜筮正宗』等の方法と大変異なる方法論で、占卜の吉凶を決

定することができます。この『卜易大法』には、身命占という章があり、人の生年月日時から易卦を

立卦して運命を判断することもできます。

奇門遁甲(きもんとんこう)―なぜか学問的研究が無視される台湾の奇門遁甲。

台湾は占術の研究に関する雑誌が多く出版されていますが、二十数年前に出版された『天地人』雑誌

には、台湾でも非常にレベルの高い占術の研究が発表されています。特に張耀文氏は、奇門遁甲の貴

重な古典の『都天八卦』『入地三元』『行軍三奇』『選択宅三白』『循行太白之書』等を紹介してい

ます。これらの古典は、『奇門遁甲秘笈大全(第二十一巻、遁甲神機)』に「都天撼龍経八十一論」

の中で、紹介されている書物であり、奇門遁甲の古典では、重要な文献であると考えられます。

奇門遁甲の刊本が現在に伝わるものは、非常に少なく、目録にありながら現物のほとんど失われてい

ます。台湾の中央図書館は、全世界に飛び散った古典の風水書籍を海外から買い戻しているようです。

つまり、台湾には公的な風水の研究機関があるのかもしれません。しかし、台湾においても奇門遁甲

は迷信とされ正統な学術研究が評価されないのが現状です。

六壬神課(りくじんじんげ)―誰も使い手がいない六壬。

六壬神課は、袁樹珊の『大六壬探原』が名著とされていますが、実際には、課式(720タイプの四

課と三伝(占いに用いる占盤))の作り方を説明して、720課式を作成して本が終了しています。

具体的な判断を行う部分がありますが、現実には占術として全然つかいものになりません。書籍がこ

のレベルですから実用できる人は、絶無といっても過言ではありません。六壬は、断易よりも象意が

広く取れ、占うジャンル別に吉凶が判断できますので、非常に用途が広い占術だといえます。この六

壬は西洋占星術とまったく同じ月単位を用い、これを月将(げっしょう)といいます。この月将と占

う時間から720課式を作成しますので、そのルーツは、西洋占星術の上昇宮を求める方法と全く同

じであります。六壬の四課は、ある現実の関係を表し、三伝は、その関係が時間的経過によってどの

ような結果を生み出すのか、その関係の吉凶を求めることできます。例えば、この縁談(男女の関係)

は、まとまるのか、またまとめてよいのかという判断を下すことができます。

風水(ふうすい)―ほとんどが三合派の風水で、一般も政府も風水の信者である。

台湾の風水(陰宅、陽宅)は、国土が日本のように小さいため、古代中国において用いられたスケー

ルの大きい風水が活用されていないのが現状です。風水には、神殺(三合)派、三元派、星度派等の

風水があります。筆者は、三元派の風水の知識があり、三元派は奇門遁甲(きもんとんこう)を基本

理論として風水の巒頭と理気という目に見える風水と目に見えない風水に奇門四十格という吉凶を判

断するものを配当して風水の善し悪し求めます。筆者のもつ『巒頭理気解』『薫徳賦』という書物で

は、理想的に良好な風水の地を選んでも貴子が産まれるのは、わずかに稀であって、ただ言えること

は、そのような風水の地に住む人々には、極端に貧乏とか不幸災難が少ないと判断しているだけなの

です。反対に災難や不幸の多い人は、必ず風水の悪い地を選んでいるというのです。ゆえに風水にそ

の原因があるとおもわれる方は、現在の環境を変える必要があります。つまり、誰もが分相応の風水

の地を自ずと選んでいるわけですから、出世したらそれ相応の風水の地や良い家相の家を選べば良い

ということなのです。『薫徳賦』は、選んだ陰宅(墓相)や陽宅(家相)においてどのように生活し

たら良いのかが書かれています。

手相、人相、骨相―手の甲を見て姓を当てる易者がいたという。

台湾の筆者の友人に手の甲を見て姓を当てる易者がいるというので、その易者を探して鑑定に行きま

したが、現在その易者は、目が見えなくなってしまったので、その鑑定はできなくなっていました。

日本人の姓をどこまで当てられるのかを確認できませんでした。面掌は、命、卜の結果が人相手相に

現れると考えており、『透派面掌大法』では、手相を人相より重視し、掌と面を合参して判断します。

その理論には、子平推命を応用しているつまり、子平で用いる10タイプの六親を手相の紋に当ては

め、扶抑用神を求めることで貴賤を判断することができます。そして面に年月日時を振っていくので

す。

印相―奇門遁甲による用途別の印鑑による開運法。

印相は印鑑を押した一事の物事の吉凶を判断するもので、はじめから、吉を期待するものですから用

途に応じた印鑑を作ることが必要です。例えば商売なら信用が大事ですから信用を重んじた印鑑のデ

ザインをすればよいのです。筆者の知人に塾の講師をやっている人がいますが、彼は求信(信用を得

るデザイン)の印鑑を受講生のテストの回答用紙を返すときにその印鑑を押すことで、受講生との信

頼を保っているそうです。

奇門遁甲の理論で作成する印鑑を遁甲印章といいますが、遁甲印章のデザインには、求官、求安、求

財、求知、求信、求情等の印鑑があります。重要なことは、印鑑を押すことに意味がありますので、

滅多に押さない印鑑に高いお金を出して遁甲印章を作ってはなりません。筆者のもつ『金印玉章訣』

は、奇門遁甲で用いる天盤、地盤、八門の三つの要素によって用途別の印鑑をデザインすることがで

きますので、より個人のニーズに合った印鑑をつくることができます。

名相―名前を変えることが開運ではなく、適切な名づけをすることに意味がある。

名相は姓名判断を表しますが、一般に日本では、字画だけを重視していますが、中国の名相は、字画、

発音、文字のバランスという三つの視点から判断しますから、プロでも良い名前をつけることは、非

常に難しいといえます。一般は名前を変えれば運勢が変わると考えていますが、名相はあくまでその

個人に一番適合した名前を選んであげることに意味があります。ゆえに芸能人とかスポーツ選手なら

それ相応の名前が必要だということです。

門派―透派の秘伝体系について。

透派という門派(流派)は、張耀文氏の門派でありますが、透派の伝書に、

 『大法(たいほう)』基本の作式、占盤を作成し、占いとしての吉凶の定義を行う。

 『止観(しかん)』占術の辞書的役割を持ち、吉凶の象意を一覧できる。

 『心得(しんとく)』心眼で秘伝を会得するレベル。

 『参禅(さんぜん)』禅のレベルで悟りを得る。

 『修密(しゅうみつ)』密のレベルで悟りを得る。

の5段階の秘伝があります。『大法』という秘伝ひとつ取ってもその秘伝の占術のレベルの高さは、

一般的な占術研究が何十年進歩しようとも、抜き去ることはまず不可能であると思われます。

例えば『紫薇大法』を例に取りますと、台湾の一般の紫微斗数書籍が一片もふれていない、占いとし

ての吉凶を求めるという占いの基本姿勢を崩しておらず、一般はそれを全く忘れ去り占術の基本理論

がしっかりしていないまま、その上に理論を展開しているので、これ以上の発展は見込めません。

一方、『紫薇大法』では、基本である十二宮の吉凶を明確に出す方法論をもち、そしてそれを基盤に

そのレベル以上の秘伝が次々と産まれているのです。とにかくまず 『大法』を手に入れることからす

べてが始まると言っても過言ではありません。ちなみに『大法』には、『卜易大法(ぼくえき)』

『紫薇大法(しび)』『子平大法(しへい)』『星宗大法(せいそう)』『六壬大法(りくじん)』

『遁甲大法(とんこう)』『太乙大法(たいおつ)』『面掌大法(めんしょう)』『陽宅大法(ようた

く)』『風水大法(ふうすい)』等があります。実際に透派の秘伝といえども公開されたのは、全体

のほんの一部であると認識しなければなりなせん。

また広い視野と普遍的な価値観をもってこういった伝書に目を向けなければ、発展した研究を行うこ

とはできないだろうと思われます。

この透派の秘伝に関しては、当研究会で講習を行っていますので、興味のある方は、筆者の講演なり

講習にお出かけください。                1999年 4月 台北に於いて取材