溶けきった身体をゆっくりと元に戻すために、寄り添って天井を見つめている。 エドがうっとりと目を閉じた時、首に回していた手で柔らかい金色の糸を撫でながら、 ハボックが野暮な事を聞いてきた。 「…エド、いつもと比べて…どうだった?」 眉間にシワを寄せて睨むエドに、緩い笑顔を返す。 「!…バッカじゃねーの!」 背を向け毛布に隠れる。 少年の答えは、男の笑顔をさらに緩くした。 毛布の上から覆い被さり 「大将。タバコ、吸っていいか?」 『勝手にすれば!』 「…じゃ、遠慮なく。」 ベッドの脇の小さなランプを灯し、エドの向こう側にあるタバコを取る。 窓を少し開けタバコに火をつける。 暗闇に包まれた街に、雨音はもう聞こえなかった。 一本吸い終えようかという時、エドが毛布から顔を出した。 「どうした?」 灰皿に吸殻を置き、訊ねる。 「…水。」 簡潔に答えるとシーツだけをを引きずり、部屋を出て行った。 その背中を見送りながら、新しいタバコを銜える。 窓の外に白い煙が舞った。 2本目を吸い終えたところで、何だか嫌な予感がしてキッチンに向かった。 開けられた冷蔵庫の扉の向こう側に、白いシーツ。 近寄り見下ろすと、顔を上げた小犬と、瞳があった。 ――冬眠前のリスのように脹れた頬。 銜えられている最後の一枚であろうハムサンド。 右手には、ミネラルウォーターのボトルがしっかり握られている。 ハボックは冷蔵庫を覗き込み、中が空なのが分かった途端、床に崩れ落ちた。 冷蔵庫のトビラを閉めたエドが、銜えていたハムサンドを差し出す。 「…あのなぁ、大将…。それ、2皿あったよな?」 「ん。」 差し出したハムサンドを、自分の口の中に押し込みながら頷く。 「当然、1皿は俺の分だって…分かったよな?」 エドは口をもごもごさせながら、頭を掻く。 「ついつい、じゃなくて〜!」 ボトルの水を飲み干して、口の中を空にする。 改めてハボックの落胆振りを見て、エドは一つ、思い出した。 (…確か、少尉の給料日って…後三日?) 「…あ…ワリィ。食っちまったモンはしょうがねーよな…。まだ食うか?買ってくるぜ?」 無理に作られた笑顔。 ――思えばこの部屋に来た時は、当たり前のようにご馳走になっていた。 遠慮なく食べる自分の食費は、相当負担になっていたと言う事だ。 そんなことも気づかなかった自分に、無性に腹が立った。 エドは立ち上がりベッドルームへ戻る。 「…大将…?」 追いかけていくと、エドは服を着ていた。 「大将…俺が行くから…」 ベルトを締める手を取ろうとしたが、エドはそれをかわして、玄関に向かう。 二枚の上着を着込み、ドアの前で立ち止まると振り向いて、困った顔のハボックに 命令を下した。 「待ってて!」 「えっ!?」 戸惑う男にさらに言葉を強めた。 「いいから、ここで待ってて!」 「はっ はい…」 迫力に押された情けない返事を聞き届けると、赤いコートを翻して外に飛び出していった。 残されたハボックは、情けない自分に落胆し、エドの行動が分からないまま、暫く立ち 尽くしていた。 「…ふぇっ…くしょぉん!」 下着一枚だったことを思い出し、とりあえず服を着た。 ソファーに座りタバコをふかす。 止め処なく煙が吐き出され、10分も経たない間に灰皿はいっぱいになっていた。 ―― 時計の針は、午後8時の一歩手前。―― ------------------------------ →next |