――― ゴン ゴン ――― 鈍い音に急いでドアを開けると、両手に紙袋を抱えてエドが部屋へと入ってきた。 「げほっ…すげ〜煙いんだけど!ったく、タバコ吸いすぎぃ〜!」 エドの渋い顔に慌てて窓を全開にする。 テーブルに置いてあった雑誌で煙を追い出しながら振り向くと、ソファーに座って 抱えていた紙袋から、ゴソゴソと何かを取り出していた。 「少尉!早くここ座って!」 換気を終えて窓を閉めていると後ろから声が飛んできた。 テーブルの前に立つとそこにあったのは、大きな水のボトルにグラスが2つ。 3本と2本に分けられた――ホットドッグ。 エドの顔を見つめているハボックを、隣のスペースをトントンと叩いて急かす。 「何してんの?早く座って!」 「…買ってきてくれたのか?」 「勘違いすんなよ!ついでに買ってきてやったの。」 こちらを見ずに口を尖らせながら言う。 「…閉店間際に無理やリ作らせたんだから、残すなよ!」 堪らなく可愛い恋人を、ギュッと抱きしめて頬に口付ける。 「――エド…ごめんな…ありがとう。」 回された腕を握ると、 「もう、冷めちまうから…食べようぜ!」 「おう!」 2人は姿勢を正すと声を揃えた。 「頂きます!」 「いただきます!」 思いのほか気持ちよくハモった。 顔を見合わせて、ニッと笑った後、勢いよくホットドッグにかぶりついた。 「ごちそうさんでした〜。」 ハボックは3本のホットドッグを食べ終え、グラスの水を飲み干した。 「オレも…ごちそうさまぁ。」 エドの前には一口だけかじられたホットドッグ。 「残すなって言わなかったか?」 「イケルと思ったんだけどなぁ…。少尉食べる?」 「―プッ ハハハッ」 数時間前、ドアの前で同じような寝言を聞いたなぁと思ったら、笑いが込み上げてきた。 「何だよ、気持ち悪りぃなぁ〜。」 しかめっ面で睨むエド。 「…今日の夢ん中でも同じ事してたみたいだからさー。 …しかっし良く食べるよなぁ〜!夢ん中でも食ってんだもん。」 ハボックはいつもの緩い笑顔で言った。 夢の事まで覚えていないエドは、そっぽを向いて噛み付いてきた。 「悪かったな!食べる割に背が伸びなくて!」 (―誰もそこまで言ってねぇし…。) 一層顔を緩めた時、ふと時計が目に入った。 「そういえば大将、今日どうするんだ?」 「…一応アルには泊るって言ってきた…。」 先ほどとはうって変わって大人しい声。 後ろ向きのままのエドに、突っ込んでみる。 「で?どうすんだ、大将。」 「…帰ってほしけりゃ帰るよ?」 いつもの天の邪鬼な態度に、わざとエドの真似をしてみた。 「泊りたきゃ、泊れば?」 ハボックはエドが残したホットドッグを食べ始めた。 最後の一口を水で流し込むと、小さく二度目のごちそうさまを言った。 ――しばしの沈黙を破ったのは、しびれを切らした短気な少年。 「…泊ってって欲しいって、言えばいいじゃん!」 勢いよく振り返ったエドの口元にケチャップが付いていた。 それを舌でペロリと舐めると、そのまま口の中に侵入しさせた。 同じ味のする唇を離すと、キツめに編まれた三つ編みをほどいて、 「…シャワーでも浴びますかぁ。」 エドはその言葉を真っ赤になって激しく拒絶した。 「一緒には入んないからな!」 「え〜なんで〜?」 「この間、青アザだらけになったんだぞ!」 グーで小突かれたハボックはその手を掴んで拘束する。 「大将が暴れるからだろ?」 「あっ 暴れさすような事するからだろぉ〜!」 トマトのような見事な赤に変わったエドは、何とかハボックの腕から逃れ、一人 バスルームへと向かった。 「ぜってー入ってくんなよ!」 気合の入った捨てゼリフを残してドアを閉めた。 (結構楽しんでたくせに…) 「可愛くね〜なぁ。」 その言葉とは対照的な顔をした男は、テーブルの上を片付けにかかった。 ------------------------------ →next |