+ Panic! +





12月ももう終わりに近付いた22日。
クリスマスにはデートしようねと少尉と約束していたオレはハッキリ言って
物凄く浮かれていた。
オレはあちらこちら飛び回って賢者の石に関する情報を調べ回っているし
少尉は少尉で無能な大佐に引っ張り回されて休暇が取りにくい状態で。
それでも何とか少尉が24日から25日に掛けての休暇を申請してくれて、
それが通ったと聞かされて本当に飛び上がるほど喜んだんだ。

なのに。
それなのに。

「……それ、どーゆーコトだよ!」

24日の朝、宿泊しているホテルのフロントに入った一本の電話。
それはオレの気分を天国から地獄に突き落とすには充分すぎる程の
内容だった。
『だから、昨日の爆破テロの影響で休暇が取り消しになっちまったんだよ』
受話器を通して聞こえる少尉の声の背後は、何処か落ち着かない様子で
ざわめいている。
きっと色々準備をしているのだろう。
『…ごめんな、エド。仕事終わったらすぐそっちに行くから…』
少尉が情け無い声でオレに謝罪の言葉を紡ぐ。
仕方無いのは解っているけれど…
「もう良いよ少尉の馬鹿!!テロリストにやられて死んじゃえ!!!!」
『なッ…こら、エドワー…』

ガシャン!!!!

受話器を叩き付けるようにして通話を打ち切ると、何事かと驚いた様子で
オレを見ていたボーイを睨みつけてからフロントを後にした。
部屋に戻ると内側から鍵を掛け、ベッドにうつ伏せに倒れ込んで枕をボコボコ殴る。
八つ当たりなんてらしく無いのは、そんな事は自分だって解ってるけれど。
今回の少尉の件に関したってそうだ。
今までだってデートが潰れた事は何度もある。
仕事だから仕方無いのは解ってる。
そんなのは解ってるんだ。
でも。
最近ずっと会えなかった。
お互いずっと忙しくて、やっとゆっくり会える日だったんだ。
クリスマスにはしゃぐ年齢でも無いけれど、オレだって人並みに『特別な日』と
言うのを味わってみたい。
『特別な日』に『大好きな人』と一緒に居たいと思うのは、当たり前じゃんか。

……でも。

ころりとベッドの上で寝返りを打つとクリーム色の天井をじっと眺め、一通り
怒りを発散させて幾らか冷えて来た頭でさっきの電話の内容を思い出す。
「……死んじゃえ、は……言い過ぎたな……」
本心じゃないって事は、きっと少尉も解ってくれてる。
でもやっぱ少尉の職業柄縁起でも無い言葉だから、今度会ったら謝ろう。
きっと明日か明後日にはまた少尉から連絡が来るさ。
そう考えたら気分が少し明るくなって、オレは駅前に飾られてある特大
クリスマスツリーを見物しに行こうと賑やかな街中へと一人で出掛ける事にした。
クリスマス前で賑わう大通りを歩いていると、ふと目に留まったのはショー
ウィンドウの中にあった毛糸のセーター。
「そう言えば…プレゼントとか考えて無かったな…。
 クリスマスには間に合わないかも知れないけど今セールみたいだし
 買っておこうかな?」
少尉、前からセーター欲しいって言ってたし。
財布の中身を確認すると……所持金がゼロに近い状態だった。
そう言えば昨日しこたま本を買った事を思い出し、斜向かいにある小さな銀行に
足を運ぶ。
窓口のお姉さんに銀時計を見せて、必要な分プラスアルファの金額を下ろすと
再び洋服屋に向かおうと銀行から一歩出た途端。
すれ違った男に思いっきり腕を引っ張られ、もう一度銀行の中に引きずり込まれた。
「…な、な…っ!?」
何すんだよ!とオレが口を開こうとした瞬間、黒い塊が額に乱暴に押し付けられる。
目の前には、目出し帽を被った二人組みの男。
銀行内に悲鳴が上がる。
「う、動くな!!!金を出せ!!妙な真似しやがったらこのガキの命はねえぞ!!!」
瞬時に状況を察したオレは錬成でもかまして逃げようとした。
だけど。
だけどさ?
二人の男に両腕を引っ張られた状態で、掌を合わせられる筈が無いワケで。
「…ちょ、離せよ!!ざけんな、オメーら…むぐっ!!」
必死に言葉だけでも抵抗しようとしたオレの口にテープが貼られ、用意周到な
銀行強盗は手にしていたロープでオレの身体をぐるぐるに縛り上げて行く。
「今すぐこの袋いっぱいに金詰めろコラア!!
 車を2台用意して裏口に回せ!!早くしろ!!」
「こここここ、このガキがどうなっても良いのかよコラー!」
…あれ。
ちょ、ちょっと待てよオッサン達!!
人質って………


オレ!?








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