高く澄み渡る碧空を、一羽の鳥が大気を裂きながら飛んでいた。
地上では遥か地平まで続くような大草原が、強い風にうねっている。その丈の高い草をかきわけるようにして、多くの隊商がこの草原の中心に位置する聖都サールナートへと物資を運んでゆく。
いつもと変わらぬはずの、平和な光景だった。
鳥は商人たちを後目に、まっすぐに飛んだ。と、白い閃光!
鳥は驚きながらもそしらぬ顔で体勢をたてなおし、再び強くはばたいた。
鳥は識っている。やがて都が見えてくるだろう。さきほどの強い輝きは、白亜の大神殿の反射光であることを。
下町のうるさいほどのにぎわいを抜けて、神殿の繊細な装飾がはっきり確認できるまでに近づくと、どこからか唄が聴こえてきた。
おさない少女のものでありながら、深みのある、やさしい声だった。
その声にひかれるように、十幾つもあるミナレットのひとつをまわりこむと、開け放たれた窓辺に少女が見えた。鳥は迷わず、その窓に降り立った。
少女の歌声がやんだ。
突然鳥がやってきたので驚いたのだろう。あのサールナート草原をおもわせる翠の瞳をまるくしたが、やがて、そっと微笑みかけてきた。
「おまえ、どこからきたの?」
少女は鳥を怖がらせないように、ゆっくりとそばの果物籠から葡萄の実をひとつぶもぎ、鳥のあしもとに置いた。
これ幸いとさっそくつつき始めた鳥をみて、少女はくすくす笑った。
「スフェナ!」
いささか乱暴に扉を開いたのは金髪の少年だった。
このときばかりは、鳥もおどろき、「あ、まって」という少女の声にもかかわらず、天空へ飛び立った。
……鳥が活気のある下町までもう一度戻ると、一件の家から、男の子と父親との口論がきこえてきた。ほどなく誰かが殴られる音がして、男の子が家から飛び出してきた。
鳥は一瞬迷ったが、いそいで身をひるがえし、その子を追ってはばたいた。
土色の髪をした男の子は、鳥の主人であり、大切な友人でもあったのだ。