u

レクイエム
   〜鎮魂歌〜


これは、私が中3か、高校1年のときに書いた作品です。
『Long Distance』の前身ですね。
もう、どうしようもない文の下手さ(汗)
でも、昔の私と、今の私。
微妙な心の成長が、、、
うかがえる、かな?(笑)


いやに静まり返った船の中は、いやに青い顔の人々で満たされていた。

これが、最期の船であることを、皆が知っていた。
そして、これが最後の旅であることも。

太陽系間航行宇宙船。

何万台もあるその船には、名はない。
それらすべてをあわせて、ただ、レクイエム号。とだけ。

その不吉な名のとおり、これらの船は、ある生命の最期を看取りにゆくのだ。

地球に残り、つかのまの幸せを選ぶ者もいた。
地下に潜り、核シェルターの中に逃げ込む者もいた。

そして、この船に乗り込むことを選んだ者も。
どれを選んでも、ゴールはただひとつなのに。

と、静かな振動を、船に乗った人々は感じ取った。

ようやく離陸するのだ。

これより少し昔。地上で、全世界による戦争が起こった。
少数の、権力を持つ人々は、他の人や生物を顧みずに、
目の前に並んだきらめくボタンを押しまくった。

まさに、地獄のようだった。

どんなに現状が悪くなっても、権力者は不毛な争いをやめなかった。

そして、ついに。
『最強』の兵器のボタンを押してしまった。

それを持っていたのは一国だけではなかったので、
世界中のミサイルが飛び交う光景は、いっそ美しくもあった。

哀れな権力者たちは、たとえ地上が滅びても、地下で、
シェルターの内で暮らしてゆけると考えていた。

だが、甘かった。

爆風はすべてを吹き飛ばし、地球を、あの青く美しい星を、
瀕死の状態にまで追い込んだのだった。

もう、たすける術は、残されていなかった。

『ようこそ、レクイエム号へ』

無機質な、女の声が響いた。
あいかわらず、人々は黙ったまま。

『この船は、皆様御存じのように、我らの地球をみとり、
新たな無の世界へと旅立つ船です。
……お覚悟は、よろしいかと存じます』

さらに重い沈黙が、船内を覆った。

『母なる星。我らの青き星。地球です』

女の声が消えると同時に、船内の様子が一変した。
宇宙船の壁が、突然、透明なガラスとなり、
冷たい光を放つ星々が、億の瞳で、乗客たちを見つめている。
何もない、無の暗闇。

その中に、まるで女神のこぼしたなみだのように、地球はあった。

地上から見た月より、はるかに大きい青玉。

乗客たちは、声もなく、地球をみつめた。
再び、女の声が響いた。今度は、あたたかみをおびている。

『ゆうるりと ごらんください あのほしを
るりいろの うつくしさにひきこまれ
やがて われらは ほろびます
じぶんでは わからなかった うつくしさ
だからこそ もののみごとに くだいてしまい
くやむまもなく しにたえる
せめて いまだけ つかのまの
 あのうつくしさを めにとどめ
われらは しんでゆきましょう』

乗客たちの、すべての瞳から、清らかな涙があふれていることを、
いったい誰が知りえたろう。
そして、彼らが、たったひとつの愛に気づいていたことも。

青い星、美しい大地。なにより生命を愛してくれていた地球。
こんなつもりはなかった。
なにも、お前を殺そうとしたわけではなかった。
その胎内に秘められた毒をえぐりだし、さらに悲しませるつもりはなかった。
生命を……人を愛してくれていたとは!

知らぬことの幸せよ。
知らぬことの愚かさよ。

……罪は、つぐなわなくては。
死ぬことで、つぐなえるなら……

レクイエム号は、船首の向きを変え、滑るように動き出した。
目的地は……ない。
あの無の闇の懐に、抱かれに、ゆくのだ。

地球は、太陽を反射した青い光を、レクイエム号に放った。
まるでいつくしむように、なぐさめのように。

己が滅ぶ、その瞬間まで。

……せめて いまだけ つかのまの
そのうつくしさを めにとどめ
わたしは しんで ゆきましょう……

FIN


BACK

INDEX