杉山先生講演会レポート
宇宙の始まりを見る
東京天文台 理論宇宙天文学研究系 杉山 直 先生
2003年10月25日 於 東京天文台
このページの内容は講演を聴いて今橋がとったメモをもとにしたものであり、
今橋に原因のある間違いを含んでいる可能性があります。ご承知おきください。


宇宙にはタイムマシンがある
・光は30万km/秒で進む。すなわち、光の速さは有限である。
 →われわれが見ている太陽は8分前の姿である。もっと遠くの天体はもっと古い姿である。
・小柴先生のノーベル賞は、16万年離れた超新星のニュートリノが定年1カ月前に届いたのを観測したもの。「16万年前から約束されていたノーベル賞」。
・「遠くの宇宙=昔の宇宙」
 木星・土星 … ざっと1時間前の姿
 天・海・冥 … ざっと10時間前
 銀河系 … 数十年〜数万年前
 局所銀河群 … 数百万年前
 かみのけ座銀河群 … 3億年前
・もっと遠くを見たい! → 深宇宙
 HSTディープフィールド(10日かけて) … 最大100億年前ぐらい
 すばるディープフィールド … 30億〜130億年前の銀河が撮影された

では、最も古い宇宙はどのぐらい前?
・宇宙の年齢は現在140億歳ぐらいらしい
・すばるが撮った最も古い銀河は10億歳ごろのもの
・40万歳のとき、最初の光が放たれた…「マイクロ波背景放射」
マイクロ波背景放射について
・1965年、ニュージャージー州のペンジャス氏とウィルソン氏が偶然発見。電波観測のための新型アンテナのテスト中、どうしても消えないノイズがあった。最初はアンテナが悪いのかと疑った。
・実はそれが背景放射で、同じ州のプリンストン大学のチームが探そうとしていたものだった。「あなたの雑音、私のシグナル」。
・この電波は「黒体輻射」である。これは、初期の宇宙が「高温の、熱平衡状態」であったことを意味する。
・1978年、ノーベル賞がペンジャスとウィルソンに授けられた。プ大関係には授けられなかった。
・この電波を最初に予想したのはガモフ。「宇宙の始まりは熱かったはずだ」。
・COBE(コービー)衛星の観測で、2.275Kと決定された。
マイクロ波背景放射は、宇宙が40万歳のときに発せられた
・誕生直後の宇宙は、陽子と電子がバラバラに飛び回っていた。(エネルギーが高いため、大人しくくっついていられなかった)=宇宙は帯電した物質で満たされていた。→光は直進できなかった。
・3分後、元素の合成が始まったが、このときはヘリウム原子がわずかにできただけ。
・40万年経ったころ、陽子と電子は水素原子を形成するようになり、宇宙は晴れ上がった。
・つまり、背景放射を見ることは、曇った日に雲底を見るようなもの。
背景放射の詳しい観測
・1989年、COBE衛星打ち上げ(NASA)
 温度の正確な測定→2.725K(前述)。
 温度分布の測定→ドップラー効果の補正などすると、10万分の1のゆらぎが残った。このゆらぎが、宇宙の構造のもとになったに違いない。
・2001年、WMAP衛星打ち上げ(NASA)
 COBEよりも高解像度「もっと詳しく見てやろう」。軌道の高さは150万km(月よりも遠い)。
背景放射を調べて何がわかる?
・「宇宙の物質の量は?」とか「膨張の速さは?」とかがわかるはず。←なんで?
・40万歳以前の宇宙はプラズマで満たされていた。大まかに言うと「気体」である。
 その中を音が伝わり、気体の粗密ができたのだろう。その「宇宙の音」が見えたのだ!
・楽器は宇宙そのもの。楽器の大きさで音の高さが決まる。周期40万年の「重低音」。
・楽器の形で倍音構成が決まる(音から楽器の形がわかる)。つまり宇宙の形がわかる。
・気体の性質も音を変える。どんな物質がどれだけあったかがわかる。
・「空間の性質」もわかる。空間が凸レンズみたいなのか、凹レンズみたいなのか。
 →理論計算と照らし合わせると、「宇宙の曲率はゼロ」らしい。
で、わかったことは
・宇宙の全エネルギー(=質量)の73%は正体不明の「ダークエネルギー」である。
 (ダークエネルギーは、アインシュタインが「宇宙項」を作るために発想したもの。一度ポシャって、違う文脈で復活したわけだ)
 23%は正体不明の「暗黒物質」である。
 のこり4%が、水素、ヘリウムなどお馴染みの物質。
・宇宙の年齢は137億歳。
・宇宙は今後、速度を速めながら膨張を続ける
・今から50億年後、銀河系はM31と衝突する。そして多分合体する。
・1000億年後、宇宙の大きさは現在の500倍に。かみのけ座銀河団は1500億光年先へ。見えねー。
・100兆年後、すべての星は燃え尽き、物質は壊れる。そして冷たい宇宙が残る。
…と、宇宙背景放射を調べるといろいろわかる。
今後の背景放射観測
・暗黒エネルギーと暗黒物質についての精密な観測
・衛星(←何の話だったか今橋忘れた)
・HSTに続く宇宙望遠鏡
・30m級の地上望遠鏡
・ALMA(チリに作る予定の干渉計)

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