ガキーン…ガキーン… 暗闇に影が二つ蠢いている。 一つは年の頃四十前といったところか。馴れた手つきで硬い岩盤を掘っている。 カンテラに照らされた横顔には一筋の傷跡と不精髭が浮いているのが見て取れたが、 何より印象的なのは血が凝ったような赤い瞳だった。 もう一つは十かそこらの少年である。 ひどく真剣な目付きで鎚を振り下ろしているのだが、顔に小石が当るのか時々顔をしかめている。 二人の足元には様々な形の道具と2つのカンテラ、 そして美しい金と白の帯を走らせた鉱石が転がっていた。 彼等の姿は着ているその真っ黒な装束のため カンテラの灯りとぼんやりと光る常夜灯がなければ闇と見分けがつかなかっただろう。 坑道の暗闇に溶け込むような黒装束……それは逢金師達の姿だった。 逢金師は金属からあらゆるモノに繋がる「環」を造る事を生業としている。 そして「環」を造る為の金属を自ら鉱石から採集し金属に精製、 または探金衆より仕入れる事でこれを造り上げていた。 そして先程の2人も金属を採集する為にこの坑道に降りていたのだった。 「環」は金銀などの貴金属や重金属、そして不思議な作用を発揮する特殊な金属を用いて造られる。 特に淡紅色の「念ヒ金」(おもいかね)と呼ばれる金属は、念を増幅させるという作用があり 逢金師達に最も珍重されていが、この金属は特定の念波を発しており非常に稀少な上 「呼応者」といわれる念ヒ金の念波を捉えることの出来る一部の者のみにしか 見出す事が難しいとされていた。 それゆえ逢金師や探金衆達は念ヒ金に最も愛でられた呼応者を 「逢児」――互いに引き合う逢うべき児等――と畏敬の念を込めてと呼び習わしていた。 ……ズウゥ……ンンン… (…ン?地震…か?) 足元から揺す振るような振動を感じ、男は岩を掘る手を休めた。 普段感じているリセット時の振動とは全く違う…そうまるで何かを爆発させたような… 「オイ、とーう…」 ボコッ!ガラガラガラッ…… 男が側にいる少年に声をかけようとした途端岩盤の一部が急に崩れ落ちてきた。 「くぅ〜痛ってぇιあ…危ねェなァ〜もうιナンで崩れるかなァ…」 小石が当ったのだろう。少年はその場にしゃがみ込んで頭をさすっていた。 「……オメェが鉱脈に沿って掘らなかったンじゃねェのか」 ったくこのオッチョコチョイがと、ブツブツと呟く少年の頭を軽く小突くと 男は立ち上がりながら腰を伸ばし、懐から取り出した懐中時計を手元のカンテラの灯りにかざすと 少し目を細める様にしてソレを読み小さく舌打ちをして懐に戻した。 「チッ、もうコンナ時間か…じきに八時になりやがる。おい小僧そろそろ上がりにするぞ。 今日は調子に乗って少し深く潜り過ぎちまったからナ」 「師匠ぉ〜。俺にも親から貰った名前があるんスから…… ちゃんと名前で呼んでくださいってあれほどお願いしてるのにぃ…」 「へっ。小僧を小僧と呼んで何処が悪ぃ……!?」 ドオォォォォォォォォォォォォォォーーーーーン!! ゴオオオオオオオオオオ―――――――――――――― 突然今までに経験した事のない程の振れと熱風が襲いかかってきた。 岩盤の弱い部分がガラガラと崩れ落ち二人に降り注ぐ。 2つのカンテラの灯りが倒れた拍子に同時に消え、 暗闇と共に辺り一面砂埃がたちこめて視界は遮られた。 「うわぁっ!」 「馬鹿野郎ッ!頭下げてろッ!!」 (何があった?どっかの阿呆が発破でもかけやがったのか?発破?この地下で?そんな馬鹿な!!) 少年を庇う様に覆い被さり身を硬くして振れが収まるのを待つ間中、 男の脳裏を疑問と否定ばかりが堂々巡りをし続けていた。 10分…いや時間的にはそれほど経ってはいないのだろうか… 振動と崩落が鎮まるまでがやけに長く感じられた。 砂埃が消え始めると男はゆっくりと頭を上げて辺りをうかがい、 もう岩が落ちてこない事を確認すると体を起こし 自分の下で体を縮み込ませていた少年に声をかけた。 「…おい東雲怪我ァねェな?」 「…ぁι痛たた…ιえ?あ…は…はいιえーと…な、無いみたいです。 ちょっと擦っただけで…ι師匠こそ大丈夫ですか?」 倒れこんだ時に擦ったのだろう。少年は鼻の頭をさすりながら答え返してきた。 「…そうか。俺もナンともねェよ」 男はホッとした様子でカンテラを拾い上げた。 見るとガラスにヒビが入ってしまっている様だが使用には差し支えは無いようだ。 2つのカンテラに灯りを灯し直すとその内の一つを少年に渡した。 「ったくナンだってェんだ…おい!いいか小僧。お前ェはココで誰でもいいから連絡を取れ。 こんな時間だが誰か一人くらいは残ってるだろう」 男はそう言いつけると少年の腰に下げてあった配音環を外して少年に握らせながら立ちあがった。 「し、師匠は?」 「俺は何があったか調べに行ってくる。 ナにか少しでもおかしな事があったら俺にすぐ連絡しろ。いいな?」 「えιあ…えっとιその…ι」 「判ったのか!!」 「はッはいぃぃ〜ι!!」 慌てふためいている少年を一喝すると 舌打ちながら男は――岩城 團蔵はその熱風の吹き上がった方向へと走っていった。 |