初鯉は除夜の鐘と共に…

 昭和天皇崩御の御年、昭和63年、私の初釣りは恒例の『行く年来る年』で始まった。寒風吹きすさぶ真冬の星空の下、野宿をしながらの非常識な釣りである。今年でもう、7回目となるが、今回は、坪内氏、川島氏との3人で、12月以来好調の長良川名神高速上流左岸砂取り場で行った。

 まず29日に、坪内氏が少し遅れて隣に入り、深夜に40cm〜71cm迄、連続5匹の釣果。その間、私のほうは、只1回のアタリすら無し。

 30日は、昼に前線が抜けたあと、強烈な西風が吹き荒れ、テントや竿を吹き飛ばされそうになりながらも辛抱したが、釣れたのは50cmにも満たない小型が4匹。

 31日は少し風も収まり、西風そよ吹く絶好の冬日より、しかし待てど暮せどさっぱりアタリ無し。昼から水門川の様子を見に行って戻ると、ロ−プに繋がれているのは70cmのよく肥えた鯉。聞けば、私が出かけて30分ほどしてアタリが出たのを、川島氏が釣り上げてくれたとのこと。

 結局、この日はこれだけで、他にアタリ無し。

除夜の鐘がなりだしたところで、坪内氏のキャンピングカ−の中で、年越しそばを御馳走になり、3人で口角泡を飛ばして釣り談義。喋り疲れたところで、ふと竿のほうを見ると、何やらアタリの気配。川島氏が様子を見に行き、途中で私を大声で呼ぶ。

「それ、来たぞ!!」と、柔らかい砂の上を駆け出したが、150mもの距離を竿迄辿り着いたときは、もう青息吐息。

 一番上流の落ち込みの際に打ち込んでおいた竿を手に取ると、確かな重い手応え。新年の初物ゆえに、慎重にじっくりと寄せにかかると、かなり良型の気配。ゆらゆらと、右へ行くでもなし、左に行くでもなし、首を振りながら、水面に顔を出した奴は、思ったより型がよい。

「ありゃ、これは、80cmオ−バ−ですよ!!」と、思わず声が出た。

「痛っ、また高橋さんに、やられちゃった。」とは、川島さん。

 慎重に、手カギで取り込んだ奴は、先月の90cmより更に幅広の雌で、長さは同じ90cmながら、12kgもある大型。

「おめでとう、やったね!!」と、手を差し出す坪内さん、川島さんと、次々に握手を繰り返して、初鯉の大釣果に酔い痴れた年明けだった。

 ちなみに、時間は、まだ除夜の鐘もなり止まぬ、午前1時15分。

今年の初日の出は、雲一つない快晴の中、すばらしい輝きを増して見えた。