北海道
私たちの修学旅行先
美しい景色に美味しい食べ物、いろんな魅力が詰まったところ
たくさんの楽しい思い出をくれるところ

もちろん私にとっても・・・


しゅうがくりょこう☆(後編)


 きれいだなぁ。

 私は、ホテルの屋上から夜景を眺めていた。

 浩之ちゃんといっしょに見たかったのになぁ。
 もぅ! さっさと一人でどこかへ遊びに行っちゃうんだもん。酷いよ。
 散々探し回ったのに全然見つからなかったし・・・。

 「はぁ〜」溜め息を付きつつ、私は昼間のことを思い出していた。

 でも、今日は楽しかったなぁ。


 今日は自由行動の日。
 私たちは当然のようにいつもの四人組で観光に出掛けた。
 もっとも、端から見れば二組のカップルに見えたかもしれないけど・・・。
「ねぇねぇ、浩之ちゃん。あれ見て」
「ん? どれだ?」
「ほら、あのお土産屋さん」
「土産屋? ・・・って、もしかして」
「うん。あそこに置いてある・・・」

 ペシッ☆

 言い終わる前に浩之ちゃんが『ツッコミ』を入れてきた。

「う〜〜〜。いきなり何するの〜〜〜?」
「あのな〜。なにかと思えばしょっぱなからクマかい!」
「えっ? 可愛いと思わない?」
「いや、可愛いとか可愛くないとかの問題じゃなくてさ」
「?」
「はぁ〜〜〜。まぁいいや。そういや俺たちって今どこに向かってるんだっけ?」

 浩之ちゃんは大袈裟に溜め息を付くと、私に聞いてきた。

「あれっ? 出掛ける前に説明しなかったっけ?」
「あん時はまだ半分寝てたからな〜」
「しょうがないなぁ」
「わりぃ」
「今から行くのはクマグッズの専門店だよ」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「だから〜、クマグッズの・・・」

 ペシッ☆

「結局クマかい!?」
「う〜〜〜」

 今日二回目の『ツッコミ』

「イヤだった? それだったら別のとこにしようよ」

 私はバッグからガイドブックを取り出した。

「え〜と、ここからだったら・・・。あっ!?」

 いきなり本を取り上げられた。ちょっとビックリ。

「ったく誰がイヤだなんて言ったよ。行こうぜその店に」
「で、でも」
「クマグッズ専門店なんてあかりの為にあるようなもんじゃねぇか。なのにそのお前が行かなくてどうすんだよ」
「いいの?」
「決まってんだろ。さっきのだって、冗談でお約束の『ツッコミ』を入れただけじゃねぇか。その程度の事も分からないようじゃ『藤田浩之研究家』として、まだまだ甘いな」
「そ、そうだね。えへへ。もっと頑張らないといけないね」
「よっしゃ! それじゃ今日はクマグッズの海で溺れるとしますか。気合い入れてけよ、あかり!!!」
「うん!!!」

 そしてお互い顔を見合わせて「プッ」と吹き出した。

「あかり。お前はもっとわがままを言う事を覚えろ」

 でも浩之ちゃんはすぐに真剣な顔になってそんな事を言い出した。

「浩之ちゃん?」
「俺は、あかりにもっともっと甘えてきて欲しいんだよ」
「・・・・・・浩之ちゃん」
「それにさ、前にも言ったろ。あかりの願いを全部叶えてやる事が俺の願いだって」
「・・・・・・・・・・・・」
「そして、あかりの喜ぶ顔を見る事が俺にとってなによりの喜びなんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、つまらない遠慮なんかするな」
「(ポ〜〜〜〜〜〜)浩之ちゃん」
「分かったか?」
「・・・うん。ありがとう」
「ば〜か。礼を言われる事なんかしてねぇよ」
「そんなことないよ。私、凄く嬉しい」

 潤んだ目で浩之ちゃんを見つめる。
 志保たちがいなければこの場で浩之ちゃんに抱きついていたかもしれない。
 そう、志保たちが・・・・・・・・・・・・志保?

 いっけな〜い!!! 志保と雅史ちゃんの存在をすっかり忘れてた!!!
 こんな会話を志保に聞かれたら・・・

『あんたたち恥ずかしい会話してるわねぇ。でも「特ダネゲットだぜ!!!」ってとこね。帰ったらさっそく志保ちゃんネットワークで流さないと。インターネットで世界中に発信っていうのもいいわね。ん? なに? やめろって? 冗談でしょ。こんなおいしいネタを逃すわけないじゃない。でもね、あたしも鬼じゃないし。そうねぇヤックグルメ一週間食べ放題で手を打ちますか』

 な、なんて事になるかも。
 私はおそるおそる志保たちを振り返った。
 浩之ちゃんも『しまった』という顔で振り返る。

 ・・・・・・・・・・・・あれ?

 志保と雅史ちゃんは随分と真剣な顔をして話をしていた。
 私たちが振り返った事にも気が付いていないようだ。
 とても私たちの会話を聞いていたとは思えない。
 取りあえず一安心みたい。
 私と浩之ちゃんは顔を見合わせて『ホッ』と安堵の息をついた。



 それからしばらくして、私たちはお目当てのお店に到着した。
 私は浩之ちゃんと二人でいろいろと見て回った。(志保と雅史ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。どうしたんだろう?気を使ってくれたのかな?)
 店内ではどっちかっていうと、浩之ちゃんの方がはしゃいでいたかな?
 帰り際にそのことを言ったら「あかりに合わせてやったんだよ」なんて返事が帰ってきた。
 浩之ちゃんったら嘘ばっかり。あれは絶対に自分が楽しんでたよ。





○   ○   ○
       





 くすっ。楽しかったなぁ。
 昼間のことを思い出すとつい笑みが零れてしまう。


 う〜〜〜ん、夜風が気持ちいいな。
 でも、いつまでもここにいるわけにもいかないし。そろそろ戻ろうかな。
 そう思った時・・・


 !!!


 いきなり誰かに後ろから目を塞がれた。

 な、なに!? なに!?

 私の頭の中では ! と ? が飛び交っていた。

「だ〜〜〜れだ?」

 かなり作られた声だった。でも私にはすぐに分かった。

「浩之ちゃん☆」
「ピンポンピンポ〜〜〜ン! 大正解!!!」

 振り返るとそこには満面の笑顔の浩之ちゃんがいた。

「もぅ〜〜〜。ビックリしちゃったよ」
「そりゃそうだ。驚かせようとしたんだから」

 もう、しょうがないなぁ。

「まったく。見つけるのに苦労したぜ。散々探し回っちまったぜ」
「えっ?そうなの?私も浩之ちゃんのこと随分探したんだよ」
「は? あかりも?」
「うん」
「二人して思いっきりすれ違いをしてたってわけか?」
「そうみたいだね」
「なんだかなぁ」
「ふふふ」
「でも最後には、こうやってちゃんと会えるんだよな」
「うん、そうだね」
「運命ってやつなのかも知れないな」
「もちろんだよ。私と浩之ちゃんは絶対に離れられないの。誰にも引き裂くことなんて出来ないの。そういう運命なんだよ」

 浩之ちゃんが冗談めかして言った言葉に、私は真剣な顔をして答えた。

「お前って、相変わらず恥ずかしいことを平気で言える奴だな」

 呆れたみたいに言いながらも、そっと私の体を抱き寄せてくれた。

「恥ずかしいかな? ただ正直な気持ちを言っただけなんだけど」

 答えながら、私も浩之ちゃんの背中に腕を回した。

「恥ずかしいって。でも、あかりのそういう言葉。結構嬉しかったりするけどな」
「そう?」
「あぁ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

 しばらく無言で見つめ合ってから、私はそっと目を閉じた。

 唇に柔らかな感触。

 浩之ちゃんが強く抱きしめてきた。
 私も腕に力を込める。



 私は今、世界で一番幸せだった。








○   ○   ○








 ん〜〜〜〜〜〜〜〜、いい天気!!!

 雲一つない青空。
 絶好の修学旅行日和だね。

 よしっ! 出発っと!!!



 トントン

「浩之ちゃ〜〜〜ん、起きてる〜〜〜?」

 トントン

「ひ〜ろ〜ゆ〜き〜ちゃ〜〜〜ん」

 ドタドタドタ
 ガチャ!!!

「だ〜〜〜!!! 旅行に来てまでやるんじゃねぇ!!!」
「ご、ごめんね。つい癖で・・・(^^;」
「どんな癖だ!?」

 ヒュ〜ヒュ〜
 お熱いねぇ
 よっ、オシドリ夫婦!!!

 部屋の中から様々な冷やかしの声が聞こえてきた。

 う〜〜〜、恥ずかしいよ〜〜〜〜〜〜。
 私は自分の取った行動を思いっきり後悔していた。

「え〜〜〜い、うるせ〜〜〜〜〜〜!!! 行くぞ、あかり!!!」

 バタン!!!

「ふ〜〜〜。まったくしょうがねぇなぁ、あいつらも」
「ごめんね。私のせいで」
「ん?別に気にしてないぜ」
「でも・・・」
「本当に気にしてないって。いいじゃねぇか、堂々としてれば。俺はあかりと付き合っていることを隠す気も無いしな」
「浩之ちゃん」
「それともあかりは、俺と付き合ってるのがばれるとやばいのか?」
「そんなことあるわけ無いじゃない。私はみんなに自慢して回りたいぐらいなのに」

 私はきっぱりと言い切った。

「う〜〜〜ん、それはちょっと勘弁な」
「くすくす。しょうがないなぁ」



「おはよう。浩之、あかりちゃん」

 あ。雅史ちゃん。

「おはよう。雅史ちゃん」
「オッス。お前って、いっつもいい時に来るんだな」
「えっ?」
「なんでもねぇよ。さ〜〜〜ってと、あとは志保の奴が来れば・・・」
「ヤッホ〜〜〜〜〜〜〜〜!!! グッドモ〜〜〜ニンッ!!!」

 志保ったらなんて絶妙な・・・。
 あっ! 浩之ちゃん「出てくるタイミングを見計らってやがったな」って顔をしてる。

「ウッス!」
「おはよう、志保」
「おはよう」
「な〜〜〜によ、そのしけた挨拶は!!! こ〜〜〜んな良い朝なんだからもっとテンション高めていかないとダメじゃん!!!」
「だ〜か〜ら、お前が高すぎなんだよ。このお祭り女が」
「な、な、な、な〜〜〜〜〜〜んですって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
「んだよ、ほんとの事じゃねぇか!!!」
「まあまあ、二人とも(^^;」

 そのやり取りを笑顔で見ていた雅史ちゃんが志保に囁いた。

「なんとか、吹っ切れたみたいだね」

 そんな言葉が微かに聞こえた。
 志保は雅史ちゃんに向かってVサイン。
 ??? なに?

「おい、何の事だ?」

 浩之ちゃんも不思議そうにしている。

「気にしない気にしない。それよりも、ほら! さっさといきましょ!!!」

 ちょ、ちょっと志保!?
 その志保の後を穏やかな笑顔を浮かべてついていく雅史ちゃん。


「なんなんだ? あいつら」
「さぁ。何かあったのかな?」

 私と浩之ちゃんは頭の上に?マークを乗せたまま、しばらく顔を見合わせてしまった。

「ま、いいか。下手な詮索はよそうぜ。あいつらに悪い」
「うん、そうだね」
「さってと。それじゃ俺たちもいくか!」
「うん!」








 今日も楽しい思い出が作れるかな?
 たくさん素敵なことが起こるといいな。


 私と浩之ちゃんの修学旅行。
 まだまだこれからが本番だった。

Hiro



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