私立了承学園第468話
「眼鏡っこ純情」
(作:阿黒)





注:タイトルに偽りあり。






















      辞  令

  柳川祐也

 学園警備部臨時協力員を嘱託する。
 兼ねて一般業務を命ずる。
 賃金日額 3,890円を給する。
 委嘱期間は本日を含め三日間とする。

平成○年○月○日

        学校法人 了承学園
       理事長 水 瀬 秋 子


 書面を二回、読み返して。
 目の前で座っている秋子理事長に、とりあえず柳川は疑問をぶつけてみた。
「日額3,890円って、なんでこんな半端なんです?」
「それはその…予算の都合というものです」
 多少、歯切れ悪い口調でそう答える理事長からもう一度書面に視線を移し、柳川はしばし間を置いてから質問を再開した。
「で…結局何なんです?臨時協力員とは?」
「先日、警備部の方から労働条件の改善について要望が出ていたのはご存知でしょう?」
「ああ。ガディム教頭が拉致緊縛されて三日ぐらい放置プレイされたアレですか」
「そうですが…論点はソコではなくて」

 たしかにこの場の論点からはズレているが、さらっとスルーするのも如何なものか。
 職員室の端っこで、巨体を丸く縮めて忍び泣く魔王が一人。

「まあ、見直しや改正というものは適宜に必要でしょう。……ですが、何故それが協力員?」
「率直にいいますと、警備部の改善要求の中で柳川先生に関するものがかなりの割合を占めておりまして。…具体的には警備部の仕事の3分の1程は柳川先生とメイフィア先生の夫婦喧嘩に関連するものですから」
 つまり、被害の拡大をできるだけ抑え、生徒・職員が巻き込まれるのを防ぐのがその際の警備部の主な仕事である。ちなみに制圧・沈静化は既に不可能と判断されている。というか焼け石に水っぽく。
「………理事長?」
「はい、なんでしょう」
「その…夫婦喧嘩という表現は、不適切では?」
「あら?お二人は事実上そういう関係だと伺ってますが」
「それはキッパリと誤解で間違いで事実に反しますので見解に対して訂正を求めます!」
「そうなんですか?……お二人は教員寮の屋上で朝から愛を確かめ合った仲だと聞いていたのですが」

 ぐふうっ。

 思わずちょっぴり吐血なんかしちゃう柳川である。
 そのまま辛うじて平静を装った声で…おずおずと、問う。
「………どこから………そのようなことを?」
「どこからも何も。…あんな所でそういうことをやっていれば、普通、誰か気づきますよ?」
 思わずバッ!と後を振り返ると、慌てて目を逸らす教職員たちがチラホラと。
「…騒がれないように口にタオル突っ込んで両手は縛っておいたんだが…」
「そういうちょっと生々しいコトは後で伺うとして」
 微妙に気になることを言ってから、やや姿勢を改めて秋子は柳川を見た。
「無論、警備シフトの改善やその他細々とした待遇改善についてはラルヴァの皆さんとも話し合って、是正すべきところは直していきたいとは思っていますが即座に、というわけにはまいりません。
 そこで――当面、早急に改善が求められ、また実行が可能な問題点としてですね」
 そう言って、秋子は手元の資料に目を落とした。

「――ウェディングプラン。
 50名様 ¥1,500,000 <追加料金1名様¥19,000>」
「……本気で何なんですかそれは?」
「あ。…あらあら。
 ごめんなさい、こっちは別件。
 ――また後で詳しくご相談しましょうね?」
「後で?詳しく!?」
「後で後ほど詳しく詳細にご相談しましょ☆」
「なんで目を逸らすんですか理事長!?というか何だかすっごい楽しそうだし!?」
「……仲人って、一度やってみたいと思ってるんですよ。祐一さんと名雪たちの結婚式の時は私は親族ですし」
「先走らないでくださいっ!キッパリとお断りいたします!!」
「そんな話も聞かずに!?それはあまりにも横暴だと思いますおーぼー!」
「拗ねないでください!だからそんなかわいく指なんか咥えてもダメです!!」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 年甲斐もなく…というか。
 少し拗ねたように軽い上目遣いでこちらを見る秋子は、ほとんど名雪と変わらないというか。
 アナタホントニ高校生ノ子持チデスカ?とか。
 大抵のワガママならつい、受け入れてしまいそうな可愛らしさが男の萌えを誘発する。

(ぐっ……!)

 ギリッ、と歯を食いしばり、柳川は多く一つ、息を尽いた。
 咄嗟に唇の端を自ら噛み切り、その痛みで危うく蕩けかけた理性を繋ぎとめる。
 口の中に滲み始めた血をぐい、と飲み込む。

「ほらほらゆーちゃん、お料理はフランス料理、日本料理、折衷料理のいずれか¥12,000相当ってまあお手ごろじゃないかな?って思うの」
「誰がゆーちゃんですかひかり校長―――――!!!?」

 もがけばもがくほど深みに嵌ってゆく底無し沼に足を取られた悲痛な男の叫びが、孤立無援に響き渡っていった。

  * * * * *

 さて。
 学園警備部臨時協力員。
 砕いていえば、体の良い『パシリ』である。
「何でもいい……あの年齢詐欺な二大巨頭のステレオ攻勢から逃れられるなら何だって構わん…」
「ハア……ソウデスカ」
 中央警備室の壁にもたれてグッタリしている柳川に、主任である黒ラルヴァがやや安全距離を置きながら応じた。
 オペレーターを勤めるHM−13型が3人。それ以外にこの中央警備室に警備ラルヴァは主任を含めて常時8体が詰めている。通常、何らかの騒動が発生した場合、最寄の詰め所から警備ラルヴァは出動し、その指揮をこの中央警備室はとるが、それを抜きにしてもやはり実働人員は常に控えている。
「――しかし何とかしないと。放っておいたら知らぬ間に披露宴案内状の図柄まで決められてしまいかねん…」
「ハハア。積悪ノ報イデ仕方アリマセンナァ」
「何か言ったか?」
「………イエ………何モ……」

 それは、確かに。

>オニメガネ君モ呼ンデコイ!俺ハ奴ニ、
『パン買ッテキテ。領収書ノ宛名ハ了承学園警備部デ。』ッテ言ッテヤルノガ夢ナンダ!!」

 なんて不満と欲求は少なからず存在するわけではあるが。(前話参照)
 だがその権利を与えられたからといって、いざそれを行使しようと思っても。
 まあほら。
 あれだ。

 ――後が怖い。
 っていうか、そんなコト言った途端に頭蓋骨を粉砕されそうな。

 じ〜〜〜〜〜〜〜っ。
 じ〜〜〜〜〜〜〜っ。
 じ〜〜〜〜〜〜〜っ。

 ――誰かが先陣を切って。
 ――誰かが手本を示してくれれば。

 そんな部下達の無言の圧力に包囲されて、黒ラルヴァの肩はズッシリと重くなった。
 ストレスメーター、レッドゾーン突入。

 ――もし、キレられたらギッタギタのグシャマンにされるのは自分一人で済むだろうし。

 何の事はない。主任だの上司だのと言っても、貧乏クジを引かされる責任を押し付けられる、体の良い生贄。
 ただ主任というだけで、上からも下からも。

「コレデ真面目ニ仕事ナンカシテラレッカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ザケンナ!!世ノ中ニハ『不可能』ナ事モアルンダヨ!!!安易ナ精神論デ何トカナルナラ日本ハ戦争ニ負ケトランワ!!!」
「自分デハ努力モ苦労モシテナイ事ヲ他人ニ押シ付ケルナ!!」







 ……なんて大声で言えたらどんなにか。
 溢れる涙が零れないように、じっと天井を見上げる黒ラルヴァであった。

「おい。なんかつまらない雑用でもいいからすることは無いか?無為に時間を浪費するのも結構辛いんだが」
「ヘ?」

 ――これは天恵というものだろうか。
 小さく欠伸を噛み殺しながらぼやく柳川を、信じられない思いに打ち震えながら黒ラルヴァは見た。
 今。
 今ならば。
 この極悪ヤクザ教師(目つき悪い)に鼻ほじりながらパシリの定番『ジャワティー買ってこいや』の台詞を叩きつけることも可能!?
 ラルヴァに鼻があるかどうかはともかく!!

「デ…デワ?」
「ああ」
「ジャ…ジャ…」
「?」
 部下達が固唾を飲んでこのやりとりを見つめている。
 結局言い出せずにヘタレになるか。
 それとも、大いなる勇気をもって英雄となるか。
 正に、ここは、正念場。

「ジャ…ジャ…ジャ、ジャワティー買ッテクレ、クレヤガレヤァァァァァァァァ!!!?」

 俺は今…英雄になる!!!

「ハイ、ドウゾ」
 しゅぱっ。
「ハイ?」
 目の前に差し出された缶紅茶をなんとなく黒ラルヴァは受け取った。
「……マイン?」
「ハイ」
 いつの間にかいつもの定位置に控えているHM−12型メイドロボは、主人の怪訝そうな視線を真正面から受け止めた。
「お前、何故、ここにいる?」
「何故ト申サレマシテモ」
 いつもより、やや小さな声でマインはそっと柳川を見上げた。
「私ハ、柳川様ノメイドロボットデスカラ」
「それがどうした?」
「デスカラ…柳川様ハ私ノ主人ナノデスカラ、些事ハ私ニ御任セ下サイ」
「いやあのな、それじゃ本末転倒というか、今回の人事の意味が無いだろ」
「…………」
 少しだけ、叱るような口調の柳川に、マインは俯いた。
「…デモ…」
 更に深く俯いて、それこそ蚊の鳴くような声で、マインは呟いた。
「ソノ…私…本当ハ…心配デ……ヤ、柳川様が、その………警備部の方達に…。
 い、……いじめられてるんじゃナイか、っテ……そ、ソレで、ソノ……」

 くっ。

 一瞬、柳川の顔に浮かんだ表情の意味を理解しえた者はいなかったろう。

「アノ…却って、ご迷惑ヲ……?」
「え?いや、それはないと思うぞ。うむ。いや、結構、助かってる。かも」
 笑いを堪えながら、必死に厳粛そうな表情を取り繕う柳川である。

「イジメルッテ」
「イジメラレテルノハコッチノ方…」
 どうやら本気でそんなムダな上に見当違いも甚だしい心配をしていたらしいメイドロボに何だか思考が3周くらいループしたような疲労感を覚え、ラルヴァ達はそれぞれグッタリとへたり込んだ。

  * * * * *

「エート。御茶…」
「ドウゾ」

「誰カー。机ノ上片付ケテー」
「今、片付ケマスー」

「アー。部屋ノ掃除デモ」
「今ヤッテマス」

「アー。肩凝ッター」
「ア、マッサージ、イタシマショウカ?」

「……。
 ソ、ソレジャア、昼ノ買出シ…」
「御弁当、皆サンノ分モ作ッテ来マシター」

 ……………。
 マッタリと食後の茶などいただきながら、黒ラルヴァはホウ、と息をついた。
「御茶、御注ギシマショウカ?」
「ア、ハイハイ」
 
 は〜〜〜。
 マッタリマッタリー。

 …………………。
 …………………。
 …………………。

 はっ。

(なにマッタリくつろいでんですか主任!)
(う、うるさい!お前らだってノンビリゆったりやってるだろ!?)

 精神感応でラルヴァたちは交信した。本来、人間の言語を使うにはあまり適さない声帯を用いた会話のやりとりに比べれば、意思疎通はずっと速やかでクリアーである。
 何といっても、ラルヴァ以外の者には聞かれる怖れが無い。

(どーすんですか一体!?このまんまじゃ折角の権利も宝の持ち腐れですよ!)
(いやまあ…楽なことは楽なんだけどね。あのメイドロボのお陰で)
(うーむ。この働き者めッ!!)
(宿直室の掃除はどうした?)
(既に終わってます。布団もしっかり打たれて干されてるし)
(親父油で汚れたパッドも綺麗にクリーニングされてます)
(ついでに中身とケースがバラバラになってたゲームソフトもきちんと戻されてCDラックに)
(主任!ゴミの分別もしっかり終わってます!)
(茶渋がこびりついてた茶碗がピカピカに!)
(ど、どうしましょう!?三時のお茶菓子に手作りケーキが用意されているのを確認しました!)
(手作り…家庭料理なお弁当なんて初めて食べたような…思ったよりおいしいし…)
(す…隙が無いっ。死角無しですっ)
(マッサージも極楽です。…あのメイド、経絡秘孔を心得えまくってやがります!)
(ぐわぁ…ホント、どうしてくれようこの働き者め…!!)

「――おい、お前ら?」
「「「「「エヒャイイッッッ!!?」」」」」

 図ったように揃って飛び上がったラルヴァたちを、柳川は物珍しげに――まあ実際、珍しくはあるだろうが――見た。

「何なんだお前等?一様に黙り込んでる割には翼はばたかせたりシッポうねらせたりで、なんかゴソゴソうるさいし」
「イ、イエ、ソノ」
「脳が悪いのか?…あ、そっか、脳くらいあるよな。ウン」
 一旦、自然に頷いて。
 柳川は、少し不審そうに尋ねた。
「……あるよな?虫みたいにハシゴ状神経系じゃないよな?」
「切ナクナルカラソーイウ事、真剣ニ尋ネナイデ下サイ」

 冗談でも悪意でもなく、素でそう尋ねてくる柳川にそう応じつつ、感応による話し合いは続いている。
(!雑誌でも買ってこさせるとか!?流石に今日発売の少年チョップを用意してるなんてことは)

「御暇デシタラ、雑誌デモ御覧ニナリマスカ?」
「いつもながら用意良いなあお前。…お、チョップとマシンガンあるな」

(なんでお前そんなマメで気がきくんだ―――――――!!!?)
 勤労とか奉仕とか気配りとか滅私奉公とか、そんな言葉が嫌いになりそうなラルヴァ達であった。

(フ…フフフフフ…そっちがその気ならもう手段なんか選んじゃいられませんよな?)
(な、なんだよお前…目、据わってるぞ?)
(エロ本)
(あ?)
(エロ本買ってこさせる!幾らなんでもそんなもんは用意しとらんだろうから、買いにいかなきゃならんわな!)
(ふむ。……鬼メガネに買いに行かせるもよし、メイドが行っても隙ができる…どちらに転んでも損は無い!)
(イヤデモ…それ、セクハラ?)
(うるせぇ!大体フェミだのジェンダーフリーだのやたらめったら声高に言い立てる奴等なんて偏執的で偏狭な被害妄想が強くて権利ばかり要求する程度の低いオバハン団体じゃねえか!んなもんに踊らされてハマってんのは自称良識派だのなんだのと奇麗事ばっかほざいてる腑抜けだっつーの!お、おらぁ…おらぁ負けねえぞ、う、うふふ、うふふふ…)
(いやお前…。いやもういいから。任せるから)
(よっしゃ!んじゃあ…)

 なにやらともかく大いなる勇気とか決意を固めた緑ラルヴァがずい、と前に出かけた。
 だがそれより一瞬、いや半瞬前に、マインがなにやら括った雑誌の束を重そうに持ち上げた。

「トコロデ、宿直室ヲ掃除中ニ…コノヨウナ古雑誌ヲ大量ニ見ツケタノデスガ」

 他の雑誌等の束に比べてやたらと厳重にこよりで縛られたその隙間から、雑誌の表紙の一部か垣間見えた。

 巨乳の(以下略)

「コレ、………捨テテイイデスヨネ?」
「――エ」
「捨テテイイデスヨネ?」
「ア。エ〜〜〜〜〜〜ト………」
「捨テテ、イイデスヨネ?」

 ラルヴァ達は、マインの後にいる柳川に視線を向けた。
 それを受けて柳川は―――きまり悪そうに、ゆっくりと頭を振る。
 心なし、顔色が悪かった。

「ア…エト………」
 小さく緑ラルヴァが頷くのを確認し、どこか冷ややかな雰囲気をしているマインはそれを焼却用と書かれた分別カゴにあっさり放り込んだ。

「「「「「シクシクシクシクシク……」」」」」
「泣くな。いやまあ、男としてお前等の気持ちもわからなくはないが」
 似合わぬ慰めの言葉などかけながら、柳川はまだちょっと遠慮がちな目でマインを見た。
「………フゥ」
「――?」
 有り得ないのだが――どこか、疲れたように、ぼんやりしているように見えるマインの様子に、何かひっかかるものを感じた時。

 ビ―――――――!

 耳障りなブザー音と共に、警備室の一角のモニターが赤く染まった。
「――学園本校舎裏手より非常警報。幼児虐待を行う不審者アリとのこと。詳細は不明」
 こちらのやり取りには最初からまったく関わりになろうとしなかったオペレーターのHM-13型が、簡潔に報告を行う。

「一斑、通常装備デ緊急出動!!二班ハバックアップノタメ待機、各詰所ニ連絡、シフトLv5ヨリLv3ヘ移行!
 現場ノ状況ハ!?」
「最寄の監視カメラ及びセンサー群、何らかの干渉によって機能障害を起こしつつあります。
 可能性としては過去のケースより何らかのパワーによる影響が考えられまが」
「パワー、トハ?」
「72.2%で、魔力」
 最初の自動警戒システムによる通報から徐々に機能麻痺を起こしていくシステムの様を簡潔な状況図としてモニターに表示しながら、3人の13型は1人のようにそれぞれの分担から得られるデータ、及びそれに基づく推測を主任である黒ラルヴァに報告する。
「付近ノ生徒及ビ教職員ノ確認ハ?」
「周囲100メートル圏内には不在。但し事件発生前に見学者2名の存在が確認されています。…データ出ました。被害者はこの見学者2名と思われます」
「1班!準備ハ!?」
「転移魔法陣準備ニ入リマス」
 赤・青・緑。それぞれ炎・水・風の属性を持つラルヴァ3体を警備部では1つの班として編成し、現場に投入する。大概のケースにはこれである程度は対応できる目論見によるものだ。
 術者、あるいは魔法瓶使用者が自分がよく知っている場所でなければ転移先を指定できないシュインの魔法と違い、千里眼と組み合わせたこの非常用転移魔法陣は学園内であれば強固なプロテクトが施さた施設でない限りおおよそほとんどの場所に、速やかに突入班をダイブさせることができる。
 まず一斑で相手を止め、更に状況に応じて控えの二班を投入、あるいは各詰所から増援を編成し対処、事態の収束を図る。
 これがラルヴァ警備部の基本態勢であった。

「みゅーじっく・すたーと」
 オペレーター娘の1人がポチッとな、とコンソールのボタンを押す。

 ♪ワンッダバダダッ ダバダダッ ダバダダダババッ
 ♪ワンッダバダダッ ダバダダッ ダバダダダババッ

 怪獣退治の専門家の出撃テーマとしてあまりにも有名すぎる曲だが、やはり、これがないと治まらない。様式美というものも、大切なこともある。

「ヨーシ出撃……ット。柳川先生?柳川先生ドコー?出番デスヨ仕事デスヨ?
 コーイウ事ハ得意ッテイウカ、押シ付ケチャッテモ全然OKデスヨネー?」

 キョロキョロとラルヴァ達は、今更のように辺りを見回すが…目的の人物は(ついでにそのメイドロボも)見当たらない。
 と、オペレーター娘たちが、なんでもなさそうに言ってきた。

「…裏庭だったら魔法陣準備するより走った方が早いって、さっさと行っちゃいましたが。マインさんも一緒に」
「実際その通りですからね。…主任、緊急出動の意味、わかってます?」
「あ、今、到着したみたいですよ」
 攪乱範囲外からのセンサー群からのデータにより、『UNKNOWN』と表示される目標とパターン青で表されている柳川が接触したことを、モニターの概略図が示していた。
「…………………。
 ト、トニカク出動!」
「起動詠唱終了まであと25秒」
「ウ、ウワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

 



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