定価2,800円。
低価格ソフトであるだけに、どうしてもゲーム性は薄まります。やむを得ないことでしょう。
では、ゲーム性の代わりとなりえるのは何か? どの部分で補うべきか。
それは、キャラクターだと思います。
で、『妻みぐい』ですが……
十分合格点ではないでしょうか。
メインの香苗・千穂はもちろんですが、脇を固めるサブキャラたちが非常に魅力的です。
誰か一人が欠けても『妻みぐい』の世界は成立しない。
そう思わせてくれるパワーがありました。
……特にステファニー。
それにしましても、妻がメインのゲームなのに、さりげなくロリ要素まで含めているのは心憎い限り。
九ノ美の立ち絵(裸)を保存した人は多いことでしょう。
この辺の隙の無さが、老舗の老舗たる所以かもしれません。
ところでこのゲーム、何気に音楽が良かったりします。
派手さはないのですが、ゲーム本編の持つ優しさと温かさを崩さない、落ち着きのあるしっとりとした雰囲気の曲に仕上がっています。
さすがはShadeさんといったところでしょうか。
この作品、実は18禁ゲーム初心者の入門用(笑)に相応しいのでは? なんて思いました。
安さ、高いエッチ度、程々の攻略性。
いきなり敷居の高い作品(例:大悪司)から入らずに、ここからスタートするというもの悪くないかもしれません。
もっとも、このレベルを基準にしてしまうのは、ちょっと困りものではありますが。
世の中には8,800円もするのに……(以下自粛)
(一押しキャラ)
香苗と千穂……二人とも本当に良いです。
どちらかを選ぶなんて、そんな酷なことはないでしょう。
でも、敢えて選ぶとするならば……千穂。
最終日前夜の酔っぱらいイベントが可愛すぎましたので。
……だけど、やっぱり香苗さんも……
おまけSS お約束的Hiro流世界観妻みぐい
『夢か現か』
この俺、津崎悟が香苗さんと出会ってから、早いものでもう一年の月日が流れた。
この一年、本当にいろいろな事があった。
大学卒業、就職、そして結婚。
心から好きだと思える人を見付け、愛し合い、結ばれた。
……もっとも、その相手は一人ではなかったが。
香苗さんと千穂。
俺には勿体ないほどの素晴らしい女性であるこの二人が、共に人生を歩んでくれることになった。
加えて、九ノ美ちゃんも将来は俺のお嫁さんになると事ある毎に言っている。
三琴さんも「出す物さえ出してくれれば別に構わんで。あんたのこと嫌いやないし」とのこと。冗談めいた物言いをしているが、そう言ったときの三琴さんの目は完璧にマジ入っていた。拒否したら殺されかねない。
なにはともあれ、六郎さんを『お義兄さん』と呼ぶことになるのも遠いことではなさそうだ。
なつめちゃんは……よく分からない。分からないけど、気が付いたら側にいそうな気がする。ステファニー込みで。
どうやら、このままでは、俺の住むマンションは『津崎家専用』になってしまいそうだ。
まあ、それはそれで楽しそうなので俺としては一向に構わないのだが。
それはさておき。
俺にとって、今、一番のお楽しみといえば……
そう。『夜』だ。
香苗さんと千穂という、魅力的な女性と共に過ごす夜。
男だったら、その時を待ち焦がれるのは至極当然ではなかろうか。
「さて、今夜はどっちが来てくれるのかな。香苗さんかな? 千穂かな? それとも二人一度にかな?」
ついつい、頬が緩みまくる。
ベッドに横たわって一人でニヤニヤしている様は、端から見たら非常に薄気味悪い光景であっただろう。
「おっと、いかんいかん。こんな腑抜けた顔を見せるわけにはいかないな。……でへへ」
自覚していたところで止められるものでもないが。
そんなこんなで、待つこと暫し。
ピンポーンというチャイムの音が聞こえてきた。まさに福音である。
「おっ、来た来た」
俺はベッドから起きあがると、小走りにドアへと向かった。
「待ってたよ! さあ、中に入っ……」
勢いよくドアを開けた瞬間、俺は凍り付いた。
外に立っていたのは大家のおやじ。
期待が大きかった分、落胆も激しかった。
俺は、有無を言わさず思いっ切りドアを閉めた。
「まったく、やなもん見ちまったぜ」
そして、鍵とチェーンを施す。
しっかりと、厳重に、抜かりなく施錠されたのを確認して、俺はふぅと息を吐いた。
「酷いじゃないか。急に閉めるなんて」
「!?」
背後から聞こえてきた声に驚いて振り返る。
すると、そこには締め出したはずのおやじの姿があった。
「ど、どこから入ってきた!?」
「どこからって、ドアからに決まってるじゃないか。僕は大家だからね。マスターキーくらい持ってるさ」
鍵云々以前の問題だと思うのは俺だけだろうか。そもそも、鍵はともかくチェーンはどうした?
今更、この男に常識を求める方が間違っているのかもしれないが。
ある意味、なつめちゃん以上に得体の知れない人物だと思う。
「ま、それはいいや。それで? いったい何の用です?」
追求する気が失せた俺は、そう言っておやじを促した。
早いとこ用件を済ませて、さっさと帰ってもらおうと思ったのだ。
「決まってるじゃないか。愛する夫に添い寝をしようかと……」
「黙れ」
おやじが言い終わる前に、俺は問答無用でゲシッと蹴り倒した。しかも本気で。
「い、痛いじゃないか。何をするんだい」
「やかましいわい。くだらん事を言うあんたが悪い」
「くだらないとは聞き捨てならないね。妻に向かってその仕打ちはないと思うよ」
さも心外と言わんばかりにおやじが宣う。
「誰が妻だ、誰が!? てか、あんた男だろうが!」
あまりの気味悪さに目眩と吐き気を感じながらも、一応律儀に突っ込んでおく。
「大丈夫だよ。愛さえ有れば性別なんて」
「俺には無い! これっぽっちも無い! 微塵もない! あってたまるか!」
おやじの放った気色悪いセリフ。俺は、それを己の全尊厳を賭けて否定した。
「平気平気。僕にはたっぷりあるから」
「ぜんっぜん平気じゃねーっ!」
「はっはっは。照れ屋さんだなぁ。ま、そこが可愛いところだけど」
俺の叫びを無視して、不気味なセリフを口にするおやじ。
「人の話を聞けよ、こら」
「あ、そういえばさ。今度、うちの店にこんなのが入荷したんだけど……」
俺の気持ちには一切構わずに、おやじはマイペースに話を続ける。
何というか、ツッコミを入れる気も失せてきた。
ため息をつきながら、俺はガックリと項垂れる。
それがいけなかった。
このおやじから、一瞬でも目を離した俺がバカだった。
「試しに使ってみたいと思ってね。持ってきたんだ。……ほいっ」
おやじの声と同時に、カチャっという無機質な音が室内に響く。
「……へ?」
気付いた時には遅かった。
「ぬ、ぬわっ!? な、なんだこりゃ!?」
いつの間にか、俺の両手両足は拘束具で固定されていた。
力任せに振りほどこうとするがビクともしない。ただ、カチャカチャという音を鳴らせるのみだった。
「ふむ、思った通りだ。よく似合うよ。素敵だ」
「こんなもん似合っても嬉しくねーよ!」
俺、魂の絶叫。
「良いね良いね。そんな姿を見ていたら、なんだか気持ちが盛り上がってきてしまったよ。脳内で興奮物質がドッパドッパと生産中さ」
「お、おい。ちょっと待ておやじ。あんた、何をするつもりだ?」
イヤすぎるスマイルを浮かべてにじり寄ってくるおやじに、俺は震える声で尋ねた。
「ナニだよ」
おやじ、ストレートすぎ。
「ああ、なんてお約束な解答」
「それじゃ、悟ちゃんも納得してくれたところで……」
「してない! 全くしてない!」
顔をブンブンと左右に振って、俺は必死に訴える。
「そんなに照れなくてもいいんだよ。本当にシャイだねぇ」
満面の笑みを顔に貼り付けて近寄ってくるおやじ。下手なホラーの万倍は怖い。今だったらゾンビだって可愛く思えるだろう。
「うわーーーっ、イヤだーーーーーーっ!!
香苗さん、千穂、三琴さん、九ノ美ちゃん、なつめちゃん。誰でもいいから助けてくれーーーっ!」
俺はノドが張り裂けんばかりに叫んだが……その声に応える者は無く……
「それでは、一緒に桃源郷に旅立とうね。さ・と・る・ちゃん♪」
「っっっ!!」
声にならない悲鳴と共に、俺はガバッと身を起こした。
「ハア……ハア……ハア……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺は額に浮かんでいる汗を拭う。
「な、なんて夢だよ。勘弁してくれよな、ホント」
悪夢を振り払うように、俺は大きく頭を振った。
「香苗さんや千穂さんと結婚、ってとこまでは良い夢だったのに。なんで最後があんなオチなんだよ」
深い息を吐いて、ガックリと項垂れる。
「……って……あれ?」
その時、俺は気付いた。
俺の指に、銀色のリングがはめられていることに。
「ゆ、指輪? なんで? ま、まさか……」
俺、結婚してるのか? 夢じゃなかったのか?
それじゃ、昨夜の出来事は?
い、いったい、どこまでが現実でどこからが夢なんだ?
ベッドの上で、一人頭を抱える俺。
そんな俺に、キッチンの方から声がかけられた。「そろそろ起きて下さい。朝御飯が出来ましたよ」と。
ここに居るはずのない人の声。しかし、あの夢が現実なのだとしたら、居ても不思議ではない人の声。
俺は、おそるおそるキッチンへと向かった。
「あ。おはようございます。今日もいい天気ですよ♪」
そこにいたのは……
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