大阪弁の天使in ヨ−ロッパ

それは今からもう10年も前のことになりますが、私は友だちと二人で、ヨ−ロッパを旅したことがありました。その旅はある程度の計画は立てていましたが、個人旅行でしたのでホテルの予約などはとらず風の吹くまま、気の向くままの旅でした。


これからお話する旅の思い出は、そんな私達が旅にも、少し慣れてきた頃のエピソ−ドです。

その日、ドイツのケルンに居た私たちは、コブレンツというところまで行き、そこからライン上りをしょうじゃないか!ということになり、日がな一日ラインの流れに身をまかせることになりました。コブレンツはライン川とモ−ゼル川の合流地点にある街で、そういう地形のためか天然の要塞として古くから軍事上重要なところだったそうです。

しかしそんな物騒な歴史が
あるとはおもえないくらい
コブレンツはとても
緑の美しい街でした。

日本の樹木や植物の緑色とは
まったく違う明るい鮮やかな
緑の丘陵地の中を、
豊かなライン川が、ゆったり
流れています。

さて、そのコブレンツの船の発着所から、ライン上りの船にのり、名所・旧跡をながめ、昼寝をしたり、のんびりした旅の一日を過ごします。

空は青くて絵に描いたような白い雲がぽっかりうかんでいて、広い空、

川の向こうに広がるなだらかな丘陵地には葡萄畑がつづいています。

小さな町の教会の十字架に陽光があたっていたり、時折、川面を渡る涼しい風が吹いてきたり、私は船のデッキで半分寝転びながらそんな風景をみつめ旅情に浸っていました。

そうするうちに、有名なロ−レライの岩がみえてきました。途中から乗り込んできたイタリア人の観光客の一団が、ロ−レライの歌を歌いはじめました。

なじかは知らねど
心わびて
昔の伝えはそぞろ
身にしむ

わびしく暮れゆく
ラインの流れ
入り日に山々赤く映ゆる

美し乙女岩に立ちて
黄金のくし取り髪の
みだれを

ときつつ口ずさむ
歌声の
奇しき力に魂もまよう
こぎゆく船人歌に憧れ
岩根も見やらで
仰げばやがて
波間に沈む人も船も

奇しき魔が歌、
うたうロ−レライ

そうこうしているうちに、陽も傾きはじめ、船をおりる人が多くなり、
賑やかだったのが、うそのように、船は静まりかえっていきました。

デッキに持ち出された沢山の椅子が、淋し気に夏の風に吹かれています。

さて、私たちも下船する時がやってきました。目的地のマインツに到着したのです。


そして時計を見ると夜の9時を過ぎています。最初に書きましたが個人旅行のため、ホテルの予約は事前にとっておらず、現地についてからホテルを探すという旅をしていましたので、このときもホテルの予約はとっていません。しかしぬかりのない私たちは、ガイドブックで、夜遅く到着しても宿泊できる小さなホテルを調べてあったのです。

船をおりると一目散にそのホテル目指して走りました。夜の汽船桟橋は暗くて静かで、誰かが後ろから追ってくるのではという錯覚さえしそうでした。
 

そして、無事ホテル到着。ホテルの主人は、英語が話せる女性で「マダム」といった感じでした。

私たちはチェックアウトのあと、夕食を取りにマインツの街に出ました。かわいい給仕さんのいる素朴な感じのレストランで、たらふくドイツの家庭料理を堪能して、ワインものんで、すっかりいい気持ちにできあがって帰って来たら、なんとホテルの玄関のドアが閉まっているではありませんか!

私たちが外出することはマダムは知っているのになぜ締めちゃったんだろう!とパニックをおこし「開けて〜開けてヨォ」とドアをどんどん叩いていたら「どないしたん?」と懐かしい日本語が(しかも大阪弁)私たちの耳に聴こえてきました。

振り返ると痩せぎすの旅慣れたような青年がひとり立っていました。どうしたらいいかわからずパニックをおこしていた私たちには彼が天から舞い降りた『天使』に見えました。

その大阪弁の天使にすがる思いで「ホテルのドアが開かないんです」と告げると「えっ!」と絶句し、私たちよりすごい勢いで「開けてくれ〜」とドアを叩いてパニックをおこしてしまいました。大阪弁の天使も私たちと同じホテルに宿泊していたのです。

どうやら大阪弁の天使は、救いの天使にはならないようだと思いかけた、その時、騒ぎに気付いたマダムが二階の窓からカギを落としてくれて、無事部屋に入れました、しかしマダムに「あんなに騒いだら近所迷惑でしょ!」と怒られたのは言うまでもありません。

でも、なぜ閉まっていたんだろう?

写真の説明です。上から…

**私たちが宿泊した、ケルンのホテル。予約のとき「川側の部屋をお願い」と言い忘れてしまい、
  飲み屋の見える通り側の部屋になってしまった。


**コブレンツの緑とライン川(3枚とも)

**船のデッキに並んだ、所有者を失った椅子たち。

**ホテルの部屋から撮影した風景。どうやら教会の裏側のようです

**ロ−レライの詩の横のマンガは私がスケッチしてのちにペン入れしたものです。