北の国から 

第1日目 

「みんな眠っているね。」はるなのかん高い声が朝の街に響く。4時45分に家を出た。「冬の北海道」が楽しみだったのだろう。あすかは自分から4時ごろに起きてきた。1月5日。世の中は仕事始めだというのにその日に旅を始めるなんて。10年前新婚旅行の時もそうだった。「こんな時期フィジーに来てるのは先生とその筋の人ぐらいね。」フィジーでは本当にその筋の人にあってしまった。きさくな感じのいい人たちだと思っていた。「マグロつってきたんだよ!」「ホラ,ワイン1本,飲んでよ。プレゼントだ。」「今日はこの島一周したんだよ。」全くそのバイタリティーには驚嘆の嵐だった。20以上年上の人達なのに。でももっとびっくりしたのはウインドサーフィンをする彼らの後ろ姿だった。「うまくいかねえ。」な,なんと彼らの背中から色鮮やかな模様が浮かび上がっていたのだ。その時まで私たちは何も知らなかった。
飛行機は揺れた。あすかは「まるでスターツアーズみたい。」とTDL感覚だ。千歳空港に着いた。「あれ,本当の雪なの?早く雪合戦をやりたいよ。」子どもたちにとって北海道は雪合戦や雪だるま作りができる場所なのだ。
「さて,どこに行こうか。」あてもない旅が好きな私は札幌に2泊する以外のことは何も決めていなかった。結婚してもそれは同じだった。その無計画性が吉と出ることもあれば,凶と出ることもある。「小樽でも行こうか。」小樽はランプとオルゴールと運河の町。小樽に降り立つとすぐに観光案内所で無料の地図をもらい,何となく運河の方に歩き始めた。雪は軽く舞っていた。「海鳴楼」というオルゴールの店を見つける。「かわいいね。」私はオルゴールの響きが好きで,オルゴール館があると必ず行く。ちょっと少女趣味だが。ひととおり見て帰ろうとすると,「世界にひとつのオリジナルオルゴールができます。」と書いてある。このうたい文句はよくあるパターンだけど,すぐにひっかかって2階にあがった。「60曲ぐらいの曲の中からお好きなものを選んで下さい。あとはいろんな素材を組み合わせればいいんです。」ガラスの飾り,木の飾りなどたくさんある。サンプルを見ながら,素材を選んだ。紺の長方形の木に,あすか・はるなの文字,それからきりんと教会そして,「これぴかちゅうに似てる。」ぴかちゅうの木だ。子どもたちは色を塗り始めた。2人ともいつになく集中している。曲は,・・・親父の権限で「北の国から」にした。「となりのトトロ」も「サボテンの花」も候補にあがったが,最終的には「北の国から」にした。この旅行は「北の国から」を大いに意識した旅行だったし,あの曲は北海道にふさわしいと思ったからだ。
その後はお寿司屋さんを探しと北一硝子。北一硝子の近くに回転寿司を見つけた時は「しまった!」と思った。子どもたちが一番喜んだのは,お寿司屋さんでも北一硝子でもなかった。それは水天宮だった。あまり人が踏み入れない場所なのか雪が深く,はるななどは3分の1ぐらい埋まっている。2人は楽しそうに雪の上を転がっている。こんな雪はさわったことも見たこともない彼女達はひとしきりはしゃいだ。水天宮が目的だったのではない。そのそばの啄木の歌碑が目的地だったのだ。「あった!」
悲しきは 小樽の町よ 歌うことなき 人々の声の荒さよ 
ホテルに着いた。「東急イン」と「札幌東急」を間違えて遠回りしてしまったが,何とか「札幌東急H」に着いた。東京から飛行機代と2泊3日朝食付きで1人2万6700円は安い!そう叫びたくなった。いや叫んでいた。夕飯は珍しく居酒屋に行った。すすきのまでの道はイルミネーションで飾られ,「
北の国から−帰郷」を思い出した。れいちゃんと純君が何も言わずに歩いたのがこの道だ。それぞれのぬくもりを感じながら。大通公園のホワイトイルミネーションもきれいだった。「北炉」という店で,少しのビールと北海道に酔っていた。ポテトもちと海鮮お好み焼きがおいしくて何度かおかわりした。はるなはひたすら鮭のおにぎりを食べていた。娘達は大好物の茶碗蒸しはほとんど食べなかった。「おばあちゃんの茶碗蒸しの方が美味しい。」と。

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