10.高機能自閉症

10.1 高機能自閉症は決して軽度の障害ではありません

 高機能自閉症及びアスペルガー症候群の人は,現在の福祉制度のもとでは障害者と認められないため,手帳の交付はもちろん個々に対する各種の福祉サービスも対象外であり,また雇用先へも助成が行われません。ですから,企業も採用には消極的で,また採用しても対人トラブルなどから解雇に至る場合があるようです。しかし高機能といえども,自閉症は自閉症なので,「対人」,「コミュニケーション」,「こだわり」などの問題を抱えています。自閉症の困難性を評価する尺度が研究されるまでは,神奈川県で実施されているように,IQ70の知的ラインに関係なく対応の困難さによって療育手帳を措置してください。

 日本自閉症協会が2000年に実施した「高機能自閉症児と発達障害児の本人及び親の活動支援事業」の中で行なわれたアンケート調査の結果では,次のとおり,これまで説明してきたような自閉症特有の回答が得られています。

 すなわち,気になる子どもの特徴として,保護者は「対人関係」,「不器用」,「パニック」,「繰返し質問」,「音に過敏」,「くせや決まり」をあげています。

 また,学校教育への要望として,「教師の質の向上」,「特殊や通級学級などの増加,充実」,生活全般でのサポートの要望として,「療育手帳の認定と女性」,「就職のサポート」,「レスパイト,グループホーム,作業所等の制度の充実」,「子どもの集まる場の整備」,社会への要望として「社会の理解を得るために広報・啓発活動の拡充」,「社会の理解を得るためにマスコミの利用」に高い支持が寄せられています。

 高機能自閉症の特徴として,診断が遅れる事例が多く,中には精神障害の診断やADHD,LDの診断を受けていた事例もあるようです。

 これら診断が遅れることの弊害として,「担任から親のしつけが悪いと言われ続け辛かった。疲れきってしまった。親のケアを。」,「他の子と同じことを要求され,自信を失いやすい。親も子もとても疲れている。」と言った担任の無理解,保護者の無知によって生じた悲惨な報告がありました。やはり,高機能自閉症においても,早期発見が鍵となります。

 私たち日本自閉症協会千葉県支部のホームページにも,最近,高機能自閉症やアスペルガー症候群の人からのメール相談が増えてきています。内容は「障害に対する不安の相談」,「医療機関の相談」のほか,「就職」に関することが多数を占めています。このように本人や保護者からの相談に対応できる専門家が必要です。自閉症の専門家以上に,高機能自閉症となると専門家はいません。県立の医療療育機関及び特殊教育センターにおいて,高機能自閉症及びアスペルガー症候群の専門家を配置して,診断及び治療・療育・教育相談ができることを期待します。

     

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