4.自閉症援助の基本

 自閉症という障害が最初に報告されてから半世紀が過ぎましたが,その間自閉症の人へのアプローチは大きく変遷してきました。現在,保護者や関係者から最も高く支持を受けているのは,幼児期から青年期・成人期に至るまで一貫したトータルケアを行っている,アメリカのノースカロライナ大学のショプラー博士らが開発したTEACCH(ティーチ)プログラムです。自閉症の教育や援助方法,望ましい実践例が世界中で精力的に報告されてきています。日本でも神奈川県や京都府をはじめとして,その実践を県下の事業として取り組んでいる自治体が見られるようになってきました。自閉症の人に対するTEACCH等の実践の結果,障害特性に配慮した療育や教育,援助を適切に施すことによって,ハンディキャップは軽減可能であり,自閉症の人の地域生活を可能にすることが証明されてきています。

 表2は日本自閉症協会千葉県支部が行ったアンケート結果です。期待する療育・治療・教育方法として,「現在日本で導入されている代表的な療育・治療・教育方法」について尋ねたたところ,わからないという回答が多かったものの,子どもの年齢に関わらずTEACCHプログラムを期待する人が多いことが知られます。


1.早期発見,早期療育,そしてきめ細くかつ持続的な個別教育

 早期から一人ひとりの障害特性に配慮した療育を受けることによって,自傷や他害,行動障害などの二次・三次障害を予防するとともに,就労率や自立が大幅に改善されます。

 東海大学の小林によって,幼児期から学齢期までの継続的なケアをすることにによって,就労率が6%から22%に向上したことが報告されています。また早くからTEACCHプログラムを実施している,アメリカのノースカロライナ州のTEACCHプログラムに所属している成人した自閉症の人の場合,98%がグループホーム,アパート,その他様々な形態で地域社会で暮らしています。この成果は世界では例を見ません。

 このように早期から障害特性に配慮した適切な援助を受けることが有効です。


2.TEACCHプログラム(構造化)

 自閉症の人は,コミュニケ−ションのとり方が難しかったり,耳で聴いたことは短時間であっても覚えておくことが難しいといった障害をもっています。その反面,目から入ってくる情報の処理はそれほど困難ではない,ということが知られており,このことを「視覚的優位」とよんでいます。また,一旦覚えた記憶,特に空間的な記憶はよく維持されているようです。後者の特性は自閉症の人が苦手な能力を補う方法として利用できます。たとえば,視覚的優位を利用した援助方法として,周りの環境を目で見てわかるような工夫をすることが自閉症の人の理解を深めるために有効であることが知られています。このことを「構造化」と言います。TEACCHプログラムでよく用いられている概念です。構造化には,作業や勉強を行う場所と食事を行う場所など分けて,混乱を少なくするような「物理的構造化」といわれるものや,1日の時間割をわかりやすく説明するための「時間の構造化」などがあります。横浜市の東やまた工房や千葉県のしもふさ学園など全国の各地の施設では,動作の手順を絵や写真,文字など,その人の能力に応じ,一人ひとりに分かりやすい形で提示することによって自閉症の人の社会参加を可能にしています。


3.余暇活動の取組み

 川崎医療福祉大学の佐々木らの研究によって,家族とともに,家庭と地域社会を生活基盤にして安定した適応状態を示している自閉症の人たちの多くは,まず,家庭内で家事などの役割を習慣的に分担実践していること,次いで,自分一人でも打ちこんで過ごすことのできる余暇活動を身につけていることが報告されています。また,自閉の生徒の就労研究会の報告によれば,企業に就労した自閉症者について調査した結果,小学校高学年の時期から将来生活を考えて家庭の教育方針を明確にしていることを指摘しています。さらに彼らは,子どもの実態に即した課題を明確にし,家庭での役割を分担させるともに,家庭の機能を生かし,基本的な指導上の配慮は,学校との連携を図りながら,効果的な指導を進めることが重要であるとしています。



4.一人ひとりの自閉症者のニーズに合った就労システム

 障害特性を配慮した援助は,全ての障害者にとって社会参加の大きな手助けとなります。現在,各地で障害者のための就労支援機関が増えてきています。神奈川県では就労支援センターが横浜市,平塚市などに8か所設置されて,従来の箱型の施設から,実際の指導を中心とするするサービス型の援助機関へと就労システムの転換が図られつつあります。

 アメリカでは,1986年のリハビリテーション法改正によって,援助付き雇用「ジョブコーチ」が新しい就労支援制度として制度化され,この制度のもとで15万人以上の障害者が職業自立を果たしています。


5.自閉症にはトータルケアシステムが必要です

 このように,自閉症援助には一人ひとりのニーズに応じた生活全般にわたるケアプログラムが必要です。従来型のサービスでは,生活全般からトータルにケアするという配慮が不足していました。これまでは学校や施設から地域へ展開していく仕組みがないために,ともすれば病院だけ,学校だけ,施設だけといった医療だけ,教育だけ,就労だけの機能を中心としたサービスが行われてきています。

 今後は,これらの実態から脱却し,医療機関や学校,施設などの連携を前提に,自閉症の人,一人ひとりの障害特性を理解し,地域生活を可能にする教育や,仕事,住い,余暇活動など生活全般にわたる幼児期から青年期・成人期に至るまで一貫したトータルケアシステムが必要です。

      

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