5.早期発見・早期療育

5.1 診断は,治療や療育を始めるスタート地点です

 

自閉症児にとって診断は,トータルケアシステムのファーストステージである治療や療育を始めるスタート地点となります。しかし,専門家がいないため,多数の親が診断を求めて病院や児童相談所など複数の,いわゆる“専門機関”を訪ねて回っています。自閉症を診断できる医師は,極めて限られています。

繰り返しになりますが,早期から障害特性に配慮した療育を受けた場合,自傷や他害,行動障害などの二次・三次障害を予防するとともに,就労率や自立が大幅に改善されることがよく知られています。根本的な治療方法がない自閉症では,この早期発見と正しい援助方法を用いた早期療育が,何よりも原則となります。そして,間違ってはいけないのは,早期発見だけで治療が了するのではありません。その後の治療や療育指導が用意されない限り,単に障害児のレッテルをはることによって親の不安を増すだけになりかねません。

 横浜市は療育センターを活用した自閉症児の早期発見システムが確立しており,先の疫学調査はその結果得られた成果です。横浜市では,10数年前に療育センターづくりをはじめ,現在では市内の4個所に設置されています。また,それらの中核施設としてリハビリテーションセンターの小児部門が設置されています。横浜で発見されるすべての自閉症児は,早くから療育を受ける機会が与えられています。私たちの念願は,千葉県に高度の医療専門機関として自閉症がわかる専門医(精神科,小児科)及び心理士を配置し,自閉症の診断及び診断後の治療・療育相談を行うとともに,生活支援及び就労支援機能をもたせた,「自閉症センター」を設立することです。また,1.5歳及び3歳児検診で,もれなく自閉症の早期発見ができるよう,市町村自治体の検診システムに自閉症に詳しい専門医の参画を義務付けるとともに,保健所,児童相談所における自閉症の早期発見システムを確立することです。

 



5.2 自閉症協会の会員でも,親が子どもの異常に気がついてから診断まで1〜2年以上もかかっています

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果から,保護者が子どもの異常に気づいた年齢はおおむね0〜3歳であり,保護者は相当早くから子どもの異常に気がついていたことが知られました。異常の内容は,「視線が合わない」,「言葉が遅れている」,「多動」,「呼んでも振り向かない」,「パニック」に集約されます。

 しかしながら,医師等によって診断を受けた年齢は,その後約1〜2年を経て,2〜4歳が平均的でした。中には数年もたってからという回答も見られました。異常に気がついてから診断を受けるまでに生じているタイムラグの期間を短縮したいものです。

 この結果は,あくまで日本自閉症協会の会員に対するアンケートの結果です。千葉県でみますと,保護者で日本自閉症協会の会員数は570名です。千葉県では理論上予測される自閉症の人は,1万2千名います。私たちは,千葉県に生活する多数の自閉症の人,特に高機能自閉症の人は,診断を受けることがなく,自閉症としての専門的な療育を受ける機会も逸したまま,大人になっているのではないかと想像しています。この推測がもし正しければ,大変なことです。千葉県における自閉症に対する取組みの中で,「早期発見システムの確立」こそ,最初に解決しなければいけない最も重要な課題です。


5.3 小児神経科医を除き,自閉症の認定にかかわっている小児科医は少ない

 日本自閉症協会千葉県支部が実施したアンケートの結果(表3)から,診断を受けた機関として,病院が最も多く6割,次いで多いのが2割の児童相談所であり,診断を受けた病院の診療科は,その多数は児童精神科医,小児神経科医及び精神科医が占めていることが知られました。小児神経科医を除き,自閉症の認定にかかわっている小児科医は限られています。小児科医は子どもが最初にかかる医師です。小児科医が自閉症のことを知らなければ,親が子どもの異常を感じていても,診断にはつながりません。

 アンケートで千葉市の保護者から寄せられた回答では,診断を受けた機関として千葉市療育センターが多数を占めており他市では見られない特徴でした。早期発見対策の一つの回答として,小児科医全員への啓発が難しくても,千葉市療育センターのような療育センターが各地に配置できれば,早期発見につながります。このことは,前述の横浜市のケースと同様です。療育センターのような専門機関の設置は,発達障害児に対する早期発見,早期療育はもちろんですが,保護者への精神的な援助という意味でも大切な機能を持っています。

  

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