7.就労支援

7.1 千葉県では保護者の就労教育へのニーズが低い

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果から,保護者の専門的な自閉症教育に対するニーズは非常に高く(表5),また高校卒業後の進路として「就職」を希望する保護者が多いことが知られる一方で(表7),「就労教育」に対するニーズは極めて限定的です(表8)。これは,千葉県における就労教育や,現実の就労のあり方自体に原因があるのではないかと考えています。

 千葉県立知的障害養護学校高等部卒業生の就職率は3割程度です。全国では5割もの就職率を示す県があり,これらと比較すると,千葉県のそれは決して高くはない,むしろ低い水準であると捉えています。就労教育や受け皿側,さらにサポートする仕組みそれぞれについて,この原因を明確にする必要があります。ぽこ・あ・ぽこの志賀は,養護学校卒業生の就職率の低さの原因は,1) 障害の多様化に合わせて一人ひとりにあった教育プログラムが提供できていない,2) 就労へ向けての継続的な職業教育の不備,3) 職場実習の機会の絶対的な不足と位置づけの問題,4) 本人や保護者に就労へ向けての情報提供の不足などが考えられると指摘しています。しかし,何よりも,千葉県では本人や保護者にとって一般就労が決して魅力的な選択肢となっていないのかもしれません。このことは行政サイドの課題でもあります。

 アメリカでは,1975年に全障害児教育法が定められ,トップダウンの発想で個別教育計画(IEP)を作り,それに基づいた教育が行われています。アメリカのIEPは,将来的な自立を目指すため,社会との接点をより多く設け,より早期からの職業教育が採用されています。明星大学の梅永によると,自閉症児の能力により,週に2回ほど援助付き雇用における「移動作業班」モデルによって,地域の清掃を行う授業などもあるそうです。就労を目指した教育では,学力よりも社会生活で必要となる能力,いわゆる社会的スキルを身につけるためのトップダウン・アプローチを盛り込んだ個別教育計画に基づく教育が必要です。学校から職場へのスムーズな移行を目指すために,まずは学校現場でのIEPの定着を図るとともに,できるだけ早期からの個別移行計画(ITP),個別就労計画(IPE)を取り入れることが望まれます。


7.2 就労支援システムを構築し,自閉症理解を拡充してください

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表8)から,雇用や就労関連での保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「自閉症者への就労支援システムの構築」,「職場における自閉症理解の充実」,「公共機関での障害者雇用の促進」,「援助付き雇用制度の導入」,「職域開発援助事業への支援,助成」,「教育,福祉,労働に係わる関係者の連携の強化」の順に,いずれも5割近くの保護者から高い要望があることが知られました。また,成人した子どもの保護者では「雇用率のアップ」や「ハローワークにおける自閉症理解の充実」についても高い要望がありました。

 現在,各地の民間の福祉施設の中で援助付き雇用「ジョブコーチ」のような仕事を行うところが増えてきています。公的機関では,サービス型の援助機関として神奈川県の横浜市や平塚市などに8か所の就労支援センターが設置されています。 

 私たちは,この制度に極めて高い関心があります。それは,ジョブコーチ制度が全ての障害者にとって社会参加の大きな手助けとなる制度であるからです。明星大学の梅永によると,本制度は利用者主体のプログラムであること,就労準備性を否定しているところに特徴があるとしています。梅永は,前者は利用者や保護者の仕事に対する興味や要望を重視し,従来の就労支援サービスのように,狭い意味での利用者の作業能力のみに注目するものではないことを意味し,後者は,重い障害をもっている人の場合,いつまでたっても就職可能と判定されず,一生涯準備段階であると判断される場合があるが,援助付き雇用では,就労可能性とか就労準備性が整うのを待つといった発想で取り組むのではなく,今現在の能力で働ける仕事は何か,その仕事に就くにはどのような援助を行えばいいかを考えることを意味するとしています。だから,覚えたことを応用することが難しいといわれている自閉症の人にとっても無理がないと説明しています。私たちは,教育における教師や医療における医師などと同様に,就労支援においても自閉症児者に対する専門家としてのジョブコーチの活躍に期待しています。

 単に一般雇用ができなければ,作業所や福祉施設といった考えではなく,今後は施設にいながら仕事を行うといった新しい就労パターンなど,一人ひとりの自閉症者のニーズに合った就労システムの構築が望まれます。

 職場の開拓に当たっては,自閉症に理解のある職場であって,自閉症の人にとって比較的に対応が容易な,単純でくり返しの仕事や,仕事の内容に変化の少ない仕事を行う職場を開拓する必要があります。

 一般の人たちは自閉症という障害に,「自閉症」というネーミングによるイメージから誤った認識をしている場合が多く,一般企業へ「自閉症」という障害を理解してもらうためには,行政の率先した啓発普及を期待しています。

 

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