8.生活支援

8.1 福祉サービスは子どもの年齢によってきめ細かく

  日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表9)から,福祉に対する保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「成人自閉症者に対する相談窓口の設置」,「グループホーム,福祉ホーム,生活ホームの増設,充実」,「自閉症児者のための福祉法の制定」に高い要望があることが知られました。
子どもの年齢(ライフステージ)によって,必要とする福祉サービスの内容は異なります。

 就学前の子どもの保護者からは,上記要望のほかにも「通所施設の増設」,「障害に関する理解促進活動」,「通所施設の内容の充実」,「障害児学童保育の実施」の順に,高い要望がありました。

 小学校に通う子どもの保護者からは,「障害児学童保育の実施」,「通所施設の増設」「ショートステイの充実」,「入所施設の増設」,中学校に通う子どもの保護者からは,「通所施設の増設」,「入所施設の増設」,高校に通う子どもの保護者からは,「通所施設の増設」,「通所施設の内容の充実」,「入所施設の増設」,「ショートスティの充実」,「福祉工場の増設,充実」に対して高い要望がありました。

 卒業してから20歳までの子ども保護者からは,「障害者基礎年金の充実」,「入所施設の増設」,「入所施設の増設内容の充実」,21歳以上の子どもの保護者からは,「障害者の高齢化対策の調査,研究」,「入所施設の増設内容の充実」に対して高い要望がありました。特に31歳以上の保護者からは,「成年後見制度の充実」に対しても高い要望がありました。


8.2 青年・成人の自閉症の人の生活の場所は?

 在学中(就学前を含む。)の子どもの保護者に対して,高校卒業後の不安を尋ねたところ,保護者の不安は大きく,「自分が世話できなくなったとき」をはじめとして,「卒後の就労の問題」,「問題行動」,「福祉サービスの内容」,「余暇活動をする場の有無」などに対して,いずれも多くの回答が寄せられています(表10)。

 次いで,子どもの年齢に関わらず,「入所施設」について尋ねました。「高校卒業後の進路希望」の設問においては,保護者の多くが「入所施設」を拒否しましたが(表7),将来となると「入所施設」を考えている方が多数を占めるようになります(表11)。また,ここではデータを示していませんが,子どもが成人した方で,現在就職したり,作業所に通う子どもの保護者も,いずれは入所施設に預けることを考えている人が多数を占めることが知られています。成人自閉症者の生活のあり方について,既往の入所施設の選択だけでなく,グループホームを含めた,保護者や本人の選択ができる新たな福祉サービスの推進が強く望まれます。




 表12は,本人が独りで生活をすることについて(子どもが卒業生)尋ねた結果です。現在「本人が独りで生活している」という自閉症者は皆無でした。また,「独りで生活させたい」と積極的に考える保護者も1割程度と少なく,自閉症者が独りで生活していくことの難しさを示しています。このことは保護者が現在抱える悩みとして「子どもの将来を考えると滅入る」に回答が集中したこととよく一致しています(表15)。新しい福祉サービスの検討においては,保護者の悩みや思いに立脚した上で,現実的な形で検討を深化させる必要があります。



8.3 休日は特に目的もなくゴロゴロしている自閉症者が多い

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表13)から,成人した自閉症者の休日の活動として,屋内外へ活動の場を広げている(生活空間の広い)者がいる一方で,「趣味がないため何もすることがなく」,「テレビを見たり」,「 特に目的もなく家でゴロゴロする」など休日の活動が屋内活動に限られている者が多くみられます。

 ここであげられたスポーツや趣味などの活動は,在学中から取り組んできた者において余暇活動がうまく展開されているものと推察されます。

 日常生活では,余暇は大きなウェイトを占めています。仕事や学校を終えた後の余暇時間だけでなく,週末や休憩時間などさまざまな余暇時間があります。自閉症の人の場合,表13の活動も大半は保護者等の声かけやサポートの上に成り立っていると考えてもよく,余暇時間の過ごし方は,身に付けた余暇活動のメニューの豊富さや援助者の有無,余暇の場の有無に大きく左右されることになります。

 余暇活動を含め成人自閉症者の生活のあり方について,保護者や本人が選択できる新たな福祉サービスの提供機関として,自閉症センターの創設(5.1で前述)とともに,各地域への地域生活支援センターの設置を切に希望します。


8.4 自閉症者のための自閉症センター及び地域生活支援センターの構想

 自閉症の人が地域で生活してゆくためには,暮らしのそれぞれの場面に必要な援助を,総合的にコーディネイトされた形で提供することが必要です。またこれらの援助は,できるだけ地域から隔離せず,地域の中で推進していく必要があります。また,自閉症の障害特性を考えた場合,必要なサービスのあり方は一人ひとり違います。一人ひとりに合わせたきめ細かな支援が必要です。

 自閉症センター及び地域生活支援センターの設置に当たっては,センターの業務としてショートスティ,ガイドヘルプ,ホームヘルプ,レスパイト,障害児学童保育,グループホーム,レクリエーション開発,ケアマネジメントなどを対象とするとともに,自閉症の人,一人ひとりに合わせた運営ができるよう期待しています。


 8.5 グループホームでも,自閉症の障害特性をお忘れなく

 グループホームは,自閉症の青年や成人のための居住サービスとして期待されていますが(表9),自閉症の人で1人で生活できる人はほとんどいないことから(表12),グループホームの整備に当たってはハード面の整備と合わせて自閉症の人の面倒を見る人がいて,障害特性に配慮したコミュニケーションや生活についてのサポートはもちろん,入所者に安心感を与え支援することが必要です。

 横浜市では,市営住宅を建てる時に最初からある部分をグループホームに割り当てて建設するという方法がとられています。自治体の魅力的な対応です。


8.6 専門医の配置と,医療,療育機関,学校,福祉の連携を

 医師に対する要望は,早期発見・早期療育における役割だけでなく,全てのライフステージにおいて健康の管理といった面で重要な役割があります。

 日本自閉症協会千葉県支部のアンケート結果(表14)から,医療に対する保護者のニーズは,子どもの年齢に関わらず「医療と療育機関,学校,福祉との連携」,「専門家を専属配置した療育センターの設置」,「一般の疾病に対して受入れ病院の充実」,「自閉症原因の解明」,「自閉症児者のための歯科診療の充実」,「児童精神科の設置及び専門医の育成」,「思春期の行動障害への対応の充実」,「病院・医療情報の充実と公開」の順に,高い要望があることが知られました。

 

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