舞台となるのはイギリス。大英博物館で働く青年ローランド（アーロン・エッカート）は、１９世紀の桂冠詩人が残した蔵書の中から、偶然手書きのラブレターを発見します。宛名はなく、DEAR　MADAMとあるだけ。誠実な夫とされていた詩人の秘められた恋の相手は誰なのか。妻の日記をもとに調べていくうちに、ある人物が浮かび上がってきます。それは女流詩人クリスタベル・ラモット（ジェニファー・エール）。そこで彼女の遠縁に当たるモード（グウィネス・パルトロウ）と一緒に、足跡を辿る旅が始まりました。目の覚めるようなヨークシャーの自然を背景に交錯する現在と過去。やがて百年前の恋人達の情熱が、現代を生きる臆病な二人の心に燃え移るのです。原作はブッカー賞受賞作。ミステリー仕立ての構成もさることながら、特筆すべきは監督の視点。人物の機微をとらえるのが絶妙なのです。女性があわててメガネを外す仕草のなかに、これほど新鮮な面白さを込められるとは。とても現実的かつ洗練されているのです。台詞にもユーモアや人情味が溢れて、独特の魅力ある世界が展開します。まったく新しいアメリカ人監督の登場といえるでしょう。主役の二人は本当に美しく、こんな人達がいるのね〜と感心します。物語の最後で、彼らは意外な真実に出会います。それが二人の傷を浄化して、暗い運命の絆から解き放たれるのですが、話はそこで終りません。映画の中の人物には、解く事の出来なかった謎が残されているのです。それは届かなかった愛のメッセージ。真実を知るのは私達観客ですが、それに対して何も出来ないのです。まるで天界から人間の営みを覗いている気分になります。このラストシーンの甘い痛みが、美しい音楽（ガブリエル・ヤード）と共に、いつまでも心に響きます。