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ノスタルジーの功罪(スピルバーグの強運)

この映画の評価はほとんどテイタム・オニールに対する賞賛で占められています。映画ではカット割りという技法があるので、子どもでも勘がよい子なら瞬間の名演を引き出すことが出来ます(写真家にとって最も映える被写体は子どもだとも言われています)。そういうものを引き出した監督の力量もまた素晴らしかったと言えるでしょう。

 子どもっぽい大人と大人びた子どもの逆転したドラマはコメディの王道で、チャップリンの『キッド』やルイ・マルの『地下鉄のザジ』なんかが著名です(同様の設定は『レオン』にも引き継がれている)。ボグダノヴィッチのことだから、この映画はもしかしたらシャーリー・テンプルの作品群を意識したのかも知れません。

 ノスタルジックでとっても良い映画です。色々な人に奨めることの出来る映画で、理屈抜きに楽しめます。特に登場人物全てがそれぞれに欠陥を持ちながら、みんな憎めない、愛すべきキャラクターなのが良いのかも。殺伐とした作品ぞろいの70年代において異彩を放っています。何も70年代を生きた人達が全員ニューシネマ的な感性の持ち主だったわけではありません。ほっとしたかった人達だっているのです。

 こんなボグダノヴィッチが失速したのは何故でしょう。彼と同じ資質を持つ監督にスピルバーグがいますが、彼はかつてB級映画だったジャンルを当代風にアレンジする才覚と、それが受け入れられる時流に上手く乗ったという運の強さがありました。同じく過去のハリウッド映画にこだわったボグダノヴィッチはミュージカル映画に手を染めて大失敗、そしてドロシー・ストラットン事件のスキャンダルと、運のなさが目に付きます。2人の運命の岐路は、あたかもテイタム・オニールとドリュー・バリモアの現在の岐路と重なって見えるのですが、穿ちに過ぎるでしょうか。



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