種の保存法を読む

この文章は北大自然保護研究会の例会の、第3回冬の勉強会として発表されたものです

目的:絶滅のおそれのある野生動植物を保護する

施行:1993年4月1日

内容:個別の種に関しては、絶滅のある野生動植物を「国内希少野生動植物」「国際希少野生動植物」「特定国内希少野生動植物種」に分類し、保全する。また、生息地をしていて、地域ごと保全したり、保護増殖事業を行ったりもする。

国内希少野生動植物種

指定条件:その個体が日本にあり、絶滅のおそれのある野生動植物種であって、次のいづれかの条件を満たすもの。

  1. その種の存続に支障をきたす程度に個体数が著しく少ないか減少しつつあり、その存続に支障をきたす種
  2. 全国の分布域の相当部分で生息地などが消滅しつつあるために、その存続に支障をきたす種
  3. 分布域が限定されており、かつ、生息地等の環境の悪化により、その存続に支障をきたす種
  4. 分布域が限定されており、かつ、生息地等における過度の捕獲または採取により、その存続に支障をきたす種

ちなみに注意しなければならないのは、ここで言う絶滅のおそれのある野生動植物種は、レッドデータブックの絶滅のおそれのある野生動植物、とイコールではない点である。これは以下でも同様なので注意されたい。

指定種

アホウドリ・チシマウミガラス・コウノトリ・トキ・シジュウカラガン・オオタカ・イヌワシ・ダイトウノスリ・オガサワラノスリ・オジロワシ・オオワシ・カンムリワシ・クマタカ・シロハヤブサ・ハヤブサ・ライチョウ・タンチョウ・ヤンバルクイナ・アマミヤマシギ・アラフトアオアシシギ・エトピリカ・ウミガラス・キンバト・アカガシラカラスバト・ヨナクニカラスバト・シマフクロウ・オーストンオオアカゲラ・ミユビゲラ・ノグチゲラ・ヤイロチョウ・アカヒゲ・ホントウアカヒゲ・ウスアカヒゲ・オオトラツグミ・オオセッカ・ハハジマメグロ・オガサワラカワラヒワ・ルリカケス 以上鳥類
ツシマヤマネコ・イリオモテヤマネコ 以上哺乳類
キクザトサワヘビ 以上爬虫類
アベサンショウウオ 以上両生類
イタセンパラ・ミヤマタナゴ 以上魚類
ベッコウトンボ・ヤシャゲンゴロウ・ヤンバルテナガコガネ・ゴイシツバメシジミ 以上昆虫類
レブンアツモリソウ・アツモリソウ・ホテイアツモリ・ハナシノブ・キタダケソウ・アマミデンダ・ヤドリコケモモ・コゴメキノエラン 以上植物
計56種

国際希少野生動植物種

指定条件ワシントン条約の附属書Tの記載種、または渡り鳥条約で相手国から指定された種すべてが該当

特定国内希少野生動植物種

指定条件:国内希少野生動植物のうち、商業目的の繁殖が可能な種

指定種 レブンアツモリソウ・アツモリソウ・ホテイアツモリ・ハナシノブ・キタダケソウ・アマミデンダ 以上6種 すべて植物

緊急指定種

指定条件:上記の指定種にはなっていない種で、緊急にその種の保存を図る必要があるとき

その他:指定期間は3年を超えてはならない

種の保存法で規定される行為

@ 捕獲等について

国内希少野生動植物種・緊急指定種

捕獲等(捕獲・殺傷など)は禁止。ただし学術研究や繁殖の目的で環境庁長官に申請をすれば捕獲等をする許可を得る事ができる(ただし捕獲等がその種の保存に悪影響を及ぼす場合、捕獲等をするものが捕獲した個体を扱う適当な施設を持っていない場合は認められない)。また以下の場合も認められる。

特定国内希少野生動植物種

基本的には上記の指定種と同じだが、商業目的の繁殖のための捕獲も認められる。ただしその許可も上記の条件をきちんと満たしていなければならない。

A 受け渡しについて

渡す側か受け取る側のどちらか、または双方が国や地方公共団体であり、総理府例で定める場合や、その受け渡しがその種の生存を脅かさなければ、どの種でも認められる。また学術目的などの場合に受け渡しを行う場合は許可を申請すれば行える(ただし受け取る側にきちんとした飼育施設がない場合は不可)

国内希少野生動植物種・緊急指定種

基本的に個体やその加工品を受け渡しする事は禁止。ただし捕獲等を認められているものがその許可の範囲内で行うものは可。また生計の維持などのため、総理府例で定めるやむを得ない事情がある場合も可。

特定国内希少野生動植物種

商用目的の繁殖が認められているのがこの種であるから、受け渡しは可。

国際希少野生動植物種

生体は不可。器官や加工品などは、原産が日本国内で、かつ政令で定める特定器官等を除いたものは可。また登録を受けた個体や事前登録証を受けた個体に関しては可(登録に関してはC 個体等の登録などについて で説明)。

B 輸出入について

国内希少野生動植物種・緊急指定種

基本的に禁止。ただし学術目的や、その輸出入がその種の存在を脅かさない場合、その他政令で定める場合は可。

特定国内希少野生動植物種

可。

国際希少野生動植物種

ワシントン条約渡り鳥条約による規制が適用される。種の保存法としては特に規定はしていない。

これらの規定に反し輸出入を行った事が発覚した場合、その種を輸出元や原産国に返送しなければならない。違反した者がきちんとそれを行わない場合は通産産業大臣・環境庁長官がそれを代行し、それにかかる費用を全部または一部負担させることができる。

C 個体等の登録などについて

個体の登録:国際希少野生動植物であって、商業目的で繁殖させた個体やその加工品であり、それを正当なルートで入手した種に関しては、環境庁長官の登録を受ける事ができる。登録を受けた個体に関しては登録票が発行される。この登録を受ける事で、上記のような数々の特例が認められるようになる。

事前登録:1年間のうちに政令で定める数以上の器官や加工品の譲渡をしようとする場合には、事前登録を受ける事ができる。ただし種の保存法違反で刑を受けたものその命令を受けた日から2年間以内は事前登録を受けられない。事前登録には以下の事項が定められる。

D 特定国内希少野生動植物種や特定器官(国内希少野生動植物種の器官や加工品のうち、譲渡が認められていないもの)の取引事業に関して

特定国内希少野生動植物種や特定器官等の商業取引を行うものは、どの種を取引するかや取引を行う所在地、住所氏名など種の保存法で定める事項を届け出る必要がある。

これらの取引をするための種を入手するさい、この種を渡してくれる者から以下の事項を聞く必要がある。また聞き出した事項は書類に記載し、保存する必要がある。

また環境庁長官及び農林水産省大臣はこの届出をして取引事業を行っているものに対して報告を求めたり、立入検査を行う事ができる。

上記の事項が守られない場合、環境庁長官及び関係大臣はその規定を守るための指示を出し、またこれが守られない場合などはその事業を3ヶ月を超えない範囲で事業の一部またはすべてを停止させる事ができる。

*管理票:その特定器官の入手経路を示した物。作成は義務ではないが、取引を行う場合はこれがないと流通できない。

またこれらの特定器官を購入し、製造した製品については環境庁長官または関係機関大臣の認定を受ける事ができる。ただしこの認定はその元となる特定器官等の購入経路が適切(管理票などで出所がはっきりしているもの)である事が条件である。

E その他

販売や配る目的で特定国内希少野生動植物種以外の種を陳列してはならない。ただし生計のためなどでやむを得ない場合や登録または事前登録証を受けた国際希少野生動植物種に関しては可。

@ 生息地等保護区について

生息地等保護区

指定条件:国内希少野生動植物の保存のため必要で、生息地と一体となって保護する必要があるとき

現在の指定地(計7地域)

羽田(はんだ)ミヤマタナゴ生息地保護区 栃木県大田原市

北岳キタダケソウ生息地保護区 山梨県巨摩郡芦安村

大岡アベサンショウウオ生息地保護区 兵庫県島崎郡日高町

山迫(やまさこ)ハナシノブ生息地保護区 熊本県阿蘇郡高森町

北伯母様(きたおばさま)ハナシノブ生息地保護区 熊本県阿蘇郡高森町

藺牟田池(いむたいけ)ベッコウトンボ生息地保護区 鹿児島県薩摩郡祁答院(けどういん)町

宇江城岳(うえぐすくだけ)キクザトサワヘビ生息地保護区 沖縄県島尻郡仲里村及び具志堅村

 

生息地等保護区の概念図

管理地区

概要:生息地保護区内に指定できる

禁止行為

  1. 建物などを新しく作ったり、すでにある建物を改築したり増築する事
  2. 土地を開墾するなど土地(海底含む)の形質を変化させる事
  3. 土や石などを採取する事
  4. 川・海などの水域を埋め立てるような事をする事
  5. 川・海などの水域の水量を変化させる事
  6. 木や竹を伐採する事
  7. 野生動植物種の個体やその他のもの(種子、卵など)などの捕獲等をする事
  8. 川・海などまたはそれに流れ込む川などに汚水を流す事
  9. 環境庁長官が指定する区域外で牛馬や動力船を動かしたり航空機を発着させる事
  10. 国内希少野生動植物に悪影響を及ぼす動植物種などで、環境庁長官が指定するものを放したり植えたり、その種などをまくこと
  11. 国内希少野生動植物に悪影響を及ぼすもので、環境庁長官が指定する物質をまくこと
  12. 火を使う事
  13. 国内希少野生動植物種に悪影響を及ぼす方法で、かつ環境庁長官が指定する方法でその種を観察する事

これらの規制は、非常災害時に必要な措置として行うもの・通常の管理行為や軽易な行為で総理府令で定めるもの・木や竹の伐採で、管理地区ごとに定める方法及び限度を超えないもの に関しては適用されない。またこれらの禁止行為は環境庁長官の許可があれば行ってもよい事になっているが、その許可は国内希少野生動植物種の保護につながるものでなければしてはならないとなっている。なお、この地区の指定以前にその地域でこの禁止行為をしていた者は3ヶ月間は指定後もその行為を続ける事ができる。

立入制限地区

概要:管理地区の仲に設定できる。特に国内希少野生動植物種の保護に必要なときに設定される

禁止行為:この地区に立ち入る事。ただし、非常災害時に必要な措置をするために立ち入る・通常の管理行為または軽易な行為で総理府例で定めるものをするために立ち入る・環境庁長官がやむを得ないと判断し、許可を出したものが立ち入る のは可。

監視地区

概要:生息地等保護地区において管理地区でない部分。

禁止行為:管理地区における@〜D.ただし非常災害時に必要な行為と指定するもの・通常の管理こうや軽易な行為で総理府例で定めるもの・その地区が指定される前からその場所で着手していた行為 に関しては適用されず、また環境庁長官に届出をする事で禁止行為はできるようになる(ただしその目的が国内希少野生動植物種の保護を妨げるものであるときは許可されない)

@ 保護増殖事業

国内希少野生動植物種の保存のために必要であると認められるときに行われる。

現在進行中の事業

1993年より アホウドリ・トキ(以上環境庁)・タンチョウ(環境庁・農林水産省・建設省)・シマフクロウ(環境庁・農林水産省)

1995年より ツシマヤマネコ・イリオモテヤマネコ(以上環境庁・農林水産省)・ミヤマタナゴ(環境庁・文部省・農林水産省・建設省)・キタダケソウ(環境庁)

1996年より イヌワシ・レブンアツモリソウ(以上環境庁・農林水産省)・アベサンショウウオ(環境庁・建設省)・イタセンパラ(環境庁・文部省・農林水産省・建設省)・ベッコウトンボ(環境庁・農林水産省)・ハナシノブ(環境庁)

1997年より ヤンバルテナガコガネ・ゴイシツバメシジミ(以上環境庁・文部省・農林水産省)

1998年より ノグチゲラ(環境庁・農林水産省)

 

種の保存法における問題点

レッドデータブックとのリンクがよくない:指定種になっている種数が少なすぎる。レッドデータブックはそれなりの客観的な基準から判断されてできているものだから、とくにどの種類でもCR(絶滅危惧TA類)ぐらいは国内希少野生動植物として認定するべきでは?

参考資料

生物多様性センターホームページ(http://www.biodic.go.jp)

環境庁のホームページ(http://www.eic.or.jp/eanet/)

環境庁野生生物保護行政研究会(1995) 絶滅のおそれのある野生動植物の国内取引管理 中央法規出版

文 H.I

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