日本とアメリカの種の保存法の比較
*この文章は北大自然保護研究会の例会の、第5回冬の勉強会として発表されたものです
その前に……種の保存法の補足
日本の種の保存法について
種の保存法罰則規定
以下の行為をしたものは、懲役1年以下又は100万円以下の罰金
以下の行為
以下の行為をしたものは、懲役半年以下又は50万円以下の罰金
以下の行為をしたものは、50万円以下の罰金
以下の行為をしたものは、20万円以下の罰金
その他補足事項
国や地方公共団体が行う行為に関しては以下の特例が認められる
ただし国や地方公共団体は、生計のためや人命の保護以外の目的で捕獲等を行うとき・本来譲渡できない種を譲渡する場合で総理府令で定めていないとき・管理地区で禁止行為をしようとするとき・立入禁止地区へ災害や軽易な行為や以外で立ち入る場合 は環境庁長官と事前に協議しなければならない
管理地区において指定以前にその地区で禁止行為をしていてその後もその行為を続けようとするとき、非常災害措置として禁止行為をした場合、監視地区において禁止行為をする場合は、環境庁長官にそれを通知しなければならない
アメリカの種の保存法について
罰則規定
民事制裁
この種の保存法におけるすべての規定に基づき発布されたすべての許可書や証明書のすべての規定、又は禁止行為を守らせるために発布されたすべての規則の規定に故意に違反するものや、それらの規定に違反した輸出入業者には、25000ドル(2000年12月13日の日本円で約279万円)以下の民事制裁金を科す。
この種の保存法におけるすべての規定により制定されたすべての規則(上記の証明書等に関するものを除く)に故意に違反するものや、それらの規定に違反した輸出入業者には、12000ドル(2000年12月13日の日本円で約134万円)以下の民事制裁金を科す。
この種の保存法の規定、又はその規定により発布される規則や許可書等のすべての規定に違反するものには、500ドル(2000年12月13日の日本円で約55800円)以下の民事制裁金を科す。
刑事違反
民事制裁において25000ドル以下の民事制裁金を科せられる罪を犯したものが有罪とされたときには、その者には50000ドル(2000年12月13日の日本円で約558万円)以下の罰金又は1年以下の拘禁又はそれらを併科することができる。
民事制裁において12000ドル以下の民事制裁金を科せられる罪を犯したものが有罪とされたときには、その者には25000ドルの罰金又は半年以下の拘禁又はそれらを併科することができる。
この種の保存法により与えられたあらゆる免除や許可、権限等は、そのものが種の保存法違反で刑事違反したとして有罪とされたときにはすべて取り消したり停止できる。
報償および付随費用
この種の保存法やそれに基づき発布された規則の違反による逮捕、有罪評決、民事制裁金を科すもしくは財産没収に導いた情報を提供したものには、その制裁金などの合計から報奨金を支払う。
この種の保存法のリスト種を、種の保存法違反での審議中一時的に預かったものが被った費用を、上記と同様にして制裁金などの中から支払う。
これらの報奨金を支払った制裁金などの残額が50万ドルを超えるときは、絶滅危惧種保全協力基金に預託する。
その他補足事項
長官や財務庁長官もしくは沿岸警備隊を管轄する省の長官により権限付与されたものは、この種の保存法を執行するために輸出入に際し、すべての文書やコンテナ等の検査をすることができ、しかもそれにより種の保存法違反と思われることが発見されたときにはそのものを逮捕することができる
すべての人は、自分のために、以下のことについて民事訴訟を起こすことができる
合衆国その他すべての政府機関を含むすべてのものに対して、種の保存法違反により発布された規則に違反した場合はその差止請求
長官に、種の保存法に基づきリスト種の捕獲を禁止するよう求めること
リスト種の指定について論じた第4条に関する長官の義務などを行うことを長官が怠っているときに、それを行うよう長官に指示すること
1996年6月30日現在の、アメリカ種の保存法に指定されている種数
絶滅危惧種 | 絶滅危急種 | 登録合計数 | |||
米内 | 米外 | 米内 | 米外 | ||
哺乳動物 鳥類 爬虫動物 両生動物 魚類 軟体動物 貝類 甲殻動物 昆虫 クモ |
55 |
252 |
9 |
19 |
335 |
動物小計 | 320 | 521 | 115 | 41 | 997 |
開花植物 針葉樹 シダ植物 |
403 2 26 |
1 0 0 |
92 0 2 |
0 2 0 |
496 4 28 |
植物合計 | 431 | 1 | 94 | 2 | 528 |
総合計 | 751 | 522 | 209 | 43 | 1525 |
これらを踏まえて……
日本とアメリカの種の保存法の比較
それぞれの種の保存法の概略(先週までのおさらい)
日本:個別の絶滅の危機に瀕する種について性質の違いによりランク分けし、その種そのものをターゲットにした行為に関して規定をする。また一部の種に関しては生息地も保全の対象とし、また保護増殖事業を行う種もある。商取引における届出事項・遵守事項なども詳しく規定。財産権の尊重。
アメリカ:絶滅危惧種等は2種に分けられ、日本と同様にその種そのものをターゲットとした行為に対しての規定をする。それに加えて、公共事業などのその種の破壊を狙ったものではないが、間接的に破壊が起こる行為についても規定をする。また各種禁止行為に与えられる免除などの得るまでの過程が極めて細かく規定されている。保全事業を行う際はその種の存在する州との協力を明記。全体に市民参加のための規定あり。財産権の制限。
指定種に関して
日本 | アメリカ | |
種類 | 国内希少野生動植物種 国際希少野生動植物種 緊急指定種 |
絶滅危惧種 絶滅危急種(絶滅危惧種候補) (長官が緊急に指定する種あり) |
指定法 | 自然環境保全審議会を経て閣議で決定(本文中には、政令で、とのみ明記) | 長官または利害関係人の申請により、長官がそれらの申請を専門家や一般に公表し、意見の集約後決定 |
指定解除 | 同上 | 同上 |
指定解除後のモニタリング | なし | 5年間 |
その指定種の生息地保護 | 場合によっては設定。環境庁長官が必要だと判断したときに意見を出し、それを自然環境保全審議会や地方公共団体・一般に示し、意見の集約後決定 | 必ず指定種の指定とセットで設定 |
捕獲等の禁止 | 国内・緊急では目的がその種の保全であれば許可。特定国内では商業目的でも可。 | 絶滅危惧種に関してはその目的がその種の保全であれば許可。またその目的がその種の捕獲等ではなく、別の行為に付随して起こる行為も許可(ただし長官や一般市民の意見のあとの長官の許可) |
譲渡等の禁止 | 同上 | 同上 |
リスト(指定種を全て記載したもの)の作成 | なし | 随時更新して公表 |
リストの種の審査 | なし | 少なくとも5年に一回 |
回復プラン | 一部の種で実施 | 指定種全て |
生息地について
日本 | アメリカ | |
指定法 | 上記 | 上記 |
指定解除 | 指定法と同じ | 指定種の指定苞と同じ |
ゾーニング | 監視地区・管理地区・立入制限地区 | 内容に関しての記述なし |
禁止行為 | 様々な面で規定(先々週参照) |
国などの特例
日本:あり(上記参照) アメリカ:なし
間接破壊(公共事業、連邦行為)に関して
日本:特に規定なし。ただし国の特例で捕獲等(殺傷を含む)はより容易にできるため、こと公共事業に対してはあまり種の保存法は役立たない。また先に事業を行うと既成事実として認められてしまうケースが多い。
アメリカ:連邦行為に関しては第7条で規定。許可を得るには様々なステップが必要。先行実施の禁止。
市民訴訟
日本:規定なし アメリカ:様々な点において訴訟が可能(NGOの評価)。上記参照。
参考資料
生物多様性センターホームページ(http://www.biodic.go.jp)
環境庁のホームページ(http://www.eic.or.jp/eanet/)
環境庁野生生物保護行政研究会(1995) 絶滅のおそれのある野生動植物種の国内取引管理 中央法規出版
ダニエル・J・ロルフ(1997)関根孝道訳 米国種の保存法 信山社
文 H.I