植物レッドリストから何がわかる?

 皆さんはレッドリスト、またはレッドデータブックと言うものを知っていますか?それほど大きく違ってはいないのですが、前者は絶滅の恐れのある種を一定基準の評価基準に基づき、どれくらい絶滅の危険性があるかをランク付けしたもの、後者は前者を掲載した出版物を指します。ではそのランク、及びその基準はどのようになっているかというと、まずランクは

EX(extinct) 絶滅

EW(extinct in the wild) 野生絶滅

CR(critically endangered) 絶滅危惧TA類

EN(endangered) 絶滅危惧TB類

VU(vulnerable) 絶滅危惧U類

NT(near threatened) 準絶滅危惧

DD(date deficient) 情報不足

のようになっています。そしてこれらのランクを決める基準なのですが、少々長くなるので別の場所にまとめておきました。興味のある方はここをクリックしてご覧ください。

 以上が簡単なレッドリストの紹介です。しかしレッドリストから分かるのはどの種がどれくらい絶滅の危機に瀕しているということだけなのでしょうか?レッドリストに記載される種に関しては(当たり前ですが)その植物が属する科が記されており、しかもその生息する都道府県の名も書かれています。ただし、ただ読んでいたのではそれらがどんな意味を持つか分かりません。そこで今回私はこれらの、どのかの植物がどのランクにどれだけあるかと、各ランクにはどの都道府県に生息するものが多いかといったことを調べ、分かりやすくグラフ化しました。今回はそれを報告したいと思います。なお、この解析は多分に私感の入ったものであり、あくまで一つの見方に過ぎないことを承知しておいてください。

 ます最初は維管束植物の生育地に関する分析結果です。

各地方の1都道府県あたりの絶滅危惧類の数 絶滅危惧類の多・少の都道府県ベスト5

   

大体タイトルの通りですが、左の図は日本の各地方の1都道府県あたりの絶滅危惧類の数で、右の図が都道府県別で、最も絶滅危惧類の多い、少ない都道府県ベスト5を挙げています。

左の図からは

  1. 日本の端の都道府県は絶滅危惧類が多い
  2. 九州地方は全般的に絶滅危惧類が多く、逆に中国地方は全般的に絶滅危惧類が少ない

と言った特徴が見られるかと思います。1の理由としては、日本の端の都道府県にある植物は、そこが日本における分布の南限または北限になっているものが多いため日本における存在数が少ないから、と考えられます。2の九州地方に関しては、はっきりしたことは言えないのですが、だいたい1と同じ理由で、さらに南のほうが気候が暖かいため多様な植生が成立しうる、といったところでしょうか。中国地方に関してはもう全然分からないのですが、自然が破壊し尽くされたために絶滅した種が多いのか、または開発の手などがあまり及んでおらず、絶滅危惧類になるほど減少している植物が少ない、といったことが考えられます。

次に右の図からですが、

  1. 日本の端の都道府県には絶滅危惧類が多いが、特に鹿児島県が突出して多い。
  2. 左の図では特に多くなかった中部の静岡県と山梨県に絶滅危惧類がかなり多く存在している。

と言ったことが読み取れます。ほとんど左の図と傾向は同じです。ではまず1に関して、なぜ鹿児島県に絶滅危惧類が集中しているのでしょうか。鹿児島県は県として面積が広く、また数多くの島を持っています。そして沖縄をのぞけば日本の南端に位置していると言う、複合条件の重なりによるものでしょう。数多くの島を持っているという点では沖縄のほうが島の数は多いでしょうが、開発されている度合いが鹿児島県のほうがはるかに大きいことにより、鹿児島県のほうが多くの絶滅危惧類を持つのでしょう。2に関してですが、これは正直全く予想していなかった結果で、理由は全くわかりません。ただ、次のデータと比較していただくと面白い傾向が読み取れると思います。

 次は固有種率についてです。

固有種率の高い都道府県ベスト5  
固有種率が0%の都道府県

宮城 山形 茨城 栃木 富山 福井 大阪 京都 奈良 広島

長野県の固有種率 6%

静岡県の固有種率 4%

これは各都道府県に存在する絶滅危惧類の数に対するその都道府県固有の絶滅危惧類の割合を示したものです。沖縄・北海道が多いのはある程度予想していましたが、意外なところでは東京がはいっています。これは、東京が小笠原諸島などの南の離れ小島等を含むためでしょう。東京の絶滅危惧類及び固有種の多くはこの南の島に集中していると思われます。一方先ほど絶滅危惧類の多い都道府県に入っていた静岡県と長野県はどうでしょうか。ご覧のように長野県は6%、静岡県に至っては4%しか含まれていません。これらのことから、日本の端の都道府県には特に固有種が多く存在することがわかると思います。

 次はレッドリストにおける科の割合についてです。

絶滅危惧類の多い科ベスト10 絶滅危惧TA類におけるラン科の割合

       

左の図はレッドリストに登場した科を、多い順に10個並べたものです。ラン科が圧倒的に多いですね。それを裏付けるようなデータが右の図です。これは絶滅危惧類の中でも特に最も絶滅の危険の高い、絶滅危惧TA類(CR)における、ラン科の占める割合です。CRには100科ほどの植物がリストアップされていますが、ひとつの科だけでその約20%を占めてしまうとは、非常に大きな値なのではないでしょうか。ではなぜラン科がこれほど絶滅の危機に瀕しているのでしょうか。ラン科はそれほど野生で強い植物ではないことも考えられますが、なにより美しい、またはお金になると言う極めて身勝手な理由で盗掘される個体があまりに多いからでしょう。それを裏付けるかのように、ラン科の植物の衰退要因は、60%以上が園芸採集によるものだとする報告があります()。自然レポート第1回で述べたように、盗掘は絶対にしてはいけません

 今度は変わってその他の植物(蘚苔類・藻類・地衣類・菌類)に関するデータ解析結果です。レッドリストでは植物を大きく維管束植物とその他の植物に分けています。ただしその他の植物では生息地の表現が曖昧で、各都道府県にどれだけ絶滅危惧類があるかといったことはデータの信頼性が乏しいことからここでは掲載しません。それに代わって、維管束植物では見られなかった面白いデータが得られたのでそれを紹介します。

絶滅危惧類の数に対する「和名無し」の割合

 

これはタイトルを見れば分かるのですが、その他の植物の各類の絶滅危惧類の数に対する和名無し(和名がついていない)個体の割合です。特に地衣類では20%近くにも達しています。このレッドリストに載っていると言うことは少なからず絶滅しかかっている(中にはすでに絶滅しているものもある)にもかかわらず和名すらついていないものがあるのです。やはり目に付きやすい維管束植物と比べ、はるかに研究が遅れているのでしょう(維管束植物には「和名無し」はひとつも無い)

 この様にレッドリストからは様々な事を読み取ることができます。こうして現在の生物の危機を認識したら、そしてそれを守りたいと思ったら、どんな小さな事でもいいから何か始めてみてはどうでしょうか。

* 鷲谷いづみ・矢原徹一(1996)保全生態学入門 p60 図211

参考資料

植物版レッドリスト(環境庁のホームページから)

保全生態学入門 鷲谷いづみ・矢原徹一 著 文一総合出版

文 H.I

special thanks to S.A

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