[とある少年の悲劇に対しての考察]
                               阿修羅王

 第五章 [立案と暗躍]

 夕食は、シンジ少年の奮闘により、素晴らしいものとなった。もともと、シンジ
少年の料理の腕は言うまでもないことだが、アスカの希望どおり、ハンバーグを中
心とした洋食だけでなく、ミサトのお気にいりであるつまみ兼用の和食…ちなみに
カツオとマグロの刺身が中心で、おろしたての生姜とわさびかきちんと付き、それ
に野菜と肉の煮物、ごはんにすまし汁、いく種類かの漬物などなど…までが、用意
されていた。
 ペンペンにすらイワシの焼き身が出されるという大盤振舞である。
「シンちゃーん、どうしたの?今日は豪勢ねぇ。」
「いいんですよ、何となく、今日はたくさんつくってみたくなったんです。」
「バカシンジにしては上出来よねぇ。これからも努力しなさいよ。」
 もともと、佐官である三佐待遇のミサトの給料は安くない。さらに、数々の武勲
のおかげで様々な特権がある。
 そのうえ、世界に現在数人しかいないうえに、精神汚染と、戦闘による生命の危
険をともなうチルドレン達には、当然莫大な額の給料が支払われる。ただし、金銭
感覚が狂うといけないため、成人するまでは一定額以上は引き出せないようになっ
てはいるが。とはいえ、並みの公務員よりは、その額ですらもはるかに多く、今日
の材料費もシンジ少年の自腹である。この程度であれば、出費のうちに入らない。
 シンジ少年は、エプロンを外して食卓には着いたが、自分ではいつもの量をいつ
ものペースで食べただけで、二人の旺盛な食欲を、嬉しそうに眺めていた。
「シンちゃん、また上達したんじゃなーい?この前、マヤちゃんが、いつか教えて
ほしいっていってたわよ!」
「ハッ!20才過ぎの女が、中学生に教わりにくるって、おかしいんじゃないの?
 自力でやんなさいよ、自力で!」
 シンジに女性が近付く要素は、可能なかぎり排除しておかねばならない。
 ミサトが三杯目のご飯を食べ終え、アスカもハンバーグとザワークラウト〔酢漬
けのキャベツ〕、カルトフェザラット〔ポテト〕やブラットブルースト〔焼いたソ
ーセージ〕等、その他シンジ少年の努力の成果を、残らずきちんと食べ終えると、
ようやくその日の豪勢な夕食は終わりとなった。
「ごちそうさまー!」
「ごちそうさま!」
「はい。」
 にこにこと食器の片付けに取り掛かるシンジ少年。ちなみに今日彼がつくった洋
食部門は、アスカの徹底した[指令]を受け、泣きそうになりながら料理関連の情
報を集めて、実地練習を重ねた成果である。最初の頃は、[ペンペン行き]の失敗
作も結構あったが、今では下手なレストランよりはるかに美味いとの評判である。
〔ふふーん、見なさい、ファースト!シンジは、アタシのためだけに、こぉーんな
に美味しい料理を作ってくれるんですからねぇ!!〕
 お腹がいっぱいになるとともに、敵手に対する優越感もいっぱいに満たされたア
スカ嬢は、食事前よりさらに機嫌よく、食後ののんびりした時間を満喫していた。
 もともと、シンジに半強制的にさっきのような料理を覚えるように[指示]した
のは故郷の味がなつかしかったからでもあるが、[自分のためだけ]に料理を作っ
てほしかった、という理由がきわめて大であった。
「シンちゃん、ホントにおいしかったわよ!絶対、良いお婿さんになれるわね!」
 瞬間、ミサトはあの世界の半分を消失させた、南極に荒れ狂ったセカンドインパ
クトの閃光を連想させるアスカの眼光を浴びて沈黙した。
 そのアスカの眼は、ミサトのトラウマを刺激どころか直撃するに十分すぎた。
〔はぅうううっ!!〕
 呼吸困難を起こしかけるミサト。
「…どうしたんですか、ミサトさん?」
 ふとふりかえったシンジ少年の一言が、破滅へと近付いたその場を救った。
「…あ、あれ?は、ははは、なぁーんでもないのよ、気にしないで!」
「飲みすぎたんじゃないですか?明日に響きますよ。」
 ミサトのような呑んべえにも、ちゃんと気遣いをみせるシンジ少年であった。
「そ…そうね。オフロでも入って、今日は早く寝ちゃいましょ。」
 16本目のエビチュを飲み干して、ダストボックスに投げ込むと、ミサトはバス
ルームへとスタスタと去っていった。
〔あー、危なかった。口は災いのもとだわね。〕
 若者が大嫌いな頑固親父が、[今時の若者]全開の若造に箱入り娘をかっさらわ
れかけたときでも、あそこまでの眼光は放てまい。
 ミサトはぽいぽいと洗濯機に脱いだものを放りこむと、バスルームに入ってさっ
と二、三杯お湯を浴びて、身体を洗い始めた。
 ちなみに当然のごとく湯温の設定や室温の設定もシンジの担当であり、彼の細や
かな性格をうかがわせるように、年長の同居者の好みにきちんと設定してあった。
〔こりゃ、アスカ、今夜、なにか行動を起こすつもりだわね…〕
 自慢の肢体をみがきおえたミサトは、浴槽にゆったりと身体を沈めた。
「はぁ〜…やっぱり、風呂は命の洗濯ねぇ…!」
 隠し持っていた冷たいエビチュをまた開けるミサト。
 通常、ビールは風呂上がりだと思うのだが。
 ちなみに、余談ではあるが、鈴原トウジ・相田ケンスケの両名は、
『シンジ!貴様はミサトさんと同じ屋根の下に住み!』
『おそらくは洗濯などをまかされ!』
『あまつさえ、風呂などはミサトさんの後に入ることも可能とは!!』
『この果報者があー!!』〔ここで二人同時に拳でツッコミ〕
 という追求をした事があった。シンジ少年にしてみれば、あまりミサトの後には
入りたくはない。女性特有の甘い香とともに、それだけで酔いそうなアルコールの
香が充満しており、そのまま倒れそうになったことがあったのである。
 シンジ少年にとっては、様々な意味で刺激が強すぎたのであろう。
 ともあれ、ミサトはあれだけ酒を飲んだ後で風呂につかっているにもかかわらず、
顔色一つかえるでもなく、その有能な脳細胞をフルに活用させ始めていた。
 下手をすれば使徒撃退の指揮を取っているときよりはるかに真剣な表情で、ミサ
トはゲンドウスタイルで考え込み続けた。
 その間に、またどんどんフェロモンとアルコール臭がバスルームに充満している
のに、彼女は気付いていない。
 赤城リツコ博士談・『いわゆる一つの[ミサトダシ]ね。』

 ミサトが去ったキッチンで、アスカは溢れんばかりの満足感にひたったまま、幸
せそうに、つい、うとうとしてしまっていたが、はっと我に返った。
〔いけないいけない、一応、やっておくことがあるんだった…〕
 そして、どこか楽しげにてきぱきと洗い物を片付けていっているシンジ少年の後
ろ姿を眺めて、にへらと笑いを浮かべた。
〔ふふん…どういうのがいいかしらね?そうだ、確かあれが押入れにあったわね…
 あとは、あれとあれが必要ね…〕
 犠牲者と契約したメフィストフェレスとは、こういう笑いを浮べるものかもしれ
ない。惣流アスカラングレー嬢の、見たら子供が泣きだすどころか失禁しかねない
ような、彼女の声無き笑いが、シンジ少年は五感以外のなにかに触れたのか、怪訝
そうな表情でくるりとふりかえった。
「アスカ、どうかしたの?」
「何?アンタこそどうかしたの?」
 それまで浮かべていた邪悪な笑いを一瞬のうちに消失させて、こちらも怪訝そう
な表情で返すアスカ。シンジは少し首を傾げると、そのまままた洗い物に戻った。
 ちなみに、このエプロン姿で洗い物をしているシンジ少年の姿は、アスカの強固
な主張により、一般販売はされていない。当然、いちばん家庭的なシンジ少年の姿
を眺めるのは、同居者のみの特権のはずである!というのがアスカの持論らしい。
 ミサトが小遣い稼ぎのために、アンダーグラウンドでネルフの職員に売り捌いて
いるとは、アスカは気付いてはいなかったが。
 某猫好き科学者や黒髪の潔癖性の女性、はては某ヒゲ眼鏡の親父や裏で世界を仕
切る色眼鏡の白髪のじじいなどが巨費を投入してそれを買い漁っているのは、公開
されれば国が一つ二つは傾くであろう衝撃の事実である。
「あ、そうそう。シンジ、アタシ、ちょっとコンビニまで行ってくるから。」
「え?それなら、あとで僕が行っておくけど…」
「いいのよ。食後の散歩がてらだもの。」
「でも、夜道は危険だから、気をつけて…」
「アンタ、バカァ?何のためのネルフのガードよ?普段、プライパシーを侵害され
てるんだから、こんな時ぐらいは役に立ってもらわないとね!」
 まったく突然にネルフに入ったシンジとは違い、もともとアスカはドイツでの訓
練時に、軍隊の教育を一通りは受けている。また、格闘や射撃は、自立心旺盛なア
スカにとって必須なものでもあったから、負けず嫌いな性格もあって、相当の鍛練
を積んでいた。並みの兵士よりよほど腕はたつはずである。
〔もし、男に襲われたりしたときに、泣き叫ぶだけなんて、絶対に嫌だもの…〕
 アスカは不敵な表情を一瞬浮かべると、それでも用心のために特殊警棒と小型ス
タンガンのはいったバッグを持って、葛城家の玄関を出た。
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
「きちんとオフロに入っとくのよ、バカシンジ!」
 プシュ、とかすかな排気音とともにドアが閉まったあと、シンジ少年は、えっ?
といった表情で、首を捻った。
「…なんで、お風呂?」
 碇シンジ少年がいま少し敏感であったなら、気付いたであろう。残念ながら、彼
にそれを期待するのは、少し酷というものだろうが…
 この瞬間、シンジ少年の命運は、ほぼ決定してしまったのである。そしてアスカ
の一言は、彼に対するその告知であったのである。
                             つづく

・ども、阿修羅王ッス。
 休みに突入したので、これからより一層の努力を重ねることといたします。
 とりあえずは、五章をご覧くださいッス。



第五章の公開です。お風呂ってことは、次は…いよいよ?
阿修羅王さん、万が一18禁展開になった場合のために、別のサーバにスペースは確保してあります。
安心して突き進んで下さい(笑)
にしても、オヤジまでシンジのエプロン写真が欲しいとは………俺タチと気があうじゃん!!(爆)

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