[とある少年の悲劇に対しての考察]

 第七章 [行動による意思表示]

「い…一体、彼女は…!?」
「だから言っただろ、絶対彼女のほうが早いって。」
 ダークスーツに濃い色のサングラスといった格好のネルフのガード二人は、ぼそ
ぼそとそんな会話をかわしていた。
 一人は二十歳過ぎ、もう一人は二十代後半といったところだろうか?
 2、3秒のうちに起こった出来事は、年配のガードにとっては納得済みらしい。
「相手は、殺しのプロですよ?」
「彼女を、捕縛しようとしたのが間違いだったな。色気を出すからだ。遠距離から
狙撃でもすれば良かったんだ。」
 年配のほうが、一瞬に抜き、敵の後頭部に狙点を定めていた拳銃…グロッグ17
〔旧型〕をホルスターに収めた。若いほうが、同じく抜きかけていた〔少し遅れて
いたのである〕デトニクス・45オートをややぎこちなくホルスター戻す。
 少女が、袖の中のホルダーから特殊警棒を抜き出しながら、正面の男に飛び掛か
ったのまでは見えた。ぐっと身を低くして、相手の足首の急所に特殊警棒の一撃を
叩きつけたのである。だが、その後は一体…
「エアーテイザー〔ワイヤー射出式スタンガン、現在販売禁止〕だろ。」
「あ、なるほど…」
 最後に相手に警棒を投げ付けざま、右手で真横からこめかみに打撃を食らわせ、
反対の側から左手で同じく真横から顎を一撃したのである。
 当然、頭部にはほぼ直角に力がかかる。頚椎捻挫、ヘタすれば即死である。
「ぼやぼやするな、奴らを回収にいくぞ。また、セカンドに、給料タダどりって非
難されまくるのはごめんだろ。」
「あ、はい!でも、よくこの結果を予想できましたねえ…」
 駆け出す二人のガード。
「…前の作戦部長宅での騒ぎの時、俺も鎮圧部隊に入ってたんだよ。」
「あ、なるほど。それで入院してたんですか。たしか、アバラ七本の骨折で。」
 年配のガードが、走りつつ、遠い目をする。
「…若かった…」
「あ、なんか、セカンドが、奴らに話し掛けてますよ。」
「いかん!急げ!!」

「さーて、この大事な夜に、アタシにちょっかいかけるとはいい度胸ねぇ?アンタ
どこの所属!?おおかた、常任理事国のどこかの情報局でしょうけど!」
 無言のまま、キャップからのぞく目に、鋭い否定の意志をみなぎらせる戦闘服。
「そう…じゃあ…」
 ふと、落ちていた木の実…公園の胡桃の木かららしい…を手に取ると、鋭い呼吸
とともに力をこめる。
 ビキッ!!
 アスカの白い手の中で、無残に砕け散る胡桃。
「奥義、子孫滅殺掌…食らってみるかしら?」
 アスカの視線が、つっ、と冷たく戦闘服の下半身に注がれる。
「はい、戦略自衛隊ッス。内閣情報調査局と合同で動いてますッス。」
 あっさり降伏する戦自の戦闘員。戦闘要員としてのプライドだの国家への忠誠だ
のという素晴らしい意識は、目前でパラパラと粉の落ちる右手と、その右手と同地
点を狙うスタンガン、さらには45度に傾いた視界がさわやかに消し去ってくれて
いた。
「セカンドを拉致してこいって指令だったッス。指令したのは上層部の…」
 AAクラスの機密をあっさりしゃべりたおす戦闘員。
 開始時刻から帰投予定時刻、指揮官の名前から直接責任者の名前まで、問われも
しないのに全てぶちまけたところで、アスカがさらにぼそりと聞いた。
「拉致に使うはずの車はどこ?」
「キーを差したまま、公園入り口にとめてあるッス。一般車に化けた日産のキュー
ブッス。ナンバーはハンドル右のボタンで8種類にかわるッス。」
「ご苦労。じゃ、寝てなさい。」
 ゴクッ、という不吉な打撃音とともに、アスカは身を翻してかけだしていた。

 先程のガードの二名は、予想に反してアスカが直ぐ様その場をあとにしたため、
本部に事後処理を頼んで、アスカを追った。
 …ちなみに、三人の戦時の戦闘員は、一人は足首の骨折で全治1ヵ月、一人は火
傷と神経へのショックで軽い後遺症で全治2週間〔電圧を改造で上げてあったらし
い〕最後の一人は頚椎捻挫と肋骨4本の骨折で全治2ヵ月とのことであった。
 若いほうのガードは、学生時代は中距離で国体を狙ったこともある選手だったが
危うく見失う寸前であった。やっと立ち止まったアスカは、なんと、さも当然のよ
うにそのまま停めてあった車に乗り込んだのである。
 2015年、いまだに14歳で運転免許が取得できる制度はないのだが。
「せせ、先輩!」
「わめくな、追うぞ。」
 路面にゴムの焼ける音とタイヤの跡を残して疾走を開始したキューブを、必死に
追いはじめるガード達の車。ちなみに目立たないようにと中古のマークUである。
 日本の大衆車の意地を見せ付けるような凄まじい疾走ぶりで、ものの数分で目的
地に到達する日産キューブ。アスカは、そのままその建物に駆け込んでいく。進ん
で軍隊教育を全般にわたって受けてきたアスカである。一般車程度であれば、操作
はまったく問題ないのであった。
 1分ほど遅れて辿り着いた二人のガードは、その建物を見てぴたりと停止した。
 ネルフ本部入り口。
 しかも、操縦者や高級士官用のゲートである。
「…ここまで、ですか…せっかく追ってきたのに…」
「ああ。我々の仕事はここまでだ。」
 髪も乱れ、息もたえだえのまま、茫然とつぶやく若いガード。年配のガードの方
は、肩をすくめてあっさり背を向けた。
 これ以上は、さらに高位な部署の管轄になる。平の保安部員である彼らの仕事の
範囲外であった。
「先輩…この仕事、ときどきやめたくならないッスか?」
「愚痴をこぼして世の中が改善されるようなら、俺は世の中の神という神全てを信
じてやるよ。明日も早いんだ、報告して早く寝るぞ。」
「………」
「おまえなんかまだいい。
 3日前、外出中に、セカンドの悲鳴を聞き付けてブティックの試着室に駆け付け
た同期の鈴木なんて、まだ意識が戻らないんだぞ。」
「たしか、スカートのサイズがきつくなってたんでしたっけ?」
「ああ、田中の奴、セカンドの下着姿を見ただけならまだしも、悲鳴の原因まで知
っちまったからなあ…司令や副司令から、見舞いの品も届いてたが…」
「…帰りましょうか。」
「ああ…」
 背中に組織の末端構成員の哀愁を漂わせ、とぼとぼと車に乗りこむガード二人。
 だいぶくたびれてきたダークスーツが、なぜか無性に寂しかった。

 そして、アスカは、ガードの存在などはなから無視しているように、スカートを
なびかせて、早足に司令の執務室へ進み、数分後、司令と対面をはたしていた。

「一体何の用だ、セカンドチルドレン…こんな時間に。
 貴重なパイロットとはいえ、度を過ぎた我侭はつつしめ…」
 サングラスの下で眼を鋭くするゲンドウ。
 無意味に広い部屋、故意に暗くしてある照明、意図的に、訪問者の威圧を狙って
いるとしか思えない。
〔言うわね、この人格破綻親父。いくらシンジが相手だからって、この親父を
 『お義父様』
 なんて呼びたがる奴らの気が知れないわよ。」
「…既に赤城博士を通して、こちらの要求はお伝えしてあるかと存じますが…」
「…意味がわからんな。今一度問う、何の用だ?」
 アスカは、大げさにため息をついた。
〔腹の探り合いは、時間の無駄ね。〕
「この前、マヤやファーストやリツコが、ここにきてたわよね。」
「………」
 サングラスの下で目を逸らすゲンドウ。
「バカシンジの同居権を狙ってね…」
 机の下の死角に隠されていた、緊急コールボタンを爪先で踏んで、即座に冬月に
救援を頼むゲンドウ。
「一人一人、脅迫と見返りがあったみたいだけど…
 ファーストは、使徒としての攻撃力と[一緒にお風呂]券一枚。
 マヤは、シンジの二十四時間リアルタイム画像と、それを楽しむ姿での脅迫。
 リツコは…結構すごいわね、世界中にばらまく予定の
[私は見た!特務機関ネルフ総司令の実態!ロリコン編・ショタコン編・バカパパ
編スペシャルミックス]と、
[人造人間碇ユイ・完全復活キット〔現在未完成〕]
 だったわね。」
 姿勢は完全にそのままに、全身に冷汗と顔中に涙とを流しつつ、爪先でコールボ
タンを秒間十四連打するゲンドウ。
 ちなみに、副司令の執務室では、その様子を羊羹とお茶を用意した冬月コウゾウ
が笑い転げながら終始、しっかりと観察していた。
「所詮、人間の敵は人間だよ、碇…」
 自分も淡く想いを抱いていた碇ユイをかっさらわれた恨みも少々ある。
 いや、結構ある。
 かなりあるかもしれない。
 あれだけの器量だ、引く手も数多だっただろう。だが、できればゲンドウとだけ
はくっついて欲しくなかった…
 十五年分の溜飲を一気に下げた冬月がディスクに録画しているモニターの中で、
栗色の髪の少女は、いい年してサングラスのヒゲ親父に細い指を突き付けている。
 ふと、冬月の顔が険しくなった。セカンドチルドレンが、ヒゲ親父に何事かを提案
しているらしい姿が、モニターに映し出されていたのである。
〔個人的には、碇にはもっと苦しんでほしいのだが…〕
 ネルフ副司令は、音量を少し大きくした。
                           第八章に続く

 ども、阿修羅王ッス。
 どうやら、順調に脱線しつつあります〔笑〕本当は、5章以内で終わるつもりだ
ったんですが…まだまだ未熟なようですね。
 ともあれ、皆様方の暖かい声援・叱咤激励のメールによって、やる気は十分です
ので、どうかさいごまでご覧ください。
 おそらく9章辺りから、本来の目的である[よわシン的行動]に入る予定です。
 18は難しいかも知れませんが、Rは確実に行きます!
 では。