[とある少年の悲劇に対しての考察]

 第十三章 
 [篭絡!]

 碇シンジ少年は、今日何度目だろうか、目を見開いて絶句した。
 目の前には、両手を腰に当ててたたずむアスカ嬢。そして、その左右には…
〔…撮影、機器?〕
 そこには、下手なスタジオそこのけの撮影用機材が積み上げてあったのである。
 撮影者一人でも簡単に操作できる照明器具と反射機材、見るからにゴツい一眼レ
フ、キャスター付の台に据えられた一抱えもあるビデオカメラ、およびデジタルカ
メラ各種、その他、その他。全て業務用か、それに準ずる物でかためてあった。
 顔面いっぱいに冷汗を流しつつ、シンジ少年がおずおずと眼で問い掛けると、ア
スカは上機嫌でにこっと頷いた。
「せっかくの機会だもの、[記録]をとっとかない手はないでしょ?」
〔や、やっぱりぃいい!!!〕
 もしそんなことされたら、その時点で彼の人生の方向はほぼ決定してしまう。
 [映像証拠]という首輪をつけられたシンジ少年は、ほぼ確実にアスカ嬢の所有
物となり、将来まで奪われることは疑いない。
 だが、それだけではすまなかった。
 動かない手足に必死に懇願して脱出を試みるシンジ少年の目は、撮影機材とは別
の、一山の荷物を発見してしまったのである。
 シンジの視線に気付いたアスカは、その荷物…デパートやコンビニの物らしい、
いくつかの紙袋やビニール袋のもとに歩み寄ると、一気にそれを引っ繰り返して、
中身をカーペットの上に景気よくぶちまけた。
〔……!!!〕
 色とりどりの布地が、カーペットを華やかに彩った。それは、膨大な量の、様々
な衣裳だったのである。
 第一中学の制服をはじめとして、体操着や様々な私服が、十数着ほどもあった。
それはいいとして、問題は、得体の知れない別方面の[制服]がたっぷりあること
である。そう、たとえば彼の親友、相田ケンスケが、狂喜するであろう方面の。
「あ……ア…スカ…?」
 いつになく、震えたような声でできるだけ優しく問い掛けるシンジ少年。
「うふ…うふふふふふ…」
 アスカの、いつのまにか伏せた顔の、影のなかで、蒼い双眸が怪しく輝く。
「そう…バカシンジ、これが、オペレーション・サンダーボルト…
 個人的ファッションショーに、招待してあげるわぁあああっ!!」
 〔シンちゃん強制コスプレ&強制撮影作戦〕…これが、ネルフ内部で密かに進行
しており、リスクの高さに幾度も破棄され、そのたびにリターンを捨て切れずに決
行の議論がくりかえされてきた一大イベントであった。
 工作員は葛城ミサトを筆頭に、当然、惣流アスカラングレー、対抗で綾波レイ、
押さえに赤城リツコ、伊吹マヤなどが選抜されて候補にあがり、上司からの強硬な
指示によって、比較的警戒されてなさそうな青葉シゲルや日向マコトの名さえあが
った。さらには、当然のごとく却下されはしたものの、バカパパゲンドウ自らが名
乗りをあげ、某白髪に色メガネの老人などまでオペレーションの参加を希望してた
りした。〔それだけのために世界の裏から表舞台にでてくるつもりだったらしい〕
 ともあれ、アスカ嬢が、何度も否決されてきたこの案をネルフの全面支援のもと
に復活させ、かつ、
『撮影後、そのままシンちゃんを十二分に襲えちゃったりするかもしれない』
 という実行工作員に自分を選ばせた裏には、凄まじいまでの取引があった。
 この場で撮影した未編集・無修正の写真や画像を、横流しする…しかも、シンジ
少年に着せる衣裳は、横流し相手の要望どおりで、というものであった。
 それがネルフ上層を黙らせ、マギさえ全会一致で賛成という結果をもたらし、世
界との最終戦争をも決意させた、とは、シンジ少年が知るばすもない。
 せいぜい、アスカが自分の完全なる[弱み]を掌握するためのもの、といったふ
うにうけとるといったところか。
「…あ、あはは、アスカ、冗談だよね?ね?」
「自分の身に起こる出来事をどう受け取るかは、アンタの勝手よ〔くすくす〕
 大丈夫、撮影が終わるまでは、最後の一枚は取らないから〔笑〕」
〔本気だ…間違いなく、本気だ…!〕
 最初の衣裳を手に、じりじりと迫りくるアスカ。
 しかし…シンジ少年も十四才、強くなりたいと願う世代の男の子である。好意を
持つ女性を守れるぐらいには男らしくなりたい、と、ついさっき思ったばかりだ。
 なんとか思い止まらせようと、できるだけ強い口調で、可能な限り大きな声で、
必死の反撃をはじめた。有効かどうかはともなく、この状況でこういう行動が取れ
るのは称賛に値するかもしれない。
「…あ…アスカ!いい加減にしろよ!本気で怒るからな…!」
 必死に放った一言に、激怒するかと思いきや、[優位]をがっちりキープしてい
るアスカは、かえって見なおしたように微笑む余裕すらあった。
〔無気力なのかと思ったら、ちゃんと怒ったりもできるんじゃない。〕
 ついで、その薄い唇に残酷な笑みが浮かぶ。
〔…うふふふ、でも、所有物が反抗すれば、どうなるかは教えとかないとね…〕
 衣裳を手にしたまま、シンジの上にかがみこむと、さっきのように、耳元に小さ
くささやいた。
「元気ねぇ、バカシンジ…アタシをオカズにしてたくせにね…」
 忘れかけていた[不利]を思い出して硬直するシンジ少年。
「女子のみんなに話そうかな?バカシンジの奴、毎晩毎晩、何度も何度も、アタシ
の身体を想像して[ピーー]を[ズギューン]してるって…〔作者自主規制につき
修正〕…うふふふふ、ヒカリとか、ファーストとか、どう思うかしら?」
 もはや抵抗を完全に断念。
「…アタシの下着をくすねて〔作者自己崩壊を危惧し自主規制〕したり、アタシの
留守にベッドにくるまったり、アタシの後のオフロで〔ネット発表に際して個人的
に表記不可と判断〕したりしてるって、みんなに…」
「ぼ、僕がそんなことするはずないだろ!?」
 家事一般をあずかるシンジ少年である。やろと思えば可能だろう。が、そんな命
知らずなことはするはずもない。シンジ少年とて命は惜しい。
〔チッ、もしやってたら引っ掛かるかと思ったのに…〕
 心中舌打ちしつつ、はかない抵抗にトドメをさしたアスカは、気力0状態のシン
ジ少年のパジャマのボタンに、手をかけた。
〔…か、母さん…なんか、予想以上の情況になってるよ!!〕
 彼の脳裏に浮かんだ、黒髪に白衣姿の天使…美しい母親は、荒い呼吸のまま、無
言でしっかりカメラを構えていた。
〔………〕
 絶望に気絶することは、目の前の少女が許さなかった。
「じゃ、一応、他の奴らへの[報酬]から行ってみましょうか!」
 阿鼻叫喚の時間、魔の領域に踏み込んだ宴の火蓋が、切って落とされた。

「どう、マヤ?オペレーションの進み具合は?」
「はい、先輩。なんとか、シンジくんを確保したみたいです!」
 コンフォート17近くのビルの一室、照明の消された十二畳の部屋の一遇で、
ネルフのデンジャラス美女師弟が、またも盗聴に精を出していた。
 といっても、部屋に数百と仕掛けた盗聴器は、ほとんどが除去・無効化されてし
まったため、なんと、部屋の窓ガラスに不可視レーザーを照射、それによって窓ガ
ラスの振動…すなわち中の音声…を読み取るという、新方式である。カーテンを厚
手のもので三重にでもしない限り、これは防げないといわれている。
〔もし、アスカが協定を忘れて、シンジくんを襲うようなことがあれば…〕
〔その時は、ただじゃすまさないわ…〕
〔たとえ、先輩が止めても…〕
〔マヤが、制止したとしてもね…〕
 全く同時に、同じことを考えてる二人。流石に似たものどうしだ。
 リツコは、電動式多連装クロスボウ〔無音に近いうえ、精度は銃より高い。よっ
て、暗殺に非常に向く〕を、マヤはサプレッサー付のPSG−1狙撃用ライフル
を、それぞれ密かに用意してあった。
 物騒な決意を持つ二人に観察されつつ、シンジくんの[着替え]は着々と進んで
いくのであった。

 「ふふん。抵抗なんて、無駄だって言ってるのに…」
「うう…ひっくひっく…」
 ようやく、第一段階の[着替え]が終了していた。
 アスカは宣言どおり、最後の撮影が終わるまではシンジ少年を襲うつもりはない
ようだったし、最後の一枚…シンジ少年はブリーフ派で、気分によってトランクス
…今日は黒地に白ロゴ入りトランクスだった…も取られはしなかったが、実際に、
[脱衣]という情況にさらされては、いかに弱みを掌握されてるとはいえ、反射的
に抵抗も出る。が、手足の自由が効かないのでは、せいぜい、顔を振るか、胴体を
跳ねさせるか程度である。
 そして、アスカが胴体の動き…とくに腰付近…を恍惚とした表情でじーと観察し
ていたため、それも即座に中断した。アスカ嬢は、もはや、いつでもシンジ少年を
自由にできるという情況にあるせいか、シンジ少年を一枚一枚脱がしていくときも
理性を失う事無く、自分の作り出した状況を存分に楽しんだ。自分自身を焦らして
いるのかもしれない。
ちょうど、徹夜で並んで買った超人気ゲームソフトの電源を入れ、すぐに開始した
い気持ちを押さえつつ、オープニングを最後まで見るような気分だろうか?
 ともあれ、アスカが最初に選んだのは、第一中学の体操着、半袖に短パンであっ
た。これは、普段、シンジの日常を見ることのできない、一般のネルフの女性職員
からの需要がもっとも多かったもので、それゆえに最初に選ばれたのである。もっ
とも、[普通の姿勢]は某メガネ君ががっちり撮っている。ここでしか撮れないも
のを、彼女たちは[一部、彼らは]期待しているだろう。
「よぉーし、バカシンジ、手はここ!そうそう、動かないでよね!」
 半袖の裾に手をかけて、胸元までめくりあげたポーズ…丁度、着替えで脱ぐとき
のように…で、シンジ少年は停止していた。当然、下にTシャツ等は来てない。色
白の、薄いおなかと胸元が、アスカ曰く[美味そうな]角度で見えている。
 カメラ、ビデオその他でじぃっくりと撮影は進んでいく。時折、稲光のように部
屋を照らすのは、強力なフラッシュである。
 さらに短パンの太ももの隙間から下着を狙ったり、前かがみになったえりから胸
元からを狙ったりと、盗撮野郎も後ずさるような構図で撮影は続いた。
「よぉし、じゃ、時間はたっぷりあるけど、衣裳も多いし、サクサク行くわよ!」
「…シクシクシク…だれか助けて……」
 とある少年の悲劇は、まだ開始されたばかりである。目の前の美少女は、次なる
衣裳を手に、ため息の出るほど美しい、しかしそれと同じぐらいに暗黒的な微笑を
浮かべるのであった。
                            第十四章へ続く