第1話 演説
 連邦とジオンとの戦争が始まって8ヶ月余り、連邦軍本部ジャブローでは士官学校を卒業したばかりの新兵によるMSパイロットの訓練が行われていた。
「おい、聞いたか?成績のいい奴ら数人が前線に配置されるらしいぜ」
 金髪碧眼の青年が、宿舎のある1室を乱暴に開けるなり中へ言葉をかけた。部屋の中には2段ベッドが2つあり、その中の一つに黒髪の青年が横になっていた。言葉には反応せず横になったままで、仲間の驚く顔が見たかったジャンはがっかりしながら部屋の中に入った。
「起きろよ、起きろったら、マクマード」
 ジャンは青年の名前を呼びながら、体を揺らすと彼は目覚めて起きあがった。
「なんだよ、人がせっかくいい気持ちで寝たのに・・・」
「まぁ、いいじゃないか、ところでダンとグエンはどこに行ったんだ?」
「シャワーじゃないのか?何の用だよ」
「あっ、そうだった。成績のいい奴らが前線に配置されるらしいぜ」
「そうか・・・」
 マクマードは興味なさそうに再び体を横にした。
「おいおい、相変わらず期待はずれの反応をしてくれるじゃないか。お前にも関係ある話だぜ。俺の見たところ上位10人の中にお前も入ってると思うぜ。」
「そいつはどうも。遅かれ早かれ前線に行くことは確かなんだから、そんなにあわてることもないだろう」
 ジャンは肩をすくめながら、あきれたように首を横に振った。
「無感動な奴だなぁ〜、そんなんじゃあ人生楽しめないぜ」
 その言葉に無反応のまま、腕枕をしながらマクマードは天井を見つめていた。ジャンは口を開きかけたが、肩をすくめ閉じた。しばしの間部屋に静寂が流れる・・・。突然、その静寂を破るようにドアが開き、グエンが入ってきた。
「大変だ!ギレン・ザビがTVに出てるぞ!」
「なにぃ〜」
「何だって!?」
 二人が異口同音に叫ぶ。
「ロビーに早く来い!」
 3人はロビーに向かって走っていった。ロビーには、パイロット候補生が全員揃っていた。画面には大きなガルマ・ザビの写真を背景に演壇に立って演説をしているギレン・ザビを映し出されていた。
「・・・この悲しみも怒りも忘れてはならない!それをガルマは死を持って我々に示してくれた!我々は今、この怒りを結集し連邦軍に叩きつけてはじめて真の勝利を得ることができる!この勝利こそ戦死者全てへの最大の慰めとなる!国民よ!悲しみを怒りに変えて立てよ国民よ!我らジオン国国民こそ選ばれた民であることを忘れないで欲しいのだ!優良児たる我らこそ人類を救い得るのである!!ジーク・ジオン!!」
 画面に向かって罵声を浴びせてる仲間達の中で、幾人かは膠着している戦局が一気に変わるであろうことをぼんやりと感じていた・・・・・。
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