第2話 前線へ
 翌朝、宿舎の食堂でパイロット候補生達が朝食を食べていると、教官の一人であるシゲオ・サカキが入ってきた。昨日のギレンの演説について盛り上がっていた食堂内だったが、彼が入ってくると火の消えたように静かになった。教官達はこの食堂に顔を出したことは一度もなかったので、皆不思議そうな顔や不安な顔で彼を見ていた。サカキはそんな候補生の顔を眺めながら口を開いた。
「以下の5名のパイロット候補生は本日より特別訓練を行うものとする。時間になり次第、第3演習所に集合すること!フィリップ・ラルティーグ、ロベルト・フェリーニ、ジャン・ヘンダーソン、リョウ・サナダ、マクマード・アノー、以上!」
 右手に持っていたファイルの内容を読み上げると、サカキはそのまま背を向け食堂を出ていった。しばらくの静寂の後、爆発的な歓声が食堂を支配した。名前を呼ばれた候補生達の周りには人が集まり、激励や羨望の眼差しを受けていた。ジャンは同じテーブルで食事をしていたマクマードに声をかけた。
「いよいよ、本物のMSに搭乗することが出来るんだな。楽しみだぜ!」
「あぁ、そうだな。」
「おっ!ちょっと口調が違うな?さすがのお前でもMSのことになると反応が違うんだな。」
 からかうようにジャンは話しかけ、
「ガンダムだといいな。あの赤い彗星のシャアが手こずるほどの高性能だそうだ。」
 希望に満ちた目でマクマードを見た。
「そうだな。早く食べよう、遅れるぞ」
 時間を見て、あわててジャンを始め候補生達は残りの食事をたいらげ、訓練場に向かって走っていった。

 第3演習場に来た5人を待っていたのは、教官とベージュ系統の色を基調としたMS5機であった。立ちつくしてMSを見上げる5人に教官の怒声が落ちた。
「何をやっとるか!貴様らさっさとこっちに来て整列せんか!」
 あわてて、5人の候補生達はサカキ教官の前に整列した。
「まぁ、初めてMSを直に見たんだ。気持ちがわからんでもないが。」
 ニヤリと笑い、5人の顔を順に眺めていった。
「この機体はジムといってな、先行量産したタイプだ。貴様達はこの機体のパイロットとしてコスタリカの最前線へと配属になる。3日でこの機体に慣れろ!」
「はっ!」
「マニュアルはコクピットの中に置いてある。基本的なところだけ見ろ!習うより慣れろだ!搭乗しろ!!」
 5人はそれぞれMSに搭乗し操縦し始める。実際にMSを動かすのは初めてなため、思うように動かせずぎこちない動きが目立った。しかし、選ばれた者達だけあって、3日たつと、ある程度の操縦が出来るようになってきた。

 出発前の夜。前線に配備される5人のためにささやかな壮行会が行われた。解散となり、ジャンとマクマードは二人で宿舎へと戻っていった。
「いよいよ、明日だな。」
「あぁ、そうだな。」
「なんとか、操縦出来るようになったし、あとは実戦でどれだけやれるかだな。」
「実力と運だな。」
「まったく、お前は・・・。同じ部隊に配属されるんだ。よろしく頼むぜ、相棒!」
「こちらこそ、頼りにしてるよ、ジャン」
 二人は固く握手をして別れた。
 翌朝、5人のパイロットと5機のMSが2機のミデアでパナマ基地に向けて出発した。
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第3話 遭遇