第3話 カスタム機
子供がメカニックチーフ。
その事実を聞いた俺は依然とした。何でこんな子供がメカニックを、いや、メカニックだけならまだ納得できる。しかし、チーフと聞いてそう簡単に納得できるわけはない。
「―おい、あんた。聞いてんのか」
子供ーオーリンが言った。
「え、あ、その・・・・・」
「まさか、子供が何でチーフなんかやってるんだ、とか思ってるんじゃないだろうな」
「いいっ!!な、何でそれを!?」
「・・・・顔に出てるよ」
そういうとオーリンは深いため息をついた。
「・・・すまない」
「ま、いいけどね。こんな子供がチーフやってるって、信じる方がおかしいって。それで、あんた誰だい」
「あ、ああ。俺はマーベリック・フリューゲス。少尉だ。よろしく頼む」
「ふーん、マーベリックね。ま、よろしく」
「なぁ、オーリン。ちょっといいか」
と、カストロが言った。
「ん、なんだいカストロ。」
「俺のRGM−79Gはどうなってる?」
「そうそう、俺もそのことを聞きたかったとこだ。あの壊れ具合。いったいどうすればあんなになるんだ!?」
見ると、一機だけひどい壊れ具合の、動くことが不思議なぐらいに中破か、それ以上にひどい状態のRGM-79Gがあった。ここまで帰ってこれただけで、奇跡とも言うべきだろう。
「い、いやなに。ただちょっと・・・・な」
「なんだよそれ!はっきりしてくれよ!」
「だから・・・その・・・なんだ・・・」
カストロの顔を見ると、明らかにあせっている。よほど知られたくないようだ。
「もういい!隊長に聞いてくる!!」
そういって、歩き出したオーリンをカストロは必死になって止めた。
「わ・・・わかった!言う、言うからまて!」
「最初からそういえばいいのに・・・・・。で、何であんなになった?」
「ただ・・ちょっと調子のりすぎて・・・・」
「のりすぎて。なんだ!?」
「その・・・・伏兵に気づかなくてだな・・・。思いっきり的にされて・・・・。あー!!もう!!なんか文句あるかー!!!」
「まったく。それならそうと言えばいいのに・・・・・」
「それで、結局どうなってる?」
「ありゃあ、修理に結構かかるぞ。少なくとも、今度の出撃には間に合わないな」
「あちゃ〜。まいったな・・・・」
カストロが悩んでいると、オーリンは俺に話しかけてきた。
「それで?あんたはここに何の用だい」
すっかり忘れていた。オーリンに言われて、ようやく思い出した。
「そ、そうだった。一機、余っているMSが在るだろう?それに乗ることになったから、メンテをしておいて欲しい」
それを聞いたオーリンは少し思案げな顔をしながら言った。
「ふぅん。あんたがあいつを・・・・・」
「なんだ?」
「ま、いいや。とりあえずついてきなよ」
オーリンはそう言うと、格納庫の奥のほうへ向かっていった。
その後についていくと、途中にカストロ機と思われるRGM-79Gがあった。
(やっぱ、近くで見るとさらにひどいなぁ)
「こっちだ」
オーリンは更に奥へ行った。
「これがそうだ」
「これか・・・」
目の前にあるのは、RGM-79Gのカスタム機の様だった。
あちこちに追加装甲がなされており、その分増えた重量を補うため、ジェネーレーターの出力も上がっているようである。
武装は、バルカンにサーベル、120mmマシンガンなど、他の物と大して変わらなかった。
しかし、あまり使われていないようで、多少ほこりがかぶっていた。
ここで俺は、多少疑問を感じた。
「なんで、カスタム機が余っているんだ?」
そう。カスタム機の方が性能が高いのだから、ノーマルのRGM-79Gの方が余るはずなのである。
オーリンを見ると、気まずそうな顔をしていた。しかし、ゆっくりと話し出した。
「それはだな・・・こいつに乗った奴等が全員死んでんだよ・・・・・」
「そ、そりゃあ戦争なんだから、死ぬ事だってあるだろうよ」
俺は多少驚愕しながらもそう言った。
「戦争だから・・・か。言っとくがな、死んだのはこれに乗った奴だけだぞ。それも3人・・・」
「う・・・」
そこで、オーリンの表情が自信に満ちた顔へと変わった。
「だがな、死んだ理由は分かってるんだ。こいつは出力が高すぎて、素人には扱えない代物なんだ。死んだやつらも全員素人だったよ」
「なんだ・・・驚かすなよ」
それを聞いたマーベリックは内心ホッとした。
自分は少なくとも素人ではない。だからといってプロではないが。
ここに来る以前の部隊では、小隊長を務め、そこそこの戦果もあげていた。
そして導き出された彼の結論は
(とりあえず大丈夫だろう)
であった。
「それじゃ、メンテ頼んだぞ」
マーベリックはそういうと来た道を戻っていった。
「・・・・・・・・」
そのマーベリックの後姿をオーリンは無言で見詰めていた。


マーベリックは肝心なことを忘れていたのである。
なぜそんな機体を、一番腕の立つであろう隊長が乗らないのか。ということを。
そしてもうひとつ。オーリンはひとつだけ嘘をついていた。
死んだパイロット達は全部、この部隊にこれる腕利きのベテランだったのである・・・・・・・
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第4話 偵察任務