プロローグ〜記憶〜
 人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させるようになって既に半世紀が過ぎ、地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷になっていた。
宇宙世紀0079。地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。
その一ヶ月余りの戦いで、ジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。
人々は自らの行いに恐怖した。戦争は膠着状態に入り、九ヶ月余りが過ぎ去った。
いつのまにかジオン公国軍は徐々に押され、大戦は末期へと突入していく。

ガンッ。
いきなり頭に衝撃が襲ってきた。
「いっ、痛ってぇ!?」
いきなり頭を殴られ、ハリス・クルンプはベットから跳ね起き、たんこぶができたであろう頭を抱えた。
「いつまで寝てるつもり?」
ハリスの頭を殴った凶器(調理用のおたま)を手に持ちにっこりと微笑む肩より少し長い金色の髪の毛がとても似合う少女、ソフィア・エメスがそこにいた。
問いに答えようと患部をなでながら時計を見たハリスは、その時計の針が指す所を見て仰天した。
「もう11時!?」
「今は8時だけど。」
ソフィアが呆れ顔で応対する。
「その時計、壊れてるのかな?まあいいや。早く起きてよ。せっかく作ったご飯が冷めちゃう。」
「わかったよ。着替えるからでてってくれないかな?」
「ほんと?二度寝は無しだからね!」
手に持ったおたまでハリスを指しながらソフィアは部屋を出ていった。
そんなソフィアの姿を頭ををなでながら見送った後、ハリスは着替えを取りにクローゼットに向った。

「おや。ジオンのハリス少尉がようやく起きてきたみたいだな。」
飯を食おうと一階に降りてきたら、ソフィアの父、ジェストが既にテーブルについていた。
「ジェストさんも、余り人の事は言えないみたいですね。」
ジェストの頭にもたんこぶが出来ていた。ソフィアにおたまでどつかれたのだろう。
「全く、お前が来たせいで娘が早起きになってしまったじゃないか。」
ジェストは戦争中に失った左腕の義手をハリスに向けていった。
「全く。なんで、あんな所に血だらけで倒れてたんだか。」
「おまけに記憶喪失ですもんね。」
「あれを見た時は随分焦ったぞ。」
ジェストは、連邦軍の曹長だったらしい。
だが、戦争によって妻と左腕を亡くし、軍を追い出された挙げ句に、男手一つでソフィアを育ててきたそうだ。
彼は何でも開き直る性格をしている。
それが幸をなし、昔は敵だったジオンの兵であるハリスもこの家にかくまってもらえている。
「戦争中なのに、静かな日ですね。」
「まったくだ。」
「ほらぁ!そんな所に突っ立ってないではやくご飯食べてよ。」
後ろからいきなりソフィアがハリスの背中を押してきた。
「ごめんごめん。」
そういってハリスは席につく。
「頂きます。」
ソフィアが今にも輝き出しそうな笑顔を浮かべて言った。
「召し上がれ。」

「プロケル隊を倒した連邦の連中はまだ見つからないのか!」
ジオン公国軍第11地球攻撃部隊、通称ストーム隊に配備されたザンジバルの管制室に入り、マッケイ・フレン中尉は親友を殺した連邦の部隊の探索が難航しているため、焦っていた。
「まだ見つかっておりません、中尉。」
「くそ!!」
「そう焦るな、マッケイ。」
「俺は焦ってなんかいません!!」
ストーム隊の部隊長であるフォレスト中佐が宥めようとするが、まるで聞くそぶりを見せない。
「畜生。俺がハリスの仇をとるんだ。」
プロケル隊全滅の知らせが来たのは、ほんの一週間前だった。
そのプロケル隊のメンバーの中には、マッケイの同期にして親友の、ハリス・クルンプ少尉がいた。
「マッケイの焦りが戦闘に響かなければいいですね、少佐。」
ストーム隊の副官的存在であるウルモス大尉がフォレスト中佐に問い掛ける。
「全くだ。」
少佐は密かに溜息をつくのだった。

「アースガンダムの修理が遅れすぎだ!いつジオンの連中が襲ってくるか、わからんのだぞ!!」
プロケル隊を全滅した連邦軍第十四地上防衛部隊の隊長であるアキラ・タカイ大佐は、破損した自分のMSの修理が遅れている事に苛立ちを感じていた。
「そんな事を言われましても、期待の破損が予想以上に激しい物なので一筋縄にはいかないんです。」
「もう十日以上も修理しているんだ。直ってもいいだろう!!」
タカイ大佐はいいわけしてくる新任のチーフメカニックマンのファルに、さらの様子に苛立ちを増幅させられた。
「アースガンダムの制作に携ったメカニックマンは先の戦闘でほとんどが死傷してしまったのですよ?後から来た私たちにはアースガンダムは複雑すぎて、それで修理が遅れてるんです。それくらい分かっているでしょう?」
確かに、第十四地上防衛部隊はプロケル隊との戦闘でメカニックがほとんど死傷してしまい、戦闘の少し前に造られたばかりの大佐専用陸戦型ガンダムの資料も少しばかり紛失してしまった。
そのため、戦闘により大破してしまったガンダムの修理は難航している。
「直るまで他のパイロットに任せる訳にはいかないんだ。この前のような連中とあったりしたらどうするつもりなんだ!!」
「分かりました。なるべく早く直すように努力します。」
「頼んだぞ。」
タカイ大佐は、いまだに修理が続いている自分の陸戦型ガンダム改、通称アースガンダムを見上げた。
そこには連邦では余り見ない灰色と土色のガンダムの姿があった。
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第1話 配属