第1話 配属
 コン、コン。
「フォレスト少佐、たった今補給艦が到着致しました。」
ジオン公国軍のストーム隊隊長、フォレスト・ハス少佐の貴重な休憩時間は、突然入ってきた ウルモス大尉に中断される事となった。
「わかった。今行く。」
まだ読みかけの本を机に置き、少佐はウルモス大尉の待っている扉の外に急いだ。
「今回の補給では三人の新兵と二機のザクが配備される予定だったな。」
「はい。マッケイ・フレン曹長とハリス・クルンプ伍長、コイン・ザイグ一般兵の三人です。」
「その三人はどんなやつだ?」
「マッケイは軍人になってから二週間で曹長になっていますから、期待できそうです。ハリスはマッケイと親友らしいですよ。」
「コインはどうゆう奴なんだ?」
「少々勤務態度が悪いとかで、鍛え直してやってくれとのことです。」
「・・・なぜかここには問題児が来るな。」
ウルモス大尉の説明を受けて、フォレスト少佐は苦笑するしかなかった。

〜一時間前〜
「ハリス〜!!」
マッケイは興奮を抑えられない様子でハリスに抱き着いてきた。
「いきなり何をする。」
「今日からストーム隊に配属されるんだよな。ああ〜、ようやくフォレスト少佐に会えるのかぁ。」
ハリスの苦情もマッケイの耳には届いていなかった。
「そういや、お前はフォレスト少佐に憧れてるんだっけ。」
「おうともよ。もうすぐ漆黒の嵐の異名を持つフォレスト少佐にあえるんだよなぁ。」
フォレスト・ハス少佐は「漆黒の嵐」という異名をもつジオンのエースパイロットとして、連邦の人間に恐れられている存在なのだ。
「おっ。もうすぐ少佐の待つザンジバルにつくぞ。」
「ほんとだ。なぁ、ハリス。俺の服装、どこかおかしい所あるか?」
「服装はとにかく、頭は相当おかしいな。」
「うるせえ!!」
部屋には、到着するまで二人の話し声で満ちていた。

「彼らが新しく補充された新兵だな?」
「おいおい。久しぶりに会った戦友に挨拶無しでいきなりそれかい?」
「すまなかった、久しぶりだなヒューストン。それでさっきの質問だが?」
「そうだ。このひよっこ共がおまえの部隊に配備された新兵だ。」
ハリスたちは補充艦「クナシリ」の艦長、ヒューストン・シインの横、フォレスト少佐の目の前に立たされている。
「そうか。良く来たな。私がストーム隊隊長のフォレストだ。私の隣にいるのが副長のウルモス。」
「よろしく。」
ウルモス大尉が笑顔で答えてくれたので、ハリス達は大分リラックスできた。
「よ、よろしく、お願いします!」
「宜しくお願いします。」
上擦った声で返事をしたのは、言わずと知れた(?)マッケイである。
「左からハリス、マッケイ、コインだ。少々生意気な所があるから根性鍛え直してやってくれ。」
ヒューストン艦長がフォレスト少佐と会話をしている所に、突然「艦長、補給は全て終わりました。」
と、横からヒューストン艦長を呼ぶ声がした。
「何だ詰まらん。もう少し戦友との立ち話を楽しみたかったのだがな。」
いかにも残念そうな顔をして、ヒューストン艦長がフォレスト少佐に手を差し出した。
「無事でいろよ。」
フォレスト少佐がヒューストン艦長の手を握り返す。
「お前もな。」
続いてハリス達にも手を差し出した。
「三日だけだったがおまえ達のおかげで楽しませてもらったぞ。フォレストはこう見えて結構厳しいからな。心してかかれよ。」
マッケイが三人を代表して、手を握った。
「ありがとうございます。ヒューストンさんもお気をつけて下さい。」
「お気を付け下さい。」
「じゃあな。」
そういってヒューストン艦長は補給艦クナシリに戻っていった。

カツカツという音を響かせながら、ハリス達はフォレスト少佐の後について廊下を歩いている。
途中、コインがハリスに話し掛けてきた。
「なぁなぁ。お前見たか?ここのメカニックにいい女がいたの。」
「はぁ?何言ってんだ、お前?」
「だから、女だよ。お・ん・な。いい女がここにいるんだってば。」
(だからどうしたんだってんだ。)
ハリスはこの軽薄そうな男が余り好きではなかった。いやに親しく話し掛けてくる上に下品な事ばかり言ってくる。
しつこく言ってくるコインを適当にはぐらかして、彼は隣で歩いているマッケイを見た。彼は今、憧れのフォレスト少佐に尊敬の眼差しを向け、うっとりしている。
「・・・(汗)」
そのマッケイの熱い眼差しをみて、ハリスは背筋に寒気が走るのを感じた。
(何ですか?このヤバイ視線は!?)
一方のフォレスト少佐はウルモス大尉と何やら話をしながら歩いていた。
(この視線をものともしないなんて。)
ある意味殺気よりも恐ろしいマッケイの視線を軽く流しているフォレストに、思わずハリスも尊敬の眼差しを向けるのだった。
と、フォレスト少佐はある部屋の前で立ち止まった。
「お前達、これから私の事は隊長と呼ぶんだ。」
フォレスト少佐もとい隊長が話し掛けてきた。
「はい、分かりました。」
「いい返事だ。この部屋で他の隊員が待っている。三人とも、先に入れ。」
「はい。」
言われるがままにマッケイが扉を開ける。すると。
パーン。
「いらっしゃ〜い!!」
突然部屋の中からクラッカーがなり、数人の人達が拍手していた。
「待ってました〜。ようやく酒が飲めるぅぅぅ。」
「祭りだ祭りだ、パーティーだ。」
皆口々にそんな事を言っている。
呆気に取られる三人に、フォレスト少佐がわかりやすい説明を一言。
「この部隊の人間は、祭り事が大好きなんだよ。」

「ほらほら、お前達。もう祭りは終りだ。明日も早いからな。早く寝ろ。」
フォレスト少佐が手を叩きながら未だにハリス達新兵を連れて飲んでいる奴等に注意した。
「いいじゃないですか、めでたいんだし。」
そう言ったのは、マッケイの肩に手を回して酔っているリーゼント(?)な髪型が特徴的なカシス・ホウという名の軍曹だ。
「そうだそうだ。」
周りにいる隊員達がカシスに加勢した。皆、でろんでろんに酔っている。
ハリスはこの隊の人達とうまくやっていけるかどうかが不安だった。だが、それも取り越し苦労だったのは歓迎会が始まってからすぐに分かった。
(皆、いい人ばっかりだ。)
それが、ハリスの素直な感想だ。
「ろい、ハリス〜。おまんも飲まんきゃい。」
「マッケイ・・・。」
ハリスに酒ビンを持ったマッケイが近寄ってきた時、彼は心底情けない気持になった。
(軍人になってからわずか一週間で敵のMSを二機落し、候補生の間では尊敬の対象とすらされてる男がこの調子でいいのかよ・・・。)
「ほらほら、いつ敵が襲ってくるかわからんのだぞ?早く寝て、戦闘に備えておけ。」
「そうですよ。敵が来た時に二日酔いなんていったら、シャレにならないですよ。」
フォレスト少佐の言葉を助けたつもりのハリスだったが、次の瞬間少佐から笑い声が漏れた。
「どっ、どうしたんですか!?」
「いや、すまん。お前は新しく来たからしらんだろうな。コイツらと長く付き合いたいんだったら、酒は強くして置けよ。」
ハリスは、訳がわからずきょとんとしていた。と、その様子に気付いた少佐が訳を話してくれた。
「コイツらが二日酔いしたとこなんて、めったに拝める者じゃない。酒に強い軍人が集まった部隊みたいな者なんだよ。ここは。」
余計頭が痛くなった。
(俺、あんま酒強くないんですけど・・・。)
苦悩するハリスを横目に、少佐がもう一回解散を呼びかける。
それでようやく祭りは終わり、片づけが行われた。
ハリスは自室のベットに倒れ伏して、深い眠りに就く。
あたりにはなにも存在しないかのように沈黙がおとづれた。
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第2話 漆黒の嵐