第2話 漆黒の嵐
 朝早くに、ストーム隊は連邦の奇襲を受けた。
そこここで爆発が起き、ザンジバルにものすごい揺れが走る。
「痛ってぇ。」
その衝撃で、ハリスはベットから叩き落とされた。
「なんだ、誰か俺に恨みでもあんのか?」
いまだに正常に機能しない頭でそう一人ぐちる。
いまいち記憶がハッキリしない。心なしか、少し頭が痛い気がする。
「総員、戦闘配置。MSのパイロットは直ちに戦闘準備だ。」
艦内に緊急放送が流れる。
「あっ・・・。」
その放送で、ハリスはようやく記憶の糸が繋がった。
「やばい!早く出撃だ!!」
慌ててハリスはパイロットスーツを着て、部屋を飛び出た。

「ザクU、ハリス・クルンプ出ます!」
そう一言告げ、ハリスのザクUが出撃した。
視界が一気に明るくなって行き、ザクがハッチから出てくる。
思ったとうり、他のパイロットは既に全員出撃していて、ハリスは取り残されていた。
浮いていた機体が地面に着地する。
母なる地球の鼓動が全身に浸透していったような気がした。
着地して、すぐに周りの状況を確かめる。
マッケイのザクがすぐそこにいた。連邦のMSと戦闘中だ。
ハリスは、マッケイの援護をしようとザクマシンガンのトリガーを引いた。
弾丸はジムの周りを走ったが、マッケイにはそれで充分だった。
「そこだ!」
弾に気を取られたジムに横からザクマシンガンを向けて、撃つ。ジムが崩れ落ちた。
続いてハリスは、手短なジムにザクマシンガンの銃口を向けて連射した。
ジムの体が揺れ動くのが分かる。
横から、誰かのバズーカの弾がジムに当たり、爆発した。
ジムが完全に停止したのを確認し、次の方向に向き直った。
次の瞬間、ザンジバルで爆発が起きた。

「何をやってる!?援護射撃はまだか!」
「それが、さっきの衝撃で砲塔の回線が切れちまったんですよ。」
艦長が怒鳴るが、オペレーターから帰ってきたのは悪い知らせだった。
「しょうがない、誰か機銃座に行って手動で撃ってくれ。」
「コイン、行ってくれるか?」
艦長の言葉に、オペレーターが側にいたコインに頼む。
「分かりました。」
コインは駆け出した。

「こいつか。」
コインが機銃座に座り、カーソルを敵に向け、トリガーを引いた。
すさまじい火薬の破裂音と共に弾丸が戦場に吸い込まれていく。
「ヒュー、こいつはおもしれえや。」
口笛を吹き、次の目標にカーソルを合せようとしたその時、コインの目にキャノンをこちらに構えたガンタンクが視界に入った。
「まじかよ・・・。」
キャノン砲が火を噴いた。
眼を見開いたコインに、すさまじい爆風が襲い掛かった。

「ザンジバルが・・・。」
ハリスが後ろを振り向いた時にはもう、ザンジバルの砲塔が一つ吹き飛んでいた。
「くそっ!」
そういってハリスが前を見た時、一機のジムがビームサーベルで切りかかっていた。
(避けられない!?)
ハリスが観念しようとした時、ジムがいきなり横に吹き飛ぶ。
吹き飛んだジムの後ろから、ヒート剣を構えた漆黒のドムが姿を現わす。
そのドムは、倒れたジムのコックピットにヒート剣を突き刺し、機能を停止させてから、ものすごいスピードで次の敵に斬りかかっていった。
「漆黒の、嵐・・・。」
ハリスには、そのドムが隊長、フォレスト少佐だと気付いた。同時に、なぜ少佐が「漆黒の嵐」と呼ばれるのかも。
ハリスは気を取り直し、ザクマシンガンを撃ちながら戦場を進んだ。
途中、何発かシールドにマシンガンの弾が当たったが気にしない。
ヒートホークを抜き、近くにいたジムに斬りかかる。
敵もビームサーベルを抜いて、ヒートホークを受けた。ガキッ、という音が聞こえた気がした。
ジムがはじき、斬りかかってきたので右にステップして避けてからヒートホークを頭部にめり込ませた。
ジムの頭を落とし、コックピットのある部分にひざをめり込ませた。
その時、ガンキャノンが一機、こっちに砲塔を向けているのが分かった。
「うおっ!」
反射的に横に飛びのくのと、ガンキャノンのキャノンが吠えるのはほぼ同時だった。
砲弾はシールドを半分削ぎ落とし、もう一発は味方のザクに命中した。
横でザクが爆発したのが見えた。
「あっ・・あぁぁぁ。」
突然、ハリスに死の恐怖が押し寄せてきた。
「うわぁぁぁぁ!!」
耐え切れなくなったかのように叫びながら、ガンキャノンに突進していく。
(死にたくない!死にたくない!!死にたくない!!!)
ガンキャノンの放ったビームがボディ・アーマーにかするのが分かる。
死の恐怖が膨張した。
「死にたくないんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
無意識に叫んでいた。
ただ、がむしゃらに走り、マシンガンを乱射した。
銃弾が敵の左肩のキャノンに入り、爆発する。
よろけたガンキャノンのコックピットに向けて、引き金を引いた。
弾丸は、装甲をずたずたに引き裂く。
目の前で、ガンキャノンが爆発したのを、確認できた。

戦局は有利に進み、連邦の部隊は退却した。
ハリスは無事に帰艦することができたのだ。
マッケイとの再会を喜んだ後に、コインの死亡が知らされた。
他にも、二人のパイロットが命を落としていた。
「お前達も、いつかはこうなるかもしれない。そうなりたくなかったら、集中して戦闘に望むんだ。それで少しは可能性が薄れる。」
今回の戦闘の反省会は、隊長のこの言葉で締めくくられた。
(そうだ、俺はまだ死にたくないんだ。)
隊長の言葉をもう一回反芻して、強く、そう思ったハリスであった。
コインの死は、少しだけハリスに衝撃を与えた。
確かにコインは嫌いだったが、昨日自分達と一緒に配属されたばかりの人間が死んだ。
自分もいつかはそうなるかもしれないというのが、今の彼には恐かった。
だからだろうか?マッケイの呼びかけにも気付かなかった。
「おい、ハリス。ハリス?やい、ヒヨッコ!!」
三回目の「ヒヨッコ」で気付き、同時に反射的にマッケイを殴っていた。
「いってぇな。なにすんだよ?」
頬をなでながら抗議するマッケイ。少々様になっていない。
「ヒヨッコはお前も一緒だろうが!!」
そんなマッケイにハリスは思わず怒鳴り声を上げていた。
「なんだよ〜。気付かないお前が悪いんだろ〜?」
上目遣いにマッケイが睨んでくる。しかし、頭をさすっているのでやはり威圧感はない。
「あっはははは。」
そんなマッケイの様子にハリスは思わず笑い声を上げていた。
「へっ。」
マッケイも釣られて笑い出す。
ハリスは、さっきまでの恐怖が消え去ったのを実感した。
小説トップへ
第3話 盗賊集団