第12話 フランス戦
〜同時刻、地球連邦軍第十四地上防衛部隊に配属されたミデア内にて〜
休憩中に仮眠を取っていたアキラはふと、目を覚ました。
今だまどろみの世界にある頭を振って現実の世界に戻す。
その後大きく伸びをしてから辺りを見回した。
「あら、起きてらしたのですか?」
横からそんな声が掛かってくる。
そちらの方へと顔を向けると一人の女性がいた。
「おはようございます、大佐。」
その女性が近寄ってくる。
腰の辺りまで伸びた紫色の長い髪がふわり、と浮き上がった。
いつのまにか目の前まで来た顔。その優しい瞳が覗き込んでくる。
「大佐、ちゃんと返事をしてくださいな。」
その女性が以前、覗き込んだままのその顔を膨らまして抗議の声を漏らして来た。
その可愛らしい動作が何故か可笑しくなり、アキラはククッ、と笑い声を上げた。
「ああ〜!どうして笑ってるんですか!?」
「ははは。ごめんな、ミリィ。」
ミリィと呼ばれた女性は更に頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「もう、大佐なんて知りません。」
「だから悪かったって。それより、どうしたんだ?」
拗ねてしまったミリィを見て、苦笑混じりにそう聞く。
「いえ、大佐は何をしてるのかな、と思いまして。」
「そうか。苦労なのかどうかは知らんが、とにかくご苦労だった。」
「どういたしまして。」
さっきまでの拗ねた表情はどこへやら、にっこりと笑顔を浮かべるミリィ。
二人の間には和やかな雰囲気が流れていた。
「よくお眠りになれましたか?」
「ああ。それより、いつ来たんだ?」
「えっと・・・。」
顎に指を当てて考える素振りを見せる。
よもや、こんな華奢な女性が最前線で活躍するMSのパイロットで今まで何十機と敵機を倒している筋金入りのエースパイロットだとは、流石のアキラ隊長も初めて会った時は信じられなかった。
だが、実際に戦闘に出ると彼女は一人で六機のMSを落とし、唖然としている隊員達に向って微笑みを向けて来た。
天使の様な可憐な笑みもその時ばかりは死神の微笑みと思えたのを今でも覚えている。
(・・・うっ!!)
ぞくぞくと背中に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ。
記憶の中にあるその笑顔を思い出したら、またその時の恐怖が蘇って来た。
「大佐・・・?」
ミリィの声に、どうにか現実の世界に帰ってこれた。
「えっ・・・。」
首を忙しなく動かして、自分の部屋である事を確認する。
さっきまで気を失っていたのかもしれない。
(かっこわりぃ〜。)
がっくりと肩を落とし、その額を手で支える。
「大佐・・?どうかなされたのですか?顔色が余り優れないようですが・・・。」
「・・いや、なんでもない・・・。」
心配そうに下から覗き込まれたミリィの顔を見て、幾分か落ち着く事が出来た。
「・・・そうですか。」
それでもミリィは心配そうな瞳で見つめてくる。
そんなミリィをそっと抱きしめた。
「えっ・・・。」
いきなりの事に困惑した声を出すミリィ。
アキラはミリィの頭に掌を乗せて、撫でてやる。
さらっ、とした髪の感触とふわっ、と辺りに広がる甘い匂いが心地よい。
「んっ・・・。」
以前赤い顔をしたまま、ミリィもまたぎこちない動きで背中に手を回して来た。
「・・・。」
そのまま二人が唇を重ねようとしたその時、ミデア全体に激しい振動が襲って来た。
「なんだ!!」
顔を上げ辺りを見回す。
と、部屋に設置してあるモニタにキリーク少佐が写った。
「大佐!・・・あっ、失礼致しました!!」
アキラ大佐とミリィが抱き合っている所を見て少佐が慌てて通信を切ろうとする。
「キリーク、いいから状況を報告しろ。」
大佐はミリィから離れると冷静に問いただす。
「はい。敵戦艦、恐らくザンジバルと思われます。が奇襲をかけてきました。現在交戦中です。」
そう報告するキリーク少佐の後ろで艦長が何やら怒鳴っていた。
「分かった。俺とミリィもすぐに行く。待ってろ。」
そういって通信を切るとすぐに振り返った。
そこには、少し淋しそうな顔をしたミリィがいる。
「ミリィ。状況は分かったな。すぐに出るぞ。」
「はい。」
以前淋しそうな顔をしているミリィに近づくと、すっと唇を奪う。
「えっ・・・?」
すぐに顔を離すとミリィの背中を押して、
「この続きはまた後だ。」
等とキメ台詞を残してアキラはドアを出て、MSデッキへと走っていった。
「待って下さい!」
その背中をミリィが追いかけていった。

今回戦場となった場所は、フランス東部にある廃虚と化した町だった。
そんな中、MSが散開して敵に向っていく。
時々、戦艦からの援護射撃が飛び交い、爆発音が轟く。
「来た!」
ザクUの中にいるハリスは、敵戦艦からMSが出てくるのを見てそちらがわに機体を向けた。
と、後ろのザンジバルからゾックが出撃してくる。
「よう、ハリス。ゾックの力、見せてやるぜ。」
ミノフスキー粒子の干渉でノイズだらけで聞き取りにくいが、カシスがそう言って来た。
「大事なゾックだ。壊すなよ。」
ハリスはそう返事をして機体を走らせた。
横で見慣れないゲルググが走っていった。
「すっげ。」
そのスピードに思わず感嘆の言葉が漏れてしまった。
一瞬目の端にジムの姿が浮かぶ。
それと同時に機体を横にステップしていた。
先程まで自分がいた場所にビームの粒子が飛ぶ。
ビームの飛んで来た方向へとザクのマニュピレーターが引き金を引き絞った。
その弾丸は吸い込めれていくように相手に向っていく。
が、間一髪でジムはその弾を避け、ビームを放ってくる。
「くそっ!」
横に移動してそれを避けて、敵の周囲を観察するように回っていく。
タイミングを見計らい一気にバーニアを吹かして相手に近づくと近距離でマシンガンを乱射した。
そのジムもこちらの攻撃が分かっていたのだろう。そこにステップして弾丸を避けようとするが左腕の関節に当たり、腕がもげた。
しかし、この近距離から放たれた弾丸を避ける事が出来たのはそのパイロットの腕が良いからだ。
ジムはビームサーベルを抜き放つとこちらに身構えた。
ハリスも負けじとヒートホークに持ち替え斬りかかっていった。
サーベルとヒートホークがぶつかり合い、そこから飛んだビームの粒子が二機の装甲を溶かしていく。
体勢を立て直そうと後ろに下がると、さっきまでハリスが居た場所にミサイルが飛んで来た。
ジムとザクの間で爆風が広がり、爆音が轟く。
そちらがわにカメラ・アイを向けると、他のジムがハリスにミサイルランチャーを向けているのが見える。
「・・・っくそ!」
最初に戦っていたジムもビームライフルに持ち替えてきた。
横からミサイルが飛んでくる。
横にステップしてその攻撃をかわす。
すぐ横で爆風が広がっていく。
その爆風の中をビームが飛んで来た。
「よしっ。」
この状況なら大概が後ろに避けただろう。
それが分かっていたからこそ、ハリスはあえて横に回避した。
クラッカ−を取り出してビームの飛んで来た方向に投げた。
凄まじい爆発音が響き渡るのと同時にザクマシンガンに持ち替え、ミサイルランチャーを持っていたジムが居るであろう方向に向けて乱射した。
次に煙の中を駆けて、ビームライフルを持っていたジムに突撃する。
煙から抜けると、左腕がもげたジムがビームサーベルを持って斬りかかってきていた。
その頭部を狙いマシンガンの引き金を引く。
サーベルを振り上げていた程の近距離から鉛弾を食らったジムはもんどりうって後ろに倒れ込んだ。
急いで撃ったせいか、頭部を狙ったつもりがボディをずたずたに切り裂いている。
次に視点を後ろに回し、先程までミサイルランチャーを構えていたジムの様子を見る。
先程撃ったザクマシンガンの弾が左のバーニアに当たったのだろう。
そこから煙を噴いている。
それでも敵はビームサーベルを抜いて切っ先をこちらに向けていた。
ハリスもマニュピレーターにヒートホークを握らせ、構える。
一瞬の間をおいて一気に飛び出すと、そのままの勢いで突撃していく。
ジムもまたこちらに向けて走り寄ってくる。
ジムがサーベルを振りかぶった瞬間、ハリスはそのがら空きのボディにショルダータックルを食らわせた。
ジムが吹き飛んだところを、バーニアを吹かして近寄る。
倒れていてもなおサーベルを振りまわすジムの腕を切断すると、コックピット目掛けて斧を振り下ろしていた。
ザクに中腰の姿勢をさせながら、ハリスはコックピット内で荒い息を吐いていた。
モニタに写る倒れ伏したジムの姿が、基地で見た、自分が殺した連邦の兵士とかぶる。
「あっ・・ああっ・・ああ・・。」
自分もいつか、こうなる日が来るのかと思った時、言い知れぬ恐怖と死への絶望が襲いかかって来た。
その感覚に押しつぶされそうになる。
頭の中が恐怖でいっぱいになり、全身の震えが止まらない。
がちがちと歯を鳴らし、肌と言う肌には鳥肌が立った。
「うあああぁぁ・・・。」
いっそ叫んでしまいたくなるが、恐怖に震える唇からは鳴咽の様な呻き声しか出てこない。
そこが戦場のど真ん中だと言う事もお構い無しに、ハリスはコックピット内で震えるだけだった。
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第13話 シグ・ザウエル