第13話 シグ・ザウエル
戦場を駆けていく一つの機影があった。
そのスピードはザクとは比べ物にならない程だ。
その機体に乗っているのは「P230」のコードネームを持つジオンのエースパイロット、シグ・ザウエル。
地上戦に不慣れな彼は、まず初めての機体と初めての場所に馴染む事から始めた。
今まで使っていたMSを地上専用にした機体だからだろうか。何故かしっくりと体に馴染んでくる。
「機動性は上々だな・・・。」
ポツリ、と呟き、MSの視点を近づいて来たジムに向ける。
カーソルを合わせてスイッチを押すと、そのMS、陸戦型ゲルググのマニュピレーターがビームライフルの引き金を引き絞った。
その銃口から飛び出したビームは瞬時にジムを貫く。
そのジムが最後に撃っていたマシンガンの弾がゲルググの装甲を傷付けるがびくともしない。
「射撃性能も高いし、装甲も・・。充分だな。」
自分の目で確かめた新しいパートナーの性能に満足げな笑みを浮かべる。
横から攻撃して来たジムに、反射的に後ろに飛んでいた。
「瞬発力も良いな・・・。」
自分の操縦に余裕でついてくるこの機体に、更に満足そうな笑みを浮かべる。
機体を前に向け、一気に走り出した。
「加速力も充分だ!次は・・・。」
目の前まで迫ったゲルググに、ジムは慌ててマシンガンを乱射する。
だが、そこにゲルググの姿はなかった。
ジムが辺りを見回しているその一刹那、上からのビームの刃によって両断されていた。
爆発に巻き込まれないように後ろに下がる。
「運動能力も申し分ない。格闘能力もなかなかだ・・・。」
ナギナタをしまい、ビームライフルに持ち替える。
「こいつなら、何を注文しても答えてくれそうだ!」
レーダーを見て次の獲物を探す。
「連邦のMS反応が四つ、か。」
レーダーの示す方向に機体を向けた。
そこには背の高いビルが聳え立っていた。
上に飛び上がり、ビルを越えて反対側に行く。
上からビームライフルを三発、連射した。
「連射性も高いな。」
呟いている間にもビームは二機のMSに命中、爆破させる。
そのまま下に着地して、ライフルを構える。
よもやこのビルを越えてくるとは思わなかったのだろう。呆然と立ち尽くしていたジムはそのままビームの餌食になった。
次の獲物へと視線を変えると、先程まで居たMSがいない。
ガコッ、という衝撃と共にゲルググが倒される。
後ろでは、先程のMS達の小隊長なのだろう。陸戦型ガンダムがこちらを睨んでいた。
「このっ・・!」
機体を立て直し、後ろに下がる。
ピン、とした緊張感が二機の間に流れる。
お互い、相手の出方を伺っていた。
一瞬でも見逃すまいと、シグはじっとガンダムを見つめた。
それはガンダムのパイロット、キリーク・ストロン少佐も同じだった。
「新型だろうがなんだろうが、倒す!」
先に出たのはキリークだった。
バーニアを吹かして上へ飛び上がると、ビームライフルを連射してくる。
目測しづらい上からの攻撃に、シグはただ避けるだけだった。
「くっそ・・。」
コックピット内でうめきつつ、敵がビームライフルをこちらに向ける時の微妙な動作に反応して、回避する。
それを明確にするために、わざわざ大袈裟に動いているのだ。
相手が降りて来た時、その時を狙ってライフルを撃つシグ。
それを見透かしていたかのように回避するキリーク。
ほぼ互角と見える双方の実力は、互いに致命傷を与える事が出来ないまま続いていた。
それは次第に焦りとなって心に溜まっていく。
何時しかお互い、ビームライフルのエネルギーが切れていた。
「くそぉ!」
「なっ、エネルギーが・・・。」
二人はコックピット内でバラバラの事を言いながら接近戦用の武器に持ち替えた。
ゲルググが加速を付けて間合いを縮めてくる。
待ってましたといわんばかりにガンダムはボディ・バルカンを掃射した。
その弾がゲルググに当たり装甲を削るが、何とも無いかのように斬りかかって来た。
それをサーベルで受ける。
ビームの粒子が弾け飛び、お互いの機体を明るく照らす。
「ぐおおおお!!」
シグがコックピット内で吠えた。
その声に答えるように、ゲルググは空いている左マニュピレーターをガンダムのボディに叩き付ける。
「ぐぅっ!」
キリークにものすごい振動が襲って来た。
ヘルメットにひびが入り、いくらか出血もしたらしい。汗だくの額を生温かい物が流れていく。
更に第二撃を繰り出そうとするゲルググのマニュピレーターを受けると、今度はガンダムが膝を折ってゲルググに食らわせる。
が、それはシグがゲルググの足で受け止めていた。
ガンダムのサーベルを弾き、バーニアを全快にして体当たりをする。
「うわっ!」
ガンダムはゲルググのその攻撃に押し倒されて、キリークの体をものすごい揺れが襲った。
ゲルググはガンダムに馬乗りになるような格好になった。
「くらえ!」
ナギナタを上に振りかぶる。
「ぬおおおお!」
キリークはバーニアを全開にして脱出しようとした。
「っ痛ぅ・・・。」
その勢いで振り落とされてコックピット内にも振動が伝わってくる。
今度はキリークがゲルググに突撃をかけた。
サーベルを横に水平に振る。
シグは機体を一歩下げて、サーベルが通り過ぎたところを交差するかのように斬りつける。
ガンダムがシールドでゲルググのマニュピレーターを受け止め、サーベルで突く。
その攻撃を、ナギナタを回して受け流す。
左腕のシールドをガンダムのカメラ・アイに近づけて視界を封じる。
「うわぁっ・・・!」
人は視界を封じられると混乱する。
特に命を賭けた戦場ならば当然だ。
キリークは頭の中が錯乱して普段の冷静な判断が出来なくなった。
ただ闇雲にサーベルを振らせようとするだけだ。
しかし、当のサーベルはゲルググのナギナタによってブロックされている。
キリークの体を激震が襲った。
ゲルググが蹴りを食らわせたのだ。
ガンダムの機体が吹き飛ばされ、尻餅を搗く。
視界が開けた。
まず目に飛び込んで来たのはゲルググがこちらに向ってきている所。
ヘルメットのバイザーを上げて良く確認しようとする。
その目に赤い液体が入って来た。
「くそっ・・・。」
目を擦り必死に事態を把握しようとする。
急に辺りが眩いばかりの光に照らされたかと思うと、もう彼の魂はこの世に無かった。
シグは、さっきまで死闘を繰り広げていたガンダムのボディからナギナタを抜くと、後ろに飛びのいた。
目の前で爆発が起こる。
「手強い相手だった・・・。」
ヘルメットを外し、汗でぐしょぐしょになっている額を手の甲で拭った。
いままで戦って来た中で、これほどの腕を持つ敵はいなかった。
そのせいか、体が異様に緊張している。
倒した事からどっと、疲労感が押し寄せて来た。
安心していたせいか、注意力散漫になっていたせいで、ジムが三機、後ろにいるのに気付かない。
ジムがビームを放った。
そのビームはゲルググに左腕の肩に当たり、爆発させる。
「なんだ!?」
ゲルググの機体が横に吹き飛び、近くのビルに倒れ込んだ。
「ぐぅ!」
頭を打ったらしい。視界がぐらぐらと揺れる。
それでも機体を起こし、猛然と目の前の敵に斬りかかった。
先頭のジムを両断して、その右隣のジムのコックピットにナギナタを突き刺した。
ばっ、と後ろに飛びのき爆発を避ける。
その後マシンガンを放っていたジムのボディにショルダーアタックをかけた。
そのジムは吹き飛んで近くのビルに叩き付けられる。
そのボディは大きく拉げている。中のパイロットはコックピットに押しつぶされてバラバラになっているだろう。
その時、レーダーにMS反応が映った。
「後ろか!」
横に飛んでその方向を見る。
そこには、ビルの上にのった土色と緑色でカラーリングされたアキラのアースガンダムが佇んでいた。
シグはゲルググを近づかせると、挑発するかのようにゲルググの中指を立てた。
その挑発に乗ったアキラはビームサーベルを抜くとアースガンダムを地に付ける。
そのまま一気に加速して斬りかかった。
異様なスピードで振られるサーベルを受け流し、逆に斬りかかっていく。
アキラは左腕のビームガンでゲルググの足の間節を貫き、その動きを停止させようとした。
ゲルググの右足が爆発した。
「ぐわぁぁ!」
さらにアースガンダムがゲルググを弾き飛ばす。
それで後ろのビルに激突したゲルググに向けてビ−ムを放った。
それを分かっていたかのようにナギナタで受け止める。
「あんなボロボロの機体でよくやる・・・。」
敵ながらあっぱれと言うように口元に笑みを浮かべて斬りかかる。
それをナギナタで受けたゲルググに向けてビームガンを撃った。
それはバーニアを吹かして上に行こうとするゲルググの右肘に命中して、オイルが溢れ出した。
「何ぃ!?」
それによりゲルググはビームナギナタにエネルギーを送る事が出来なくなり、ビームが消滅した。
「そこだ!」
アキラはその隙を逃さずビームガンをゲルググに向けて撃った。
「くぅ、眩しい!」
放たれたビームはゲルググの腰の辺りに当たった。
エンジンに掠って爆発する。
その炎に包まれて、シグの体はこの世から消滅していった。
空中で爆発したゲルググを見届けてから、アキラはアースガンダムを他の場所に向けた。
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第14話 カシス・ホウ