第3話 盗賊集団
 バン、という威勢のいい音と共に欧米地区の盗賊団リーダー、ジョンク・ハリの扉が開かれた。
「リーダー。さっきすぐそこで連邦とジオンの戦闘があった模様です。」
「そうか、日没まであと四時間だ。四時間後にジオンの方を叩くぞ。」
「はい、リーダー。」
旧世紀でのポーランドとスロバキアの国境辺りにあるこの町は三ヶ月前に戦火に遭いボロボロにされた。
そのおかげで、この町には欧米地区の盗賊達に根城として使われている。
彼らは連邦にも、ジオンにも属さずに気ままに生きて、戦闘が近くにあったと聞いたら日没を待って現れる。
戦闘で消耗したであろう部隊に奇襲をかけて、すべてを奪い去り、売り払う。
戦場の後始末では満足できずにスリルと興奮を求めた結果がプロの軍人との戦闘なのだ。
さすがに使用するMSは現地回収型なので使用されるパーツや機体はバラバラだが、彼らにはこれまで生きてこれただけの運と実力が有った。
そんな彼らが今回の獲物に決めたのは、ハリス達のいるストーム隊だった。
そんな彼らもその部隊に噂に名高い「漆黒の嵐」がいる事まではしらない。
やがて日没が過ぎ、彼らは動き出す。
「おい、居場所はつきとめてんだろうな?」
「はい。フウがついてます。」
「よし、では行くぞ!!」
「おお!!」
彼らは獲物の元へと各自の機体を走らせた。

連邦との戦闘を終えてまだ間も無い時間に、ストーム隊はまたも敵の奇襲を受けた。
違う点は一つ、連邦か盗賊か。もっとも、敵にはかわりない。
「今度は何だ!?」
ハリスは格納庫に急ぎながら、隣にいたマッケイに話し掛けた。
「どうせまた敵の奇襲にあったんだろ。」
「レーダーはどうしたんだろ?」
「さあな。とにかく、急ぐぞ。」
言い、マッケイが走る速度を上げた。
「元気だな・・・。」
そんなマッケイの様子に一言呟きながら、管制室前に通りかかると、艦長がなにやら叫んでいた。
「なぜ敵MSの接近に気付かなかったんだ!!」
「どうやら、先の戦闘でレーダーが故障した模様です。」
「なぜ気付かなかったんだ!!」
「申し訳ございません。」
「おのれ、これで敵が連邦の連中だったら大変な事になっていた。」
艦長がうめくような声でそう、口にした。
(て、事は敵は連邦じゃないのか。)
「盗賊ごときならフォレストが何とかしてくれるからいいものの、次はこんな失敗は許さんからな。」
(盗賊、か。)
ハリスも噂で聞いた事があった。
戦闘で消耗した部隊に急襲し、すべてを掻っ攫っていくだの行かんだの。
そんな事を考えていたら、ふと、自分が何をするべきかを思い出した。
「いっけねぇ。早く行かなきゃなんねえんだ。」
ハリスは急いで格納庫に向った。

今は夜だ。そのため、昼間よりも戦場はわかりやすかった。
すぐそこで戦闘をしている者もいれば、向うの方で閃光が上がる。
着地したザクUのコックピット内で地上の感触に酔いしれていたハリスに、突如、待ち構えていたかのように一機のジムがヒートホークを振り上げて眼前に迫っていた。
「何ぃ!?」
不意をつかれたハリスの目の前でバズーカのそれであろう爆発が起き、轟音と共にジムが吹き飛ぶ。
バズーカの弾が飛んできた方向を向くと、真夜中だからこそ、火の玉にも見えるモノアイが光っていた。
そこには少佐のドムが左手に装備されたバズーカとグフのような五連装機関砲がこちらがわに向いているのだろう。
「そこのザク、誰だ?」
少佐が通信回線を開き、ハリスに話し掛けて来る。
「隊長、ハリスです。さっきはありがとうございました。」
「ハリスか。艦ではパーツが足りなくて悩んでるようだからな。敵のMSはなるべくコックピットを狙ってくれ。後でちゃんと回収しろよ。」
「了解!!」
「相変わらずいい返事だ。」
そういって少佐が通信を切った。
ドムが一気に駆け上がり、MSを撃破していく。その様は壮観なものをハリスに感じさせる。
そのドムに、一機のグフが近づいていた。

ジョンクのグフは漆黒のドムを次の獲物に定めた。
「へっ、まさか噂に名高い漆黒の嵐の部隊に当たっちまうたあな。俺もつくづく運がねえってもんだ。」
その右手だけがザクUのグフはある程度の距離まで詰めると、機関砲を目くらましにして上に飛び上がった。
空中でヒートソードを抜き、斬りかかる。
「くっ。なかなかやるじゃないか。」
目測しづらい真上からの攻撃に、少佐はたまらずドムを横にステップさせる。
そのままヒート剣を抜こうとするが、真横に来たグフがこちらがわに斬りつけてきたため阻止された。
「ほう、あれを避けるか。」
ジョンクは素直に感心し、機関砲を連射する。
ドムも負けじと機関砲を撃ち、バズーカを発射した。
「なんのこれしき!!」
空中に浮いたグフの周りにマシンガンの弾が走る。
「なにをっ!?」
右肩についたシールドを傷つけた奴がいる方を向くと、そこにはハリスのザクがマシンガンを構えたまま制止していた。
突然、ジョンクの体に激しい揺れと共に爆音が響き、画面にノイズが走る。そのままグフは地面に倒れ伏した。
「くそ!カメラがやられたか!」
右マニュピレーターにコックピットハッチをもぎ取らせ、グフを起こそうとしたジョンクのいるコックピットに熱い鉛弾が注ぎ込まれた。
ジョンクが最後に見た映像は、ドムが自分に機関砲を向けている所だった。

少佐の援護を終えたハリスは現在、ジムと交戦中だった。
ビームサーベルをはじいたら、下から突き上げるようにヒートホークを振る。
それを避けたジムは再度斬りかかってきた。
それをシールドで受け止め、後ろに下がる。
敵がビームサーベルを突いてくると、ハリスはヒートホークではじき、ボディを蹴る。
よろめいたジムに向けてヒートホークを振り上げると、バルカンが行く手を阻む。
そんな事が繰り返されていた。
(こんなとこで死ねない。)
両パイロットの胸には、その思いが強く刻まれていた。
そんな極限状態だからこそ、二人の集中力はぎりぎりまで高められ、一歩も譲らない戦いが繰り広げられている。
不意に敵がビームサーベルを振りかざした。
「よし!!」
チャンスとばかりに懐に飛び込む事ができたハリスは、思わずそう叫んでいた。
後から鉛弾がザクを追ってくる。
「なにぃ!?」
左肩のスパイクをコックピットにめり込ませたら、すぐに後ろを向き、鉄の塊とかしたジムの陰に隠れる。
と、さっきまでマシンガンを乱射していたジムの頭をしたザクが爆発した。
ジムを投げ捨てると、ハリスはそこまで足を傾けた。
覗いてみると、マゼラトップ砲をもったザクがこっちに近寄ってくる。
「よう、ハリス。俺に感謝しろよ。」
おもむろに接触回線を使って通信すると、カシスがそういって親指を立てていた。
「なんせ俺がいなかったら、お前はあの不細工なジムに殺られてたんだからな。」
「ああ、ありがとう。」
「おい、ハリス。そろそろ戦闘も大方終了したみたいだから、パ−ツ持って帰艦しろだとさ。」
マッケイのザクが壊れたMSを担ぎながら近寄ってくる。
「わかった。カシス、お前も聞いたろ?」
「はいはい。帰りますよ。」
そういってザクが後ろを向いて歩き出した。
ハリスは、さっき破壊したジムを持って帰り道を急ぐ事にした。
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第4話 それぞれの部隊