第22話 ベリアル
アキラは基地内を溜息交じりで歩いていた。
フランス南西部にある連邦軍基地にアキラ達を乗せたミデア輸送機が着陸していた。
結局、アースガンダムを始めとするMS達が新米メカニック・クルーでは手に負えなかった為に基地での本格的な整備をする為に駐留したのだ。
そこでは、嬉しい事に多くの物資や人員を確保できた。
それもこれも、先の戦闘でジオンの空色の流星率いるプロケル隊の全滅という戦果が在ったからこそだった。
更にそのおまけとして、ビッグ・トレーのカスタムタイプの戦艦が三隻ももらえた時は手放しで喜んだ物だ。
そんな中でアキラは「問題児」を一人、押し付けられた。
たまたま別任務で出払っており、基地内にはいなかったためにまだ会っていない。
それが今日、任務から帰還したという事で司令室に呼ばれたのだ。
どんな人間かは分からない。
ただ、分かっているのは、「ベリアル」と言う悪魔の異名を持つ事だけである。
そんな事を考えていると、すぐに司令室に着いてしまった。
また、気分が沈んで溜息が出た。
それでも覚悟を決めて扉の前に立つ。
「失礼します。第十四地上防衛大隊のアキラ大佐です。」
事務的な口調で喋り、中に入る。
すると、司令官のコーク大佐が待ちわびたようにこちらを見た。
「遅いぞ、アキラ大佐。」
そのコーク大佐の隣に長身の士官が立っていた。
「こちらが今日から君の部隊に配属される事になったホスト・フリー大尉だ。」
そう言ってコーク大佐が長身の士官の肩を叩いた。
「ベース大尉。こちらがアキラ大佐だ。」
コーク大佐が今度はアキラの肩を叩いた。
「十四大隊のアキラだ。」
「俺がホスト大尉だ。よろしく。」
そう言ってベース大尉こと「ベリアル」が手を差し出して来た。
「こちらこそ。」
アキラがその手を握る。 「じゃぁ、部隊の説明をするから・・・。」
アキラがそう言いかけたところでコーク大佐が咳払いをし、
「アキラ大佐。話しがある。」
と、言った。
「あ、はい。」
そのままコーク大佐に付いていこうとするとホスト大尉が
「俺はどうすれば良いんだ?」
そう問い掛けて来たので、
「先に行ってくれ。・・そうだな、ミーティング・ルームだ。」
「分かったよ。」
その言葉を後にホスト大尉はさっさと出ていってしまった。
「それで、話しとは?」
ホスト大尉の後ろ姿を視界の隅に納めながら、とにかく話しを聞く事にした。

「う〜・・・。」
結局アキラは、来た時より更に頭を抱えながら廊下を歩く事になった。
やはりホスト大尉ことベリアルは問題児だったのである。
ただの問題児ならまだ良い。
それが、ただの問題児ではないから更に困り者だ。
アキラは、手の中にある物を憎らしく見つめた。
それは、先程コーク大佐から預かった物だ。
それは、爆弾のスイッチらしい。
それを説明された時は本当に驚いた。
ホストという男は、最近連邦軍に入隊したと聞いていた。
そのくせMSの操縦が異様に上手いとも聞いている。
それが当たり前なのだ。何といっても、ホスト大尉は元ジオン兵のMSパイロットだったのだから。
コーク大佐によると、
「ホストはジオンの地球降下作戦の時にフランスの都市への降下作戦中だった。
しかし、部隊が全滅。
残されたアイツ一人が捕虜として掴まったのだ。
そのまま何ヵ月かが過ぎて、連邦軍がMSを投入した時に奴を牢獄から出した。
パイロットの教官用にな。
しかし、予想以上にジオンの抵抗が激しかった為に奴をパイロットとして前線に投入した。
その時に保険代わりに奴の体の中に爆弾を仕掛けたのだ。変な気を起こされるとたまらんからな。
その爆弾のスイッチは部隊長が持つ事になっているのだ。だからこれを君に預ける。
奴が変な行動を起こしそうになったらいつでも爆破させろ。
ちなみに、その起爆スイッチは君のMSにも入れておく。」
との事だった。
アキラがこの話しを聞いた時、心底吐き気がしそうだった。
敵の捕虜の体に爆弾を仕掛けて脅し、無理矢理戦わせる。信じられない事だ。
それと同時に、なぜ彼がベリアルと呼ばれているのかが分かる気がした。
ベリアルと言う言葉はヘブライ語で「無価値なもの」を表す。
更に、悪魔としてのベリアルは万魔殿の 最も下卑たデーモンであり、怠惰を代表するものとしてミルトンのベリアル象に納まるように変えられている。
ベリアルが堕天した力天使の一人だと議論された事も在ったらしい。昔の話しだが。
とにかく、そんな異名を持つ男だ、確かに無価値かもしれない。ジオンにも、連邦にもだ。
そんな事を考えながら歩いていると、何時の間にか部隊の人間が集まっているミーティングルームについてしまった。
また一つ溜息を吐いて、扉をくぐった。
「何だこれは・・・。」
アキラは我が目を疑った。
室内ではてんやわんやの大騒ぎだったからだ。
「はいさ〜、おかれりなさり〜。」
呂律の廻っていないミリィが目を回しながらやって来た。
「な、何だぁ・・?」
ミリィはそのまま、抱き着いてくるというより倒れ込んでくるようにアキラの胸に顔を埋めた。
「おっ、熱いね。御二人さん!」
そんな冷やかしが聞こえる。
この声は、確か新米のフロン曹長だったか?
そして、その声に呼応するようにさらに幾人かの冷やかしがあちこちで上がった。
そして、ほぼ全員に共通するのが、酔っている事だった。
この後に及んで酒を飲む不謹慎な部下にアキラは血管が切れそうなのを感じた。
「いやぁ、こんな良い部隊ならもっと早く来るんだったぜ。」
笑いながらそう話しているのはホストだった。
「だぁ〜っ!なんで真っ昼間から酒なんざ飲んでんじゃ〜〜〜!!」
「まま、固い事を言わずにそこを一杯。」
そう言いながらホストがアキラの袖を引っ張った。
「うわっ・・・。」
そのコンマ何秒かにアキラの口は酒ビンで塞がれる。
冷たい液体が、乾いていた喉を伝って胃へと送られて行く感覚を覚えた。
それはあたかも体中に広がって行くかのように思われた。
そんな感覚を覚えながらも、このホストが自分の副官になるのかと思うとげんなりした。
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第23話 合流