第23話 合流
ベルヒテスガーデンの基地で、ストーム隊は大量のMSの補給を受けた。
理由は簡単、ヨーロッパでもジオン軍の引き上げが行われているのである。
それにより、宇宙に持っていけそうも無いMSを寄付し出したのだ。
そのため、戦果を上げているストーム隊には優先的に最新鋭MSを受ける事が出来た。
特にフォレスト中佐とマッケイは前回の戦闘で愛機を失った事から新型MSを受け取った。
両方とも不注意が問題であった。
数ヶ月前の連邦軍の一大反攻作戦、「オデッサ作戦」以後、確実に地球上での連邦軍の動きは活発になっている。
そのせいで、ストーム隊も必要以上に敵と出くわす事となった。
毎日のように行われる戦闘に、エースである二人の疲れがピークに達したのだ。
ただ、それによる戦果も多かった。
最終的にストーム隊の宇宙への打ち上げが後の方に回されたのも、他の者の為の足止めなのだ。
ストーム隊も、最後には部隊のザンジバルで宇宙に上がる事になるのだ。
しかし、物資やMSの補充が多すぎた。
メカ・マンやパイロットが絶対的に不足したのである。
プロケル隊壊滅は、間接的にだがここにも影響を与えていた。
ジオン軍有数の部隊が全滅した事で連邦軍の士気は高まり、ジオン軍は逆に慌てた。
ストーム隊に並ぶ欧州戦線の防衛網の中枢に有ったのがプロケル隊なのだ。
その証拠に、エースパイロットが他の部隊に比べて多いのだ。
これは、指揮官の有能さの御陰でもある。
有能な指揮官の指導の下、個人個人のレベルが高くなったのだ。
ただ、ジオン軍は全体的に武人が多かった。
個人のレベルが高いだけに、一人で戦おうとするのだ。
確かにレベルの高いジオンのパイロットに比べ、連邦のパイロットは練度が高くない。
MSに関してはジオンが一日の長が有るのだ。当然かもしれない。
それだけに連邦軍はチームワークを大事にした。
先のプロケル隊との戦闘にしても、連邦軍は小隊を組んで戦闘をするのに対し、ジオン軍は個々人で戦ったのだ。
しかし、例外はいる。
ミリィやアキラは連邦軍の中でも有数の、ジオン軍のエースに対抗できるパイロットなのだ。
主に個人で行動するこの二人は、ニュータイプではないかと連邦軍内部で密かに噂した。
が、ジオン軍でもニュータイプと思われるような人物がいた。
マッケイとハリスであった。
この二人の見事なチームプレーに、ニュータイプ同士の共感と言うやつが有るのかもしれないと思われたのだ。
実際に彼等のコンビが良いのは、士官学校時のバスケットボールがものをいっただけなのだ。
彼等は士官学校内でも名の知れたコンビだったのである。
そんなニュータイプと噂されるコンビの一人、ハリスが死んだのはストーム隊でも信じられない事だった。
当然、彼の相棒であるマッケイのショックは相当の物だった。
今尚、それを引きずっているが為に精神的に不安定になっていた。
その気晴らしの為にと、ある日、ストーム隊のザンジバルは途中でフランスの小さな村による事にした。
そこは、地球上に広く住む、いわゆる「不法居住者」のつくった村である。
日頃から連邦軍に痛い目に合わされている彼等は快くとまでは行かないが、ストーム隊を歓迎してくれた。
だが、それでもマッケイは意気消沈したままである。
機嫌も悪かった。他の者が自分に気を遣ってくれていると分かるからだ。
それが分かるからこそ、余計に辛くなる時もある。
そんな彼が道を歩いていると、誰かがぶつかった感触があった。
「きゃあ!」
それは小柄な少女だった。長く伸ばした奇麗な金髪が太陽の光を受けて輝いて見える。
彼女の周りには、彼女が買ったと思われる果物やら野菜やらと、それを入れる袋が転がっていた。
そんな少女にマッケイは、冷やかに言い放った。
「ちゃんと前見て歩け。」
急いでそこら中に飛び散った物を袋に戻そうとしていた少女が、キッとマッケイを睨み付けると、
「ぶつかったのはそっちでしょう!!」
物を拾うのを止めて、落ちてるものそっちのけでマッケイに怒鳴ったのだ。
一見すると可憐な少女の、その気の強い言い方に周囲の者がビクッと身を竦ませるが、マッケイには唯気に障るだけである。
「あ?ぶつかって来たのはそっちだろうが!」
「違うよ!私はちゃんと前を向いて歩いてたんだから!!」
「んだと!」
「ちょっとごめんね!」
あわやこのまま永遠に意地の張り合いが行われるかと言うところで、メイアが急いでマッケイの口を塞いでくれた。
「この人、今ちょっと精神的に不安定なの。だから許してあげてね。」
むぐむぐと口を動かして反論しようとするマッケイ。
だが、メイアの手はそれを許さなかった。
「はい、そう言う事なら。」
少女がメイアに微笑んで、再び地面に跪いて品物を拾い始めた。
これからどうなる事かとはらはらしながら見守っていたストーム隊の面々が、地面に散らばった物を集め出した。
「すみません。」
丁寧に礼を言う少女を見て、メイアはようやくマッケイの口から手を離した。
「何すんだよ、メイア!」
ようやく戒めを解かれたマッケイが噛み付かんばかりにメイアに迫るが、彼女はそれを人差し指で制すると、
「これ以上みっともないことしないで!」
メイアの強い口調に、流石のマッケイ中尉も黙ってしまった。
と、そこでマッケイはある声を耳にした。彼は幻聴だと思った。
幻聴ではなく何なのだろう?それは間違い無く彼が聞き慣れた声だったのだ。
「ソフィア!」
声はそう言っていた。
「ハリス、遅いよ!」
これは少女からだ。
マッケイは顔を上げた。信じられない物を見た。
紛れも無い、ハリス・クルンプ少尉がわずか遠くにいたのだ。
「ハリス!」
彼は思わず大声を張り上げていた。
頭ではまだ事態が把握できていないのだが、体が勝手に反射してしまったのである。
「あっ・・。」
彼と同じく、ハリスを見付けたストーム隊の面々は全員、驚きの表情を隠せない。
ハリスも、マッケイを見付けたようである。その表情にはやはり驚きの色が合った。
「へっ・・・?」
唯一人だけ、状況を認識できなくきょろきょろと視線をさまよわせる少女を覗いて。
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第24話 約束