第26話 プロポーズ
アキラの新しい部隊は三隻のビック・トレーからなっている。そのビック・トレーはMSの搭載を考えた、改造型となっているのは承知の通りであろう。
その旗艦、「デロス」の艦長をしているのが、問題児ことホストであった。
当初、基地司令部からの要請ではホストはパイロットとして扱えという事であったが、アキラはそれはいけないと判断していたのだ。
MSに乗っても使える可能性がないのだから、しょうがない。自分の仲間を撃つのはできない相談だし、それを強制しても良い成果は出ないのだ。
ならば、ブリッジ・クルーとして使った方がマシだし、適性も充分だと思っている。
この新しい編成での戦闘は、既に十を数えているのだ。そこから全クルーの練度は急速に高まっていった。
それに、ホスト本人は優秀な指揮官である事が判明している。
瞬時の情報処理と適確な判断力、なにより生き延びる方法を知っている。そこからくる結論は、佐官のくせしてMSに乗ってせっせと戦場に突っ込んで、周りを考えずに自分本意に動き回るアキラよりも指揮官として向いている、という事だ。
そこの所をアキラも承知していたし、適確な判断だった、と安心してもいる。
とにかく、ホストは素晴らしい艦長であった。
その素晴らしい艦長は現在もブリッジにて仕事をしている訳だが、そこは戦闘状態と同等に緊張した空気を漂わせていた。
「ホスト大尉、でました。やはりザンジバル級ですね。」
オペレーターのコールに、全員の溜息。
「ん、分かった。全員、第一戦闘配置だ。主砲、各機銃座、準備させとけ。対空監視は怠るな!オペレーター、敵の動向を逐一報告な。あと、各艦に整備状態の報告をさせろ。すぐに動く事になるとな!」
一気に喋った後で一拍おいて、
「念のためにMS隊の発進準備をさせとけ。」
「宜候。各艦より入電。全システム、オール・グリーン。いつでも発進できるそうです。」
「了解。アキラ大佐にも報告をしとこうな。」
横にいる通信士のオイダー軍曹に顔を向けると、
「はい、今行っている所であります。・・・大佐、怒りませんかね?」
「何で?」
「だって、せっかく休んでるのに・・・。」
「今何時だと思ってんの。そろそろ起こしても充分だろうに、大丈夫。あいつは硬派に見えて実は軟派だ。安心していい。」
「意味不明ですよ・・。あ、繋がりました。」
そういって通信士は画面に向き直った。ホストはそれを眺めながらも、
「まぁ、色々大変だった様だからねぇ。昨日も色々。」
ちょっとだけ笑って、すぐに真顔になると、
「オペレーター、どうだ!?」
「はっ、まだ気付かれてはいません。・・・奇襲しますか?」
「ああ、MSは発進だ。各機、なるべく静かにな。」
そういうと、隣ではオイダーがアキラに話し掛けている所であった。心なしか、顔が少し赤いような気がする。風邪でもひいてんじゃないだろうな、とホストは思った。

デロスの居住区画にあるアキラの部屋は小窓から入る少量の朝日以外に明かりはない。
その端の方にでん、と構えるベットのなかには二つの影。
一人用のベットに仲良く入っているミリィは、気持ち良さそうに寝息を立てているだけだ。
その横ではアキラがボーッ、と天井を見つめているだけ。とりあえず、昨夜の情事の前の事をぼんやりしながら思い出しているのであった。
とりあえず、やっちまった、という記憶がある。
結婚、という物を真剣に考え出したのは結構前の事だった。自分自身の幸せとは何なのかを考えたとき、ふと浮かんだ事だ。
ただ、ぼんやりと考えるだけだったのは確かだった。
それが具体的に形になった時、しなければならない、と思えたのは、ほんの一週間前のことである。
昨夜は勝負の時であった。言った時から、成功の確率は高いと思ってもいたし、願ってもいた。
何よりも嬉しいのは、それが受け入れられた事である。約束というものは、人のこれからの方向性を見出させ、勇気を与えてくれる物だ。
隣に眠るミリィに視線を戻すと、ぱっちりした瞳と目が合って、心底びっくりしたのは言うまでもない。
アキラの驚く顔を眺めて可笑しそうにクスッ、と笑ったミリィは、そっと起き上がると、
「まだ、夢みたいだな。」
もう一度、笑んだ。
「何が?」
アキラがそっぽを向いてこう言うのは、気恥ずかしさからだ。
「覚えてない?」
「全然!」
「フフッ、そうだよね。恥ずかしがり屋さんだものね、アキラ君は。」
呼び方が変わってるのは、より親密になった二人の関係を表しているように見える。
「今日も仕事だ。」
そういってアキラが服を着始めると、
「あ、待って。私も・・。」
慌てて下着を取ったミリィの背中を見つめながら、制服のボタンを付けていくと、艦内モニタから通信が入った。
「ん、どうした?」
ミリィが着替え終わったのを確認すると、画面の中の下士官に応答する。
「は、レーダーに敵影です。とりあえずMSの発進を、という事なので準備の方をお願い申し上げます。」
「ああ、了解だ。敵の数は?」
「ザンジバル・タイプが一隻ですね。他は見当たりませんが、いつ攻撃してくるか・・わっ、大尉?」
そう言った下士官の横から割り込んでくる様にしてホストが顔を出すと、
「そういう訳だ。気付かれてるかどうかは分からんが、戦闘準備な。MSは小隊ごとの編成で各配置に付いて欲しいんだが、今回はお前等も班行動だ。よろしく!」
「ああ、はいはい。とりあえずは戦闘準備、てことな。」
「そゆこと。頼んだぞ?」
「まぁ、任されたと言っとこう。」
通信が切れると、後ろでモニタを覗いていたミリィに向き直った。
「ミリィ、今回は小隊で動くらしい。お前は俺と一緒な?」
「あ、了解!」
にっこりと蔓延の笑みを浮かべると、彼女は嬉しそうに近づいて来た。
「嬉しいか?」
「ええ、だって一緒にいられるんでしょ?」
へへっ、と笑ってアキラの腕を抱くようにするミリィの頭を撫でてやると、
「無茶はするなよ?」
「そっちもね。」
お互いに笑みをかわすと、そのまま部屋を後にした。
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第27話 MS戦