第4話 それぞれの部隊
 「ちょっと待てよ!俺のザクの塗装がまだ完全じゃないだろ!!」
「マッケイ、落ち着けよ。」
「そうだよ、あんたみっともないと思わない?か弱い女の子にそんな口調で怒鳴りつけて。」
ハリスたちは格納庫に来ている。
マッケイが自分のMSの様子を見に行こうと言い出したのがきっかけだった。
(なのに、なんで喧嘩になってんだよ・・・。)
ハリスはこっそりと溜息をつく。
見つかると怒鳴られるような気がしたからだ。
思い返せば喧嘩の種をまいたのはマッケイだった。
この艦の主任メカニックマンは女の子だ。名はメイア・スウリ。今は亡きコインが、配属された時に言った「いい女」が、彼女だ。
まだ若いのに一部隊の主任メカニックをやっていること自体が驚くべき事なのだが、一番驚いたのはその気の強さだった。
マッケイが自分のザクの塗装が完全にできていないのを指摘すると、彼女は忙しいの一点張りでまるで聞く耳を持たなかった。
聞く耳を持つようになったのは、二人がかなり熱くなってからだ。
「早くやれよ!!それがメカニックの仕事だろ!?」
「なによ、新人の癖に偉そうな口聞くじゃない!!あんた何様のつもり?」
「新人っておまえ、歳いくつだよ!?そういう事は年上と分かってから言え!!」
「女性に年齢きくなんて最低だよ!あんたこそ無礼極まりないわ!!」
喧嘩はいよいよ泥沼状態に突撃した。
やれやれというようにハリスは喧嘩の仲裁に入ろうとする。ハリス伍長、いま、マッケイ曹長を救えるのは君だけだ。やってくれるね?
ハイ、勿論であります。隊長!・・・まったく、やれやれだ。
「マッケイ、少しは落着け。」
「俺は充分落着いてる!!」
親友のハリスの説得も今のマッケイには効果が無いらしい。すいません隊長。私にはマッケイ曹長を救い出せる方法が見つかりません。
そんな時、ちょうどというかなんというか、フォレスト少佐が通りかかった。
早速ハリスは少佐に走り寄る。
「隊長、あの二人を何とかして下さい。」
「うん、どの二人だ?」
「あの二人です。」
ハリスは、未だに喧嘩をしている二人を指差す。
「何があった?」
少佐が事情を聞いてきたので、ハリスはすべてを話した。
「なんだ、そんな事か。」
少佐は溜息をついて、二人に近寄った。
わらにもすがる思いだったハリスには、少佐が頼もしくてしょうがない。
「マッケイ、メイアはこう見えて忙しいんだ。塗装ぐらいなら自分でもできるだろう。」
「えっ、はっ、はい。」
さっきまでの勢いはどこえやら、途端にマッケイはおとなしくなる。
それを聞いていたメイアは、塗装器具一式(ザクU用)をマッケイに差し出す。
「なんだよ、これは?」
マッケイがメイアを睨むが、彼女は平然と言ってのけた。
「あんた、少佐の話聞いてなかったの?自分で塗装しなさいよ。」
「うっ・・・。」
マッケイがここでためらうのも無理はない。これをうけとってしまったら、今まで散々馬鹿にし、馬鹿にされたのが無意味になり、さらには負けを認めることになる。
マッケイは伺うように少佐をみて、次にハリスに視線を向ける。
ハリスがうなずくと、マッケイは渋々それを受け取り、ザクへと歩いていった。
「もう、いざこざはないな?」
「はい、ありません。ありがとうございました。」
「これからはないように気をつけてくれよ。」
そういって、少佐は去っていった。
ハリスはその少佐の背中を見ながら、長い戦闘が終わった事を実感した。
隊長、フォレスト少佐のご協力により、無事にマッケイ曹長を救出できました。
ご苦労だったな伍長、礼を言わせてもらうよ。
ハリスはそのまま部屋に戻っていった。

三時間前に、イタリアの中間辺りで戦闘があった。
それは連邦が欧米戦線の切り札として投入した第十四地上防衛部隊の戦闘だった。
「ふん、これしきの軍勢で俺達に勝てるとでも思っていたのか。」
右手に装着されたビームガンを放ち、アキラ大佐のアースガンダムは戦場を駆けていた。
ザクがヒートホークを構えながら一機でこちらに走り寄ってくる。
どうやら、接近戦を誘っているようだ。
「いいだろう。」
アキラ大佐は腕部に内蔵されているビームサーベルを抜き、相手に出方を伺った。
なかなか踏み込んでこない。ならばこちらからと距離を詰めると、待ってましたといわんばかりにバズーカの弾が飛んでくる。
「そういう事か!!」
バズーカを構えたドムに左手側のビームガンを放ち、撃破する。
さらに、バズーカの爆発と共に突っ込んできていたザクをビームサーベルで両断し、他の敵に移動する。
が、そこにはすでに敵の姿はなかった。
「大佐、敵部隊は全滅しました。帰艦しましょう。」
サウジ少尉が話し掛けてくる。
「了解だ。全員に帰艦命令を出せ。」
「はっ。」
ふうっ、と溜息を吐いて、帰艦しようとする。すると。
「大佐。ご無事で何よりです。」
一機の陸戦型ガンダムが近寄り、モニタに女性の顔が映った。
「お前もな、ミリィ。帰艦するぞ。」
「はい。」
ミリィと呼ばれた女性は、笑顔を浮かべてアキラ大佐の後に従った。

イタリアで戦闘があったのとほぼ同時刻。
ドイツでも戦闘はあった。
「ふう、基地はもうすぐだというのに。」
言いながら、ジオン公国軍第十地上攻撃中隊、通称プロケル部隊の隊長、マクロア・フレイン大尉は青と水色の中間辺りのグフカスタムを駆って、戦場を荒らしていた。
右手の70mm機関砲を撃ちながら前に進んでいく。
近寄ってきたジムにグフの特徴であるヒートロッドで黙らせて、左手シールドに隠れたガトリング砲をガンキャノンに向けて掃射する。
更に側にいたジムをショルダータックルでなぎ倒し、隊長機らしき陸戦型ガンダムに近寄る。
敵が180mmキャノンを撃つのに対して、その弾をかわし、ガトリング砲で牽制する。
間合いに入った所でヒートソードを抜き放つ。ガンダムも弾が切れたらしく、ビームサーベルに持ち替えた。
放たれるバルカンをことごとく避けて、斬りかかる。
「空色の、流星?」
ガンダムのパイロットがうめくように呟いた。
「ふん!!」
グフを横向きにして、斬撃を繰り出すと、相手もビームサーベルでそれを受ける。
左マニュピレーターでガンダムの顔を殴り、よろめいた所を膝に内蔵されたヒートナイフでコックピットを切り裂き、突き放した。
「セイル、戦闘は終了だ。帰艦する。」
「分かりました、大尉。」
「帰艦する前に、被害状況を伝えてくれ。」
「レインが戦死しました。」
「そうか・・・。」
マクロア大尉は自分の部隊の古株、レイン・ハイバー少尉の名が最初に出てきた事に、少しショックを受けた。
「他は全員無事です。」
「了解した。基地に着いたら補充兵を一人もらおう。」
「はい。」
マクロア大尉の部隊は旧世紀ドイツのベルヒテスガーデンにあるジオン公国軍基地に急ぐ事にした。
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第5話 基地