第6話 基地内にて
 欧州ドイツのベルヒテスガーデン。そこはかつて、アドルフ・ヒトラーが数々の戦略を立てた所であった。
そして、「UC、0079」現在、そこにはジオン公国軍の大規模な基地が聳え立つ場所でもある。
ストーム隊はその基地で停船していた。
そして、基地にはもう一つ、プロケル隊も停船している。

「知ってるか?このベルヒテスガーデンは旧世紀の大戦の引き金、アドルフ・ヒトラーが別荘として使っていた建物があったんだぜ。」
マッケイがお得意の中世の歴史についての知識を披露している。聞かされているハリスはどことなくめんどくさげだった。
「んで、ヒトラーはドイツの宿敵、イギリスの当時の首相、チェンバレンさんとの会談を行ったのもここなんだ。」
「あっそ。」
「なんだよ、ノリ悪いな〜。」
マッケイが不満たっぷりという感じに頬を膨らませた。
「なんだってお前、さっきから同じ話を何度も聞かされてるんだぜ?もう飽き飽きだよ。」
「そだっけ?」
「・・・おい。」
如何にも忘れてますという感じのマッケイの雰囲気にハリスは思わず殺気を放っていた。
「うっ・・・悪かったよ。でも、お前をからかってると面白いんだもんよ〜。」
「この野郎・・!」
バキッ、という擬音と共にハリスの鉄拳がマッケイのこめかみにクリーン・ヒット!流石のマッケイ曹長もこの攻撃には床に頭を打ちつけてダウン!
カンカンカン、スリーカウント。この勝負ハリス伍長が「ツッコミ殴り」で征しました!!
(ああ、観客の声援が今にも聞こえてきそうだ。)
「なに自分の世界に入ってんだ・・・。」
「おっ、生きてたのか。」
「をい・・・。」
「にしても今日はいい天気だ。」
こめかみを押さえながら文句を言ってくるマッケイをあえて無視する。
「本当だ。雲も奇麗に光り輝いてる。」
(馬鹿でよかった。)
こうして、ハリスとマッケイの漫才は日々、磨かれていくのだった。
と、いきなり基地全体が凄まじい爆発音と共に激しく揺れた。
続いてけたたましいまでに警報が鳴り響き、放送が流れる。
「MSのパイロットは至急戦闘配置に付け!」
「なにがあったんだ!?」
「大方連邦の奇襲にでも遭ったんだろ!!」
ハリスは謂い終わらないうちに駆け出していた。
「待ってくれよ!!」
マッケイが慌てて追いかける。
その時ハリスは、「なんでこう、うちの部隊は奇襲に遭うんだろう?」などということをぼんやりと考えながら走っていた。

〜戦闘前〜
「いいか。今回の任務はジオンの欧州戦線の要、ドイツ基地の破壊だ。」
連邦軍第三特殊部隊(以下、第三特務隊)の隊長、ロック・エビル大尉は隊員達の反応を待った。
「今回、パイロットは囮役だからな。」
「ふうん。で、他に連絡事項は?」
隊員のフィリップ少尉が質問すると(ため口)、他の隊員達もそれが聞きたかったと言わんばかりの目でロック大尉に目を向ける。
「ない。けど全員、しっかりやれよ。この頃は第十八特殊部隊の奴等がやたらと目立ってるからな。特殊部隊はアイツ等だけじゃないってお偉いさん方に主張する機会だ。」
「皆、頑張ってくれよ。わしはまだ死にたくないからな。」
この隊に配属された艦の艦長、フラン・ギインが笑いながら話し掛けてきた。
「勿論、俺達が作戦を失敗させた事があるか?」
「何度か死にかけた事はあるぞ。」
「それは前線にいるんだからしょうがないんじゃ・・・。」
「それを守るのがお前さんたちの仕事じゃろ。」
「面目ない・・・。」
「隊長カッコ悪いよ?」
「うっ!」
図星をつかれて沈みこむロックを見ながら、図星をついた第三特務隊唯一の女兵士、シューン曹長はなぜ沈んでいるのかわからずキョトンとしている。
「今のは効いた・・・。」
「おいおい、大丈夫かぁ?もうすぐ戦闘なんだろ?」
「そうだな。全員、戦闘配置だ。作戦はさっき言った通りにな。」
「さっきなんかいってたの?」
「おい・・・。」
「人の話しはちゃんと聞いてろよ。」
二人の呆れ果てた眼差しに、流石のシューン曹長もシュンとなった。
「ごめんね。」
「判ればよろしい。」
「と、いうわけでフィリップ、教えて。」
猫なで声で駆け寄ってくるシューン。
「お前なぁ。仮にもお前は俺の部下だろ?敬語使えよ。」
「あんただって隊長に敬語使ってないでしょ。」
(よくぞ気付いてくれた!シューンよ。)
ロックは部下の正しい指摘に、目頭が熱くなったのを感じた。
「俺の事はどうでもいいんだよ。」
(どうでもいいんかい!)
副官的存在の余りにも理不尽気極まりなく、それでいて余りにも酷い発言に、ロックは違う意味で涙が出そうになった。
と、突然無線からホロウ准尉の声が聞こえた。
「隊長、早く戦闘配置につかないと遅れますよ?」
「わかった。今から二人を連れてそっちにいく。」
「お待ちしてます。」
「さっ、行くぞ。二人とも。」
「ねぇ、教えてよ。」
「だ〜め。人の話をちゃんと聞いてないお前が悪い。」
(お前も人の話を聞いてくれよ・・・。)
完璧に無視され、ロックは強くそう思うのだった。
「ほらほら、痴話げんかはそれぐらいにして、早く行くぞ。」
「やだ、痴話げんかなんて。隊長、気が早いよぉ。」
「誰が痴話げんかなんか!・・・って、おい、シューン。それどういう意味だ!!」
「はいはい、悪かった。とにかく、フィリップ。教えてやれ。作戦に支障が出かねない。」
「わかったよ・・・。」
「悪いな。じゃあ、先に行ってるから。」
「一緒に行くんじゃないのか?」
「お邪魔しちゃ悪いからな。」
「おい!」
「ありがとうごいざいます。」
「ははは、じゃ。」
ばらばらの返事を聞きながら、ロックは走っていってしまった。
しょうがないので、フィリップは約束どうり今回の作戦内容を歩きながらシューンに教える事にする。
「まず、ガンキャノンやガンタンクの部隊が敵基地を狙撃、ついでにこの艦もな。そして・・・。」
「わかってるよ、そんな事。」
「はぁ?なんでわかってんだよ。」
さっきまであれほど騒いでいた話題がいきなり棒に振られ、露骨に疑問を顔に出す。
「だって、こうでもしないと二人っきりになれないでしょ?」
少し頬を赤く染めてフィリップを上目遣いに見上げるシューン。
「きゃっ!!」
その動作が余りにも可愛らしいので、思わず抱きしめていた。(本人の意志は全く関係なしで)
だが、その行為はたったの二秒で正気に戻ったフィリップ自らによって中断された。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
二人の間を沈黙が流れる。
お互い、赤い顔をしたまま格納庫へと向った。
小説トップへ
第7話 連邦の特殊部隊