第7話 連邦の特殊部隊
「フィリップ、陸戦型ガンダム、出ます。」
MSデッキからフィリップのガンダムが出撃する。
「作戦開始の合図はまだ、か。」
フィリップは少し溜息を吐いた。
「ん?」
ふと、隣を見ると、ガンキャノンがいた。
回線を開いて呼びかけてみる。
「よう、誰だい?」
「おっ、フィリップか。」
「なんだ、シスじゃん。」
「何だとはご挨拶だな。」
パイロットは親友のシス・フライクだった。
「それより、シューンは一緒じゃないのか?」
「反対側だよ。」
「にしてもお前にゃもったいないよな。」
「なにがだよ。」
「シューンだよ。唯でさえこんな女っ気の無い部隊に来たのに可愛いからな。人気あるのに。なんでお前なんだろな?」
「ほっとけ!」
「へへ、赤くなってやんの。可〜愛いい。」
「からかうなよ!」
シスが変な事を言うからさっきの事を思い出してしまった。
「わるいな、切るぜ。」
「なっ、いきなりなにを・・・プツ。」
回線を閉じ、さっきの事を思い出そうとする。
(可愛かったな・・・。)
さっきの事とは、出撃前の数分。
二人でMSデッキに来た時の事。

「ね、フィリップ。」
「ん?」
未だに赤い顔をしている二人。不意にシューンが話し掛けてくる。
「さっきさ、なんであんなことしたの・・・?」
「やっ、やめてくれ。思い出したくない・・・。」
「なんで?私の事、嫌い?」
「いっ、いや。それはない。」
答えと共に勢い良く振られる首。
「じゃあ、私の事・・・。」
もじもじしながらまた上目遣いにこっちを見つめてくるシューン。
その動作に思わずまた抱き着きそうになるが、それを必死にこらえる。
そう。歴戦の勇士、フィリップ少尉は同じ過ちを二度繰り返さないのだ!
「ねぇ・・・。」
やっぱりもじもじしながらこっちを見るシューン。
「お前は俺にどうしろと?」
「えっ!?」
突然振られた質問に目を大きくするシューン。
「俺に何を言って欲しいんだよ?」
わかってるけどわざと聞く。
照れ隠しに意地悪したくなっただけだ。
(どうだ!流石に声になんて出せまい!!)
勝ち誇ったような眼差しの先には赤い顔をして俯いているシューン。
「・・・だって・・。」
「へっ?」
よく耳を澄ますと、俯きながらシューンは何かを呟いているのが聞こえる。
すぐにシューンは決心したかのように顔を上げて、こういった。
「大好きだよって、言って欲しいの・・・。」
「・・・!!!」
(まじかよ・・・。)
恋人の余りにも大胆な発言にしばし呆然とする。
その間にもシューンの暴走(?)は止まらない
「しっ、出撃したらさ、何があるかわからないでしょ?だ、だから・・・あっ、あの、その・・。」
途中から舌が回らなくなったらしい。
「だっ、だから・・・。ねぇ、聞いてる?」
「へっ・・・?あっ、わりい。」
「あ、あのさ。」
「わかったよ・・・。」
「えっ!?それって・・・。」
(なぜ目を輝かせる!?)
一度了承したからと言って、やはり今すぐ言うのは恥ずかしいので、フィリップは逃げに回る事にした。
「帰艦したらな。」
「きゃ、そんな・・・。って・・えっ!?」
「だから、無事に帰って来いよ。って事。」
「うっ、うん!!」
嬉しそうに笑顔をつくるシューンを見てると、こっちの頬の筋肉まで緩んでくる。
「約束だよ。絶対だよ!」
そういって小指を出してきた。
「あの〜。まさか・・・。」
「指切り。約束でしょ?」
「やっぱり?」
「はやく小指出して。」
「なっ、恥ずいって。こんなとこで・・・。」
「駄〜目。」
フィリップの小指を無理矢理とって、自分の指に絡ませる。
「指切りげんま、嘘ついたら針千本飲〜ます。ゆびきった。」
嬉しそうにしながら指を離すシューン。
「じゃ、また後でね。」
笑顔を残して走り去っていくシューンの背中を、フィリップは見えなくなるまで見つめていた。

「へへっ。」
ついさっきまでの微笑ましい記憶を思い出して、照れたような笑みを浮かべる。
「コックピットの中でよかったな。」
こんな所を他の隊員に見られたらそれこそ絶好のからかい相手だ。
「さって、そろそろだな。」
作戦開始に備え、辺りに注意を払う。
勿論、回線も開く。
次の瞬間、目標、ジオンの基地のすぐ近くで爆発が起こった。
「よかった。見逃してなかった。」
ほっと胸を撫で下ろしながらも、陸戦型ガンダムを敵基地へと走らせた。

「なっ・・・。」 戦場に出たハリスは、愕然とした。
敵は中隊ぐらいで、戦力的にはこちらの方が圧倒的有利な立場にあるにも関らず圧されているのだ。
すぐ目の前で、ザクが爆発した。
「くっ。」
爆発した方へ銃口を向けて、思いっきり引き金を引く。
「当たらない!?」
弾は確実に陸戦型ガンダムに向っている。
しかし、敵のスピードの方が上だった。
そうこうしてるうちに、敵機はまた一機、撃破していた。
そのガンダムが今度はこちらがわに向き、ミサイルランチャーを向けた。
「なにぃ!」
飛んでくるミサイルをぎりぎりで避け、引き金を絞る。
「当たれぇ!!」
ガンダムはその攻撃を避けつつ、ミサイルランチャーの標準を合せる。
放たれるミサイルを何基か撃ち落とし、マシンガンの弾を再びガンダムに向わせる。
「へぇ、やるじゃない。」
ガンダムのパイロット、シューン・ソレイユ曹長は相手のザクがさっきまで相手にしていたMSのパイロットとは少し違うのを感じた。
「恐らくエースパイロット・・・。そうじゃなきゃとっくに私に殺られてるもんね。」
シューンはミサイルの無くなったランチャーをハリスのザクに投げつける。
「うわっ!くるな!!」
ランチャーを避け、再び敵機に向き直ろうとした時、既に目の前にはサーベルを構えたガンダムの姿があった。
「くそ!」
後ろにステップしてサーベルを回避し、ヒートホークを取る。
「うおおおお!!」
叫びながらヒートホークを振り下ろす。
「やぁ!」
シューンもそれをサーベルで受け、左マニピュレーターでザクのボディを殴る。
「ぐぅっ・・。」
よろめいたザクにサーベルが振り下ろされた。
「ちい!」
ヒートホークをなげて目くらましにし、後ろに下がってマシンガンを向ける。
「なにっ!?」
ガンダムに弾丸が降り注いだ。
何発かは当たったが、幸い致命傷にまで至らなかった。
「弾切れか!?」
コックピット内でハリスがうめいた。
チャンスとばかりにガンダムが斬りかかってくる。
「死んでたまるかぁ!!」
ハリスが叫んで、直突を相手コックピットに食らわせる。
「きゃん!!」
その衝撃がシューンの体に伝わってくる。
更にハリスは、横打撃をガンダムの顔面に叩き込み、ボディを蹴る。
「やっ、メインカメラが!!」
衝撃で倒れ込むガンダムのカメラ・アイに、ザクはストックを叩き込んでいた。
「いやぁ!助けてぇ、フィリップ!」
恋人の名を泣き叫びながら呼び、ガンダムを起こそうとする。
だが、悲しいかな。その恋人は今、反対側で戦っている。
機体が完全に起きる前に、ハリスはコックピットにもストックをめり込ませた。
その変形したコックピットハッチの中で、シューンは事切れた。
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第8話 空色の流星