第2話 予感
 真夜中の騒ぎから3日、事件後の調査により犯人グループの目的は、最新のMS用パーツの強奪であることが判明、本格的な調査が開始された。
 しかし日本での事件にも関わらず、この事件の調査に関しては連邦軍の手に委ねられたのである。
 
 GFEヒロシマ支部特殊機動1課、第2中隊詰め所。この日、会議室には3人の小隊長全員が呼ばれていた。
「つまり・・そういうことなのだ。君らにはわかってもらえると思うが」
「・・・・・」
「なるほど」
「しかし、一切の指揮権を連邦に渡すのは・・」
 第2小隊長ムロタの言葉に、中隊長ムトウ少佐の眉間にしわが寄った。普段からどこか不機嫌そうな表情をしているだけに、まるで怒っているような顔である。気の弱いムロタは、先程から汗が止まらない。
「ムロタ君。・・君ならわかるだろう」
「は・・・」
「しかしSRCというのはそんなに大きな組織なのでしょうか。連邦軍が直接手を下す程の」
 そう聞いたのは、唯一の女性小隊長のアヤセである。
「大きな戦争が終わった今、連邦は各国のゲリラや反連邦組織の活動に敏感になっているから・・・その流れでしょうな」
 横からサカキが口をはさんだ。
思わず、視線がサカキに集中する。ムトウは度のきつい眼鏡をかけなおすと、
「とにかく、我々は今まで通り通常任務に徹することだ」

 同時刻、市内某ホテル。ここに、3日前の騒ぎの主役達が宿泊していた。
「いい知らせよ。ようやく本部から連絡が入ったわ」
 パソコンに向かいっぱなしだったランが声をかけた。
「本当か? 待ちくたびれたぜ! それで何て言ってんだ?」
 ベッドで寝転んでいたウィルが、すばやく起き上がる。
「ちょっと待って・・これって・・・!」
「なんだよ隊長、もったいぶらないで教えて下さいよ」
「その前にレジーを呼んできて。重要なことだから」
「レジー?そういやあいつどこに・・シャワーか」
 ウィルは急いでシャワールームに向かい、すぐレジーを連れてきた。相当急かされたらしく、レジーは腰にタオルを巻いただけという格好で出てきた。
「ちょっと・・なんて格好で出てくるの!」
「文句はウィルに言って欲しいな。レディーの前では服くらい着させろって言いましたよ?」
「んなこたいいから、ラン隊長」
 ランはあきれた表情でため息をついた。
「じゃ言うわよ?・・こっちの時間で4日後に、ヒロシマ市内にある国営のMS運用試験場襲撃を予定、前日に本隊との合流をされたし・・詳細は後日だって」
「運用試験場か・・また大層な所を狙ったねぇ」
「そうね・・政府がニュータイプ専用の新型を開発してたっていう噂は本当だったみたい」
「ニュータイプか・・・ニュータイプ?」
 ウィルが不思議そうに尋ねると、再びランがため息をついた。
「あなた上の人間のくせに知らないのね・・ようするに、宇宙での生活に適応した新人類ってところかしら。軍の人間なら、誰でも知ってるわよ」
「新人類・・・そりゃ俺達のことじゃないのか?」
「そういうわけじゃない。奴らは普通の人間とは違って、一種の超能力者なんだ。特別な訓練でなれる場合もあるらしいけどな」
「・・よくわからねぇな。でもなんで、そのニュータイプ野郎専用のMSを盗むんだ?」
「・・それは、ウチにニュータイプがいるらしいのよ・・まだ12,3歳の少女だけど。今度の作戦には、その子も来るみたい。たぶんその場でMSに乗って離脱するって感じになるわね」
 その言葉に、ウィルの顔色が変わった。
「14って、まだガキじゃねぇか! しかも作戦に参加するって、正気かよ」
「・・年はハッキリ言って関係ないんだ。例え10代の少女だろうが、ニュータイプなら一人で・・場合によっちゃ一個大隊以上の力を発揮する。俺達よりよっぽどいい仕事するだろうな」
 そうレジーが返答すると、わずかな沈黙が流れた。次に口を開いたのはランであった。
「連邦も、ニュータイプに関してはかなり神経質なはずよ。だから・・」
「次の仕事はかなりヤバイってことかい」
「その通りね」

「連邦に?」
 キーボードを打つ手を止め、ミズキが声を上げた。他の隊員も一斉にサカキに視線を投げかける。
「そ。今後SRCに関しては、彼らに従って動くわけだ」
 険しい表情に変わるシュンとは対照的に、ハタは相変わらずの様子である。他の隊員も同様に、それほど驚いた感じはない。
「でも連邦軍が動くなんて・・・この辺も戦場になるかもしれないですよ」
カツラギが冗談交じりに話す。
「ありえない話じゃねぇさ。奴ら戦う場所を選ばないからな」
「だからこそあたし達が動くべきなのに・・・」
 そう言うとミズキは手元のコーヒーを飲み干し、一息ついた。
「それと、連邦軍からもう連絡が入ったらしい。場合によっては彼らの作戦に我々が加わる可能性も出てきたから」
 その言葉に、一同は驚きの表情になる。
「我々が?連邦軍と?」
「あたし達が・・・戦いのプロと一緒に行動なんて」
「心配しなさんな、別に彼らが実際に動くわけじゃない。あくまで指揮するだけさ」
「じゃあ、実際に動くのは・・・」
「我々ということになるなぁ。」
 この言葉に少し、一同の表情が曇った。
「隊長、質問よろしいでしょうか」
 生真面目なハタが、わざわざ質問の許可を求めた。
「言ってみな」
「今自分達が搭乗している機体で、テロ相手に対応できるのでしょうか。こないだのように、相手が軍用のMSで来たら果たして・・・」
 率直な疑問をぶつける。
「実際乗ってる人間は、なかなかその良さがわからないもんさ」
「そうですよ。それなりの武器を装備させれば、拠点強襲用としてなら実際の戦場でもいけるんじゃないですかね」
 そう言うカツラギの言葉は間違ってはいなかった。実際GFEで使われているMSは、連邦軍の主要MSだったRGM―89ジェガンを、街中での戦闘にも対応できるように全面改修したものである。小型軽量化に主眼が置かれた当機は「手足のように動くMS」としてベテランパイロットからの信頼も厚く、その耐久性にも定評がある。
「なるほど・・・」
 心なしかハタの表情がほころんだが、対照的にシュンはぶすっとしている。
「シュン、どうしたの?さっきから機嫌悪そうにしてるけどさ」
 その様子を見たミズキが声をかける。
「別に」
「別にって顔じゃないよ?」
「何でもねぇよ。ただ、また連邦が嫌いになっただけさ」
「シュン」
「だってそうでしょう? 自分らは指揮するだけで、実際体張ってんのは俺達ですよ」
「まあまあ、そのへんにしておきな」
 ようやくサカキが割って入り、シュンは口を閉ざした。
「今更言っても仕方ないことだろう」
「すいません。・・・わかってるんですけど」
「・・・・」
思わず他の隊員も黙ってしまった。
「みんな、仕事に戻ろ」
 少しの間の後、ミズキが声をかけた。

翌日、第3小隊にニュースが舞い込んだ。
「連邦の人間がここに来るんですか!」
「うん。ついさっき連絡が入ってね。あいさつしたいんだって」
「わざわざ出向いてくるとは、なかなか礼儀正しいですな」
「それで、いつここに?」
「えーと・・あと10分くらいで着くって」
「えらい急だな」
 やがて10分後、詰め所に見慣れない装甲車のような車両が入ってきた。そこから司令官らしき一人を含む数人が降り、それを上層部らしき人間が出迎える。
 第3小隊待機室の窓際には、仕事もせず野次馬のように隊員達が張り付いていた。
「あの制服かっこいいですね」
「思ったより普通だな。もっと軍人ぽいのを予想してたけど」
「連邦も大きな組織だからな。ピンからキリまで、色んなのがいるさ」
「さすがにMSまでは来てないですね。軍用MS、見たかったのになぁ」
「一体、なーに話してんだろうね」
「隊長!」
 隊員達は同時に驚きの声をあげた。皆てっきり出迎えに出ていたものと思っていた。
「なんでここにいるんですか?」
「だって、出迎えにはお偉いさんが出るからさ」
「隊長、あたし達は彼らとお話できないんですか?」
「お話ってお前、友達じゃねぇんだから・・」
「だが礼儀として、挨拶は必要かもしれん」
 ハタが真面目な顔で口をはさむ。
「まあ何はともあれ、快く迎えて・・・仲良くしようじゃないか」
「仲良く・・・ねぇ」
 やがて、外にいた人間が建物の中に入り終えた。
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第3話 トラブル・メイカー