第1話 初出撃
「今日付けで配属になりました、ネオン・ノーティス伍長です!」
ネオン伍長はガチガチになりながら自己紹介をした。
ここはシルドレインコロニーの宇宙港に停泊している戦艦ラーディッシュの艦橋の中である。
「ほう、22か。若いな。だが、成績は優秀なようで結構だ。」
艦長らしき人物が書類を見ながら言った。
「どこかで会ったかね?」
艦長はこちらを覗き込むようにして、不意に言った。
「い、いえ。初対面のはずですが・・・。」
ネオンは驚いて言い返した。
「そうか。ならいいが・・・。ではこの艦の人間を紹介しておこう。まず、オペレーターのルーチェ・リライズ。」
「よろしくお願いします。」
ロングヘアーの若い色白の女性がぺこりと頭を下げた。
「次に操舵手のペイル・ハインディッヒ。」
眼鏡をかけた真面目そうな小男が軽く会釈をした。
「そして、MS隊のメンバーはリック・ベアード軍曹、ヴェール・ヴァニシュ曹長、ワール・アトモス大尉、タツヤ・シラカワ少尉だ。」
リック軍曹とタツヤ少尉は普通の青年だが、白いあごひげを生やしたワール大尉はどうみても50を過ぎたベテランに見えた。
しかし、ネオンの目にうまくやっていけるか一番心配に映ったのは、ヴェール曹長だった。
顔はバッチリとメイクされ、両の耳にピアス、わざと胸元がはだけるように軍服を着ていて、いかにも男を挑発するような格好をしている。
気が強そうで、姉御肌に見える。
一番苦手なタイプであった。
内心、人間関係が心配で仕方ないネオンをよそに、艦長は構わず説明を続けた。
「それから、メカニックのクラック・E・ロード。」
直前まで機械いじりをしていた様子で、うす汚れた作業服を着ている。
「最後に私が艦長のシージ・マイルスだ。」
「分かっていると思うが、我々は実験部隊だ。実戦でデータを収集する事が目的だ。君にもMSで出てもらう。かなりハードになると思うが頑張りたまえよ。」
言い終わると、シージ艦長は笑顔になって、
「それでは、ようこそ我が艦へ、ネオン伍長。」
と手を差し出した。
ネオンは慌てて手を差し出すと、やっとのことで、
「お願いします!」
と握手をした。
シージ艦長の手は暖かく力強かった。

ネオンに一番初めに話しかけてくれたのはルーチェだった。
「だいぶ緊張なさっているようだけど、大丈夫。すぐ慣れますよ。」
気を使ってくれているようで、ルーチェは自分の事を話し始めた。
「私も少し前にここに来たんですけど、みんないい人ばかりですよ。私もネオン伍長と同じ年ですから、保障します。」
と言ってから、こちらににこっと笑いかけた。
紹介された時も思ったが、ルーチェは綺麗である。
女性と話す事があまりなかったネオンは、親しく話しかけてくれたルーチェを見て赤くなった。
「そ、そうなんですか・・・。ならいいんですが。」
随分うわずった声になってしまった。
そんなネオンを見て、ルーチェはクスッ、と笑った。

それから数時間後、出撃命令が下った。
敵の艦隊を発見したのである。
戦艦の数は3。
MSも10機前後はいるであろう。
しかし、こちらはたった一つの戦艦とMSが5機である。
さらに、仕掛けるのはこちらからなのである。
どう考えても無謀であった。
ネオンは生きのびられるか心配になった。
いかに自分の成績がよくても、多勢に無勢だと思った。
そんな気を察してか、MSハンガーに向かう途中、タツヤ少尉はこう言った。
「このくらいはいつもの事だぜ。ここでやっていくんなら、早く慣れちまえよ。」
数分後、全員がハンガーにそろい、MSに乗り込んだ。
ワールが中隊長でFAZZに乗った。
タツヤとリックはZプラスC型でヴェールはメタス。
ネオンにはネモが与えられた。
「よしっ!では発進するぞ!」
ワールの合図で一機ずつ発進した。
「丁度いい。ネオン伍長、腕前を見せてもらおう。今回は後衛を任せる。」
ネオンはワールのこの言葉を聞いて、少し安心した。
そして、やってやるという気分になった。
5機で隊列を整え敵艦に近づく。
敵もこちらを察知し、戦艦からはガザCが発進されてきた。
「敵MS9機!今回はどんなもんかな!?」
弾んだ声でリックが言った。
「ミノフスキー粒子の濃度が上がり始めたな・・・。戦艦は任せろ。いくぜじいさん!」
レーダーを見つつ、タツヤがワールに呼びかけた。
「うむ。残りの三人はザコをたのむ。」
ワールは答えると、タツヤとともに一番近い戦艦に突撃していった。
それはネオンの目には特攻にしか見えなかった。
「ほら!ボサッとしてないで行くよ!ルーキー!」
ネオンに二人の心配をさせる間もなく、ヴェールがハッパをかける。
「分かってますよ。」
ネオンはムッとしたが、抑えて後に続いた。
が、次の瞬間、ネオンは驚愕した。
先ほど突撃したワールとタツヤがもう一隻目の戦艦を落としたのだ。
その戦艦は艦橋だけが奇麗に破壊されて、一切の機能を停止していた。
更に、ヴェールとリックが迫るガザCを次々と撃ち落としていく。
ネオンは心配になった。
これは先ほどの心配と違い、生きのびれるかというものではなく、自分が何もせずに終わってしまうのではないか、という心配である。
と、こちらにもビームが飛んできた。
ネオンはシュミレーションでやったように右に左に回避した。
ネオンが的になっている間にヴェールとリックがどんどん敵を減らしていく。
負けじとネオンもビームライフルの引き金を引くが、回避しながらだとなかなかロックできない。
もたもたしていると、ネオンの狙っていた機体が側面からビームを浴び、吹き飛んでしまった。
「よっしゃ!」
リックが歓喜の声をあげた時には、残り2隻の戦艦もやはり艦橋だけが破壊され、完全に沈黙していた。
すると、残った最後の一機のガザCがヤケクソになったのかビームサーベルをぬいてまっすぐこちらに突っ込んできた。
(チャンスだ!)
ネオンは動きを止めて、照準を合わせた。
動いている時と違い、すぐにロックできた。
「当たれぇーッ!!」
ネオンはビームライフルを発射した。
ビームはコクピットを貫き、ガザCは爆発した。
「やった・・・。」
自分の撃破スコアが確保できたネオンはホッとして呟いた。
「片付いたな。全機帰艦するぞ!」
ワール中隊長の合図で、全員後方で待機しているラーディッシュへと戻った。
戦闘を経てネオンはとんでもない部隊に配属されてしまったと思わずにはいられなかった。
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第2話 シミュレーション