第1話 始動、木馬海賊団
ある日、地球のアムロの元へブライトが訪れた。
アムロは彼の言うままに、谷にあるホワイトベース・R(リベンジ)の元へ向かう。
そこには、多くの仲間が待ち受けていた。
そして、ブライトは高らかに宣言する。

「我が木馬海賊団、船出の時だ!」





 ブライトが地球のアムロ・レイを訪ねたのは、寒さが厳しくなったある日のことであった。
「ブライト、突然どうしたんだ」
 アムロは私室に通されてきたブライトを見て、そう言った。ブライトはソファに座りもせず、堅い表情のままテーブルに書類を差し出した。
「それは?」
 アムロはその書類にざっと目を通すと、思わず呟いた。
「時は来た……ついて来い」
 そう言ってブライトは、部屋をさっさと出て行ってしまった。 アムロはコートを取ると慌てて後を追った。
 二人は部屋を出て、ロビーを横切って玄関に向かう。 主人の外出に気がついた使用人が深々と頭を下げ2人を見送った。
  アムロはブライトの後ろを歩きながら、車でここに来たのか、とふと思った。 バギーが一台玄関に置かれている。 だが、ブライトはバギーに乗り込まなかった。 すると、
「アムロ、セスナ機を持っているか?」
ブライトが首だけ後ろを向き、急に聞いた。アムロは戸惑いながらも頷くと、
「そうか。ならそこまで案内しれくれるか」
彼の案内でガレージに向かうことになった。
 外は酷く寒い。まだ昼なのに・・アムロはそう思いながらコートの襟を立てる。ブライトの方は寒さが気にならないらしく、 白い息を吐きつつどんどん歩みを進めていく。
 やがてガレージに着くと、アムロがシャッターを開けた。
車が二台、バイクが一台置いてある。いずれもアムロの物だ。 さらに差し込んだ光がしっかり整備されたセスナ機の姿を映し出す。
「行こう。行き先は私が案内する」

それから飛び立ってから20分あまり、セスナは深い谷の上を飛んでいた。
 途中アムロは色々と質問をしたが、ブライトはただ「後で話す」とだけしか答えず、すぐ沈黙が訪れた。
「アムロ、下を見てみろ」
 突然、ブライトが口を開いた。アムロは言われるまま谷底を覗いてみると、白い、大きな何かが視界に入った。
「あれは……戦艦か!?」
 それは、まさしく戦艦であった。
 確かに谷底には戦艦を置けるぐらい広いスペースがあったが、何故こんな所に置いてあるのだろう、とアムロは不思議に思った。
「なにせ極秘行動だからな。目立つ場所には置けんよ」
 ブライトはそれを察してか、そう言った。
やがてセスナから、二人が谷底に降り立つ。それから二人は少し早足で歩き出した。
しばらく歩くと、目の前に先程の戦艦が表れた。白く大きな戦艦…それはアムロにホワイトベースを思い出させた。ドックの中にモビルスーツも見える。
「!」
 さらに、そこには多くの人間がアムロとブライトを待っていた。
「これは……一体」
 見知った顔もあれば、全く知らない者もいる。
アムロは唖然とするしかなかった。
皆思い思いに岩場に腰掛けていたが、こちらに気がつくと立ち上がって出迎えてくれた。


「待ちくたびれたぜ! アムロちゃん!」
 真っ先に声をかけてきたのは、スレッガーであった。
「あなたは……」
「遅ぇぞアムロ、何してやがったんだよ」
 唖然とするアムロの肩をカイがこづきつつ、そう話し掛ける。
みんな、どうして?不思議がるアムロを尻目に、ブライトはみんなを見渡して叫んだ。
「待たせたな。みんな、出発するぞ!」
おおおーー、と盛り上がる周りを見ながら、アムロは慌てていった。
「ちょっとまってくれ! 彼らは一体?」
「詳しいことは後だ。私について来い」
外は寒いので、全員新型艦に乗艦した。中は新型らしく、全てが新しい。それどころか、見ただけで相当な高性能であることがうかがい知れる。
そして全員がドッグ上に入ると、ブライトがいった。
「これより点呼をとる。返事はいらん。みんな用意はいいな?」
「オッケーよ!」
 スレッガーが威勢良く答えた。
「では確認する……乗員はジュドー・アーシタ、エルピー・プル、マシュマー・セロ、ウッソ・エヴィン 、シャクティ・カリン、スレッガー・ロウ 、ミライ・ヤシマ、ハロ……は違うな。カイ・シデン、ディアナ・ソレル、ロラン・セアック、セイラ・マス、フォウ・ムラサメ、ランバ・ラル、アムロ・レイ、そして私ブライト・ノア、以上!」
ブライトはそう一息でいうと、大きく息を吐いた。
「これで全員だな・・」
さらにざっと見渡すと、それではとブライトが切り出した。
「ここが我が艦のドックだ。ここに諸君たちの乗るモビルスーツもある。後で見て置くように。それでは作戦室に移る」
「すいません、ちょっといいですかね?」
ここで、一人の整備士のクルーが進み出ていった。
「艦長、記念に写真でもとってから行きませんか?私カメラとるの趣味なんです」
そういいながら、いいでしょ?と他の乗員にも問い掛ける。
別にだれも異存はなかった。というのは断るのも煩わしかったからだ。
「それでは撮りますよ。みなさん、笑ってください」
そういいながらクルーはカメラを向ける。
みんなが不自然な笑いを顔に浮かべる中、全く状況を把握していないアムロは全くの真顔である。

パシャ


「はい。ありがとうございました。後で焼いたら皆さんに配りますので」
そう嬉しそうに言うと、クルーは出発の準備に取り掛かるためにモビルスーツの整備に戻った。
「面白かったなぁ。写真とられるなんてめったに無いし」
「面白かった! ね、ジュドー?」
ロランやプルは笑いながら明るく言った。
「へっ、写真くらいでそんなに喜ぶかね?」
 横からカイがからかう。
「い、いいじゃないですか。別に」
「カイ、これから長い付き合いになるんだから仲良くね」
「へいへい」
 そんなカイを、セイラが戒めた。
「でも、貴重な体験でした」
「へー、姫さまでも写真撮ったことないんだ?」
 ディアナの言葉に、ジュドーは物珍しそうに尋ねた。
「ええ、これが初めてです」
 ディアナの微笑に、ジュドーは思わず赤くなってしまう。横ではプルがふくれっつらになっている。
 作業が一段落しドックから出ると、一度新型艦から出た。作戦室にいくはずだったが、クルーからの連絡で全員で宇宙に行くため機密性の最終チェックを行うためであった。
仕方なく、念入りにアムロは外壁を点検した。
作業は日が完全に沈むまで行なわれた。それが終わると、ブライトは再び皆を今度は近くの岩場に集めた。
そして、 「コホン……諸君!ついにこの時がきた。我が木馬海賊団、船出の時だ!」
 夕陽を浴びながら高らかに宣言すると、おおぉ〜、と再び声が上がる。ちょっと待て、木馬海賊団だと?
 アムロはわけがわからなかった。ブライトは一体何を言っているんだ?
 だがブライトは調子よく続ける。
「これから遥かなるバンダ……バンライズ目指し旅立つわけだが、その前にこの艦について話しておこう。これは極秘に製造された最新鋭の艦である。ホワイトベースの基本を意識して作られており、艦名はホワイトベース・リベンジ、通称ホワイトベースR。私が名付け親だ」
「あちゃ〜、ダサい名前付けちゃったなぁ」
 ジュドーが、口を滑らせる。
「……」
「ジュドーさん、それはまずいですよ……」
「あははっ、ダサい! ダサい!」
ウッソが注意するが、プルも面白がって、同じことを連呼し始めた。
「………」
辺りを静寂が包んだ。
静寂の中、外の寒さが身にしみた。
ブライトは無言で書類を先頭のミライに渡すと、それを一部ずつ皆に配らせた。
ブライトはジュドーを凝視しながら言った。
「………。とにかく出発だ。今渡した書類にこの艦の基本データが載っているので、目を通しておくように。君達の仕官部屋の場所も乗っている。なおまだ整備が完全でなく、しばらく2人一組の相部屋だが気にしないように!」
ブライトは最後の部分だけ妙に早口にいった。アムロは部屋割りの表を確認する。
「ええと、スレッガーさんとか…ん?」
「お前はまだいいよ……はぁ」
 そこに、カイが沈んだ顔で話し掛けてきた。
「俺、ランバ・ラルのおっさんと一緒だよ」
キツイよ会話がつづかねぇ、そうカイは半泣きで言った。
あの人は……確かに。アムロはそう思った。

「納得いかん!!」

「!」
 突然、誰かが大声で叫んだ。
「なぜ私がハロと相部屋なのだ!」
 声の主は、マシュマーである。
「不満なのか?」
「当たり前だ! 私はこいつと同等か? コミュニケーションロボット扱いか? そもそもハロに部屋など必要あるまい!」
「そうか。その他の連絡事項は作戦室に入ったあとに説明する。それでは、各自行動開始!」
「無視か!」
その抗議を流すようにブライトは言うと、このホワイトベース・リベンジ(ひどいネーミングセンスだ)の作戦室に一足先に向かった。
そして、ついに新型艦は勢いよく始動した。 上昇スピードといい、安定性といい申し分ない。
が、 アムロは作戦室へと向かいながら何かの胎動を感じた。
もっともそれが何かは、アムロにもわからなかったが。
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第2話 艦内での生活