第2話 艦内での生活
アムロはスレッガーと一緒に、自分達の仕官部屋へと歩いていた。 二人とも会話をしつつ、割り当てられた部屋へと向かう。
ホワイトベースRは既に大気圏を出ていた。最新鋭だけあり性能は非常に高く、非常に艦内は安定している。動いているとは思えない程である。
アムロはスレッガーとの会話の中で、作戦室での話を考えていた。

「まず言っておくことは、この作戦は極秘のため艦のクルーの数は最小の人数になっている。ゆえに掃除なども基本的に我々で行なうことになる。整備も極力自分達でするように」
そういうと非難の声があがる。我々は掃除夫ではないぞ!
と、力説したのは案の定マシュマー・セロだった。 そのまま何やら語り出そうとしたが、
「ガマンしろよ!」
とジュドーに言われ、さっそくケンカが勃発する。ハロも「ガマンシロ! ガマンシロ!」とその辺を飛び跳ね、どう見ても煽っているようにしか見えない。
とにかく私はせん!とマシュマーがいうと、ランバ・ラルなどは「確かに」と頷いた。
「艦長の命令は絶対だ! 命令違反は許さん!」
そうブライトが叱りつけると、ミライは小声で「いつもこうなのよね」と呟く。
マシュマーはその後もしばらく抗議し続けていたが、ディアナの「頑張りましょう」の一言ですぐに大人しくなった。そんな大人を見つめるウッソの視線は冷ややかだった。
「幸い食事や、モビルスーツの整備には少人数のスタッフがいる。タムラ料理長やアストナージといった人達だ。 まぁ他にもいるが…。それは各自が後で確認しておくように。なお外との通信は厳禁だ! とりあえず現在はこれで通達は終わる。以上、解散!」

士官室は作戦室から出て左の通路を進み、突き当りにあるドアをぬけた場所にあった。
少し広い通路がある。そこの廊下に部屋が五部屋づつ設置されていた。
どんな感じかはホテルの部屋などを思い浮かべればすぐにわかるだろう。この部屋を抜けて少し奥にいくと更に同じような作りの空間がある。
そこはここより更に広く他の乗員たちが割り当てられていた。艦長室もそこにある。
この二つの場所はそれぞれフロアD、フロアEとなっていて、アムロ達の部屋は手前のフロアDにあった。 D-1,D-2,D-3,D-4,D-5だ。真新しいプレートがついている。
その中のD-3の部屋のドアにアムロはカードキーを差し込んだ。
機械音が僅かにしてドアが左右に開く。
部屋は割と広かった。必要最小限の物しかないが。 二段ベッドに二つの机・・ 机の上にはそれぞれパソコンが置かれている。通信用だろう。
さらには軽い飲み物が入れられる冷蔵庫がある、部屋にはそれだけだ。ガランとしている。
ひどく簡素な部屋だなとアムロは思った。それに二段ベッドか……
「なんだか寂しい部屋だな」
そう言いつつスレッガーが、荷物を二段ベッドの上に置く。
「しかし驚きましたよ。いきなり連れてこられて、『木馬海賊団、出発!』ですからね。何がなんだか」
「そうかい? 俺は今回のことを艦長から聞いたときは随分と興奮したもんだがね」
「中尉は何か聞いているのですか?」
「いんや。俺が聞いたのは、この艦のメンバーでバンライズって所に行かねばならんこと、連邦やジオンなどの組織を越えたスポンサーがいるらしいこと、それだけだな」
「連邦や、ジオンを超えたスポンサー……?」
 アムロは驚くしかなかった。
「詳しくはわからんよ。ただ、俺達の想像を越えた事態が起こっているのは感じるね」
 確かにそうである。この艦には、あらゆる作品を越えたメンバーが集結しているではないか。それだけでも想像を超えている。
 少し間を置いて、アムロはもう一つ疑問をぶつけてみた。
「それと、一つ聞きたいことがあるんです」
「んん?」
「我々の部隊の名称は?」
「さっき聞いたろう? 木馬海賊団さ」
「それって、……本気ですか」
「ああ。艦長が名付けたらしい」
 ブライト……
アムロはため息交じりで呟いた。

真面目な会話するアムロ達とは対照的に、右隣の部屋では私服でくつろぐロランとウッソ、そしてジュドーがいた。
「やっぱりさ、ディアナさんキレイだよな〜 ロランさんもそう思うだろ?」
「え? いや、あの……うん」
「それよりMSを見に行きましょうよ。早く自分の機体を見てみたいし」
「まだ大丈夫だって……そうだ! 今からディアナさんとこにちょっと遊びに行こうか?」
「ディ、ディアナ様の部屋に……僕が……」
 年齢的なこともあってか、三人はまるで修学旅行に来たような気分になっていた。
「ダメですよ、まだ機体の整備が……ってロランさん?」
「ぼ、僕がディアナ様の……」
「………」
 こうして各自がそれぞれ時間を過ごしていると、いつのまにか夕食の時間になった。
「連絡します。食事の用意ができたので、手の空いてるものは早めに済ませるように」
タムラ料理長の声が艦内放送に響きわたった。
部屋でくつろいでいたアムロは、それを聞いて食堂へと向かった。士官室からそんなに離れていない。
食事は基本的に時間が決まっており、その時間内ならいつでも食べられることになっている。 朝食なら7時から9時、昼は11時から13時、夜は19時から21時だ。もちろん戦闘配備中は別だが。

アムロが食堂にはいると、既に食事をする人でにぎわっていた。
長方形の部屋に長いテーブルがたくさん置かれていて、椅子が約40脚はある。 正面に50型の液晶テレビもあるが外部通信は厳禁なので、ビデオが流されているだけだ。
今は、不吉にも「タイ○ニック」が流されている。
出入り口の近くには自動販売機が置かれていて、コーヒーなどがいつでも飲めるようになっている。
料理は調理室の前のカウンターで注文し、そこで受けとるようになっている。和、洋、中、様々な料理が揃っており、飽きることがない。
アムロはトレイを取ると、厨房に注文を呼びかけた。
スパゲティーカルボバーラに卵とハムのサンドイッチ、そしてマカロニサラダ。あとは飲み物でミネラルウォーターが一つ。
アムロはそれだけ受けとると、座る場所を探し始めた。
近くではブライトがミライと食事をとっている。そこから左に視線を移すと、ランバ・ラルがカイとセイラ相手に上機嫌で話しているのが見えた。
どうせ武勇伝自慢だろうと視線を変えると、 奥のテーブルで少年達が仲良く食事をしているのが見える。ジュドー、ウッソ、ロランの三人であった。
アムロはそこに近づいていった。
「いいかな?ここに座らせてもらっても?」
「あ。アムロさん!どうぞ」
ウッソが椅子を勧める。
礼をいってそこに座ると、目の前でオレンジジュースを飲んでいるロランに話し掛けた。
「君は・・ロラン・セアックくんだったかな?」
「は、はい!」
伝説的エースパイロットのアムロを目の前にして、緊張しているのかロランの返事の声は裏返った。
「そんなに緊張することはないよ。ただ少し君達と話をしたいだけだから。」
「そ、そうですか・・すいません、あがっちゃって」
「アムロさんは僕らにとって大先輩ですからね。仕方ないですよ」
そうウッソはスパゲティーを食べながらロランを庇う。
「そう緊張しなくてもいい、こっちが困るよ。君らと違って、僕は若い時ずけずけ物を言ってたもんさ。おかげでブライト艦長に殴られたりしたけどね」
「へぇ、アムロさんにもそんな頃があったんですか?」
目を丸くしてジュドーが言った。
「ああ、他にも・・」


 アムロ達の会話が弾んでいる頃、隣のテーブルでも女性陣の会話が行なわれていた。
「だから、あたし言ったの! それなのにジュドーったらいじわるするんだもん」
「でも、そのジュドーさんとは仲がよろしいのですね」
興奮して話すプルに、ディアナがそう答えた。
二人の向いにはフォウ・ムラサメとシャクティ・カリンが座り、静かに耳を傾けている。
「うん、好きだよ! ねぇねぇ、シャクティは誰が好き?」
「え……私は……その」
「わかった! あのウッソって子でしょ」
「あ、あの、その……はい」
鋭い質問をするプルに、シャクティは必死で答える。
プルは、今度は先程から黙ってサンドウィッチを食べているフォウ・ムラサメに向かって言った。
「フォウさんはどうなの?」
「私……?うん、一人いるわ」
 どこか沈んだ表情で、フォウは呟いた。
「へぇ〜、ねぇ、その彼は今何してるの?」
「ただの……一兵卒で…戦場でおかしくなって…現在精神病院で治療していて……うう……カミーユゥゥゥ……」
一気に食卓が暗くなった。
 やがて、アムロ達は逃げるように入浴場へと向かって行った。

入浴場は、食堂を抜けていったところにある。 男と女は入り口で別れることになっているのは普通だ。しかし、それ以外の全てが普通ではない。
風情溢れる「銭湯」と書かれた看板……昔の下町風日本ながらの銭湯であった。
なぜこんな場所が……アムロはそう思ったが、もう色々考えるのはやめることにした。考えても無意味だし、何が起きても受け入れよう、そう思った。
ウッソが引き戸を開ける。
「イラッシャイ! イラッシャイ!」
なぜか銭湯の主になっているハロが、明るく番台から声をかけた。
「やあハロ、しっかりやってるかい?」
「ハロ、ヤッテル! ヤッテル!」
などと話していると、女湯側のほうで声がした。
「すみません」
「失礼します」
「お邪魔するわね」
「すご〜い! 変ったお風呂」
 声からして、どうやらディアナにシャクティ、セイラとプルの四人が来たらしい。
そして女湯の方に歩いて言ったらしい音がする。無論、ニュータイプのアムロ達はそれを鋭敏に察知していた。
番台のハロはディアナ様の…ハ、ハダかを……見てるの…か……
ロランはそう呆然と呟いた。ウッソとジュドーは気付かないふりをするが、しっかり赤くなっている。さすがにアムロに動揺は見られないが、なぜかハロへの視線が鋭い。
三人はとにかく、呆然としているロランを引っ張って脱衣室に入った。
そこは板敷きの部屋で、着替えを置く為の籠、体重計、マッサージ器があった。ランバ・ラルが腰に手をあててコーヒー牛乳を飲んでいる。湯上りのようだ。
いつ風呂に入ったんだ? 早すぎる……アムロはそう思った。
「よう少年達! 銭湯に入りに来たのか!」
「そうです。ラルさんは銭湯が好きなようですね〜」
そうウッソが服を脱ぎながら答える。
「ふっふっ、シャワーとは違うのだよ! シャワーとは!」
そう豪快に、牛乳を一気飲みするラルを見ながらアムロは浴場へのドアを開けた。
中はそこそこ広く湯船が三つある。
一つは普通のお湯で、もう一つは日によって違うが今日はどうやらゆず湯のようだ。
最後の一つはジェット湯だ。腰に当てると凝りが取れる。 タイル敷きの床、正面に富士の絵、湯煙りがただよう浴場はやはりよかった。
女湯は隣だが、仕切り板があるので当然ながら見えない。アムロはゆず湯に入る。柑橘系の香りが漂ってきて気持ちいい。
お湯は少し熱く、ぬるめが好きなアムロには少し熱かったがすぐに慣れた。

・・・いい湯だ・・。

しみじみと、顔をタオルで拭く。
ガラッと音がして、ジュドーとロランも入ってきた。
「参りましたよあのオジサン。話が長いんだもんな」
「まぁまぁジュドー。ラル小父さんはきっと話が好きなんですよ」
そういいながらゆず湯に入ってくる。
「アムロさんひどいなぁ。すぐにいっちゃうんだもの」
 やがて、遅れてウッソも入ってきた。
「ごめんごめん」
そうアムロが答える。ちょっと苦手なんだよな、そう考えながら。


ガラッ!
すごいすごい、こんなお風呂初めて見たよ!
そうね、さすがにホワイトベースとは違うわね
木のいい香り……
 ロランも入っているかしら?


ウッソが湯船に入ったと同時に、女湯の方でも人が入る音が聞こえた。先程の四人である。
さっきまで会話を楽しんでいた男湯の四人の間に、妙な沈黙が流れた。
「あ、あの僕体洗ってきますね」
「じ、じゃあ、俺も行こうかな」
 ウッソとジュドーはこの空気に耐え切れなくなったか、そそくさと上がって行った。ロランは虚空の一点を見つめ、何かブツブツ言っている。かすかに「ディアナ様が……」と聞こえる。
俺も行くか……アムロはロランをそのままに、二人の後を追うように湯から出た。

ガラッ!

とそこに、スレッガーとカイ、そしてマシュマーが入ってきた。
スレッガーは前を隠していない。さすがに白人系のは「格」が違う。
「あ、圧倒的だ・・。」
ビグザムを初めて見たときと同じ台詞がアムロの口から漏れた。
「スレッガー! さっきの話は本当なんだろうな!」
「あぁ、ラルさんに聞いたから確実よ!」
「そうか。私は……いい仲間を持った」
「二人とも、あんまりデカイ声で話すなよ」
三人とも全裸でそんな事を話していた。何の話だ?なにをにやついているんだ?アムロ達は顔を見合わせて不思議に思った。
どうせよからぬことですよ、そう頭を泡だらけにして吐き捨てるジュドーの言葉は間違いではなかった。
 後に三人がミライから密かにお説教をされたことは、彼らだけの秘密である。
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第3話 平穏を裂いたもの