第1話 出撃
ヘリを降りて真っ先に目に付いたのは、巨大なマシンガンだった。整備兵らしき人たちが忙しそうに動き回っている。まるで働きアリのように。そして、整備班長らしき男が叫ぶと、塹壕の中に偽装網を張っていた陸戦型ジムが4機が姿を現した。 「陸戦型か…」                                                                   ヘイロは、初めて目にするMSに見とれていた。士官学校では、実際にMSに乗ることは無かった。操縦席に見立てた、コンピューターゲームみたいな物だった。それに、1つの学校ごときに、MSを回すほど共和国には余裕がない。さっきのヘリのことで、テスマンは、戦況はかなりマズそうだという事を認めざるを得なかった。 「しっかりやれよ!」                                                                              「腐った連邦軍を叩き潰してくれ!」    「いい知らせを期待してるぜ!」                                                                      「殺られんじゃねーぞ!」 「オメーにはあの時の付けを払ってもらうからな!」                                                          次々と整備班や部隊の仲間から激励の言葉が飛んでくる。                                                                             「テスマン・フォード准尉、ただいま到着しました。」                                                「同じく、ヘイロ・ロッサ准尉、ただいま到着しました。」 2人はロック・マスティーン中将と同じように、目の前の男に敬礼をした。男は、長い顔を真上に立てていた。歳は、30から35と言ったとこだ。目は青く、ごつい体をしていた。非常に男くさい。旧世紀に、こういう俳優がいた。確か、アーノルド,シュワルツネッガーとかいったな。それに似ている。(何年か前に本で読んだ気がする。) 「ようこそ、わが大隊へ。私が、オーガスト・ウィルソン大佐だ。君たちの事は、マスティーン中将から聞いている。」   ついに自分たちが戦場に来てしまった。いや、士官学校に入学したときから戦場に来ていたのだ。2人の親は、2人がまだ赤ん坊のときに死んだ。反地球連邦デモを起こし、連邦軍と衝突、連邦軍はいきなりデモ隊に向かって手元のマシンガン、AR−75から飛んでくる鉛弾で2人の両親は4人仲良く逝ってしまった。このとき、この事件は政府の隠蔽で表沙汰になる事が無かった。そして、2人は養護私設で15年間育った。そして士官学校で、2人はある上官から、2人の親は殺された事を知らされた。しかし、2人はそんなに驚かなかった。むしろ、予想してた。2人の親は、反地球連邦運動を盛んに行っていたと、養護私設の館長から知らされていた。だから、いつまでも戻ってこない親は、殺された      のではないかと、幼い時ときから考えていた。だから、予想道理の答えが返ってきた。だから、2人は親の顔も知らない。写真も1枚残らず紛争で燃えてしまった。そして2人は、連邦軍に親を殺された恨みで軍に入隊した。特にヘイロは、人の何十倍も連邦軍を恨んでいた。母親の腹の中には、弟か妹になるはずだった、新しい命が宿っていたからだ。   2人に支給されたのは、RGM−79陸戦型ジムだった。それと同時に、12小隊に初めての任務が下された。 「君たちには、これが初めての任務となるな。今回の任務は、補給トラックの護衛に就いてもらいたい。トラックは途中、ジオン軍の勢力圏内に入らなければならない。そのときの敵襲に備えて、君たちを護衛に付かせる。」 「なぜジオンの勢力圏内に入らなれればいけないんですか?」 ヘイロが聞いてきた。何故そんな面倒な事をしなければいけないのかと。 「それはだな。そのルートが最短距離になる。しかも、別な道を行こうとすると、連邦軍がわが勢力圏内に仕掛けていった地雷原を通らなければいけない。その地雷の中には、対航空機用の地雷も多数仕掛けていった。これでは、護衛以前の問題となる。だから、最も安全な道はここしかないのだよ。」 「そうですか…」 航空機用の地雷とは、その名の通り、航空機に向けられた地雷だ。これを踏むと、トラックや戦車はもちろんの事、MSでさえ無事ではすまない。航空機用の地雷を踏んで生きて帰った者は聞いた事が無い。 「君たちのほかに、M60戦車が4両護衛に付く。ただ、戦車とMSでは、どっちが強いかは子供でもわかる。だから、君たちに頼んでるのだ。」 「わかりました。」 「では、吉報を待ってるぞ!」 こうして、12小隊は初陣の準備を始めた。 ルマガンの森を、1つの部隊が進軍していた。先頭と左右に2両ずつのM60、それに守られる形で6台の補給トラック、そして後方に2機の陸戦ジムという陣形だ。ジムの右手には90mmマシンガン(テスマンは左利きなので、マシンガンは左手に持たせている。)、左腕(テスマン機は右腕)には、12と描かれたシールドが装備されていた。M60とは、共和国軍が開発した戦車である。砲身はやや短いものの、搭載している弾は、120mmライフル砲だ。(ちなみに、ジオン軍の主力戦車、マゼラアタックの搭載砲は130mmカノン砲、連邦軍のT−61戦車は85mm滑空砲)また、状況によっては、鉄鋼弾、HE弾、ナパーム弾などに換えることができる。(鉄鋼弾はその名の通りで、鋼鉄の弾を撃ち出す。HE弾とは、弾が敵に命中すると、弾の破片を飛び地らせ、周りにいる敵歩兵を殺傷させる弾。現在、〔2003年〕国際連合では、その砲弾は、非人道的で、使用が禁止されている。第2次世界大戦でつかわれた。)    そして、補給トラックの中には、武器や弾薬、食料に医療器具などが入っている。この補給物資の届け先は、東ルーシア方面軍中央左翼方面軍マイティーン・ジョンソン大隊となっている。このマイティーン大隊は、東ルーシア方面軍の中では、かなりの実力を持っている。東ルーシア方面軍の中には、6つの大隊から成っている。まず左の戦線に展開するジェームズ・ジェフリーズ大隊、中央に展開するオーガスト,・ウィルソン大隊と、マイティーン・ジョンソン大隊、右の戦線に展開するリュウ・シャンティ大隊、やや後方に位置するアッパーズ,・フェンディ大隊と、トール・ヘイルダー大隊と成っている。つまり、テスマンとヘイロが所属する大隊は、中央にある大隊となる。この中央軍は、今最も激しい戦闘が繰り広げられている。ジオン軍と、連邦軍の主力どうしがぶつかり合っているのである。そのため、後方に展開するトール・ヘイルダー大隊の援軍が毎日のように到着する。                                                          共和国軍の場合、連邦軍とは違って、不利な戦場には次々と援軍が到着する。不利であればあるほど、いざ戦況を奪回すると、その司令官は優秀とみなされ、出世しやすくなる。しかも、雑用兵だろうが司令官だろうが手柄を立てれば、例えば一等兵が4機のMSを       撃破したとしよう(まずあり得ないが)。その人は、一等兵から伍長まで出世する。撃破数の数によって違うが、とにかく手柄を立てれば立てるほど  より上位クラスに行けると言う事だ。そのため、司令官から一般兵まで、手柄を立てようと必死で戦う。それは、必然と士気が高まることを意味する。連邦軍はこれとは反対で、損害が出れば出るほど無能な指揮官となる。だから損害が出やすい不利な戦場には誰も行きたがらないといういびつな構造となっている。その為、不利な戦場には誰も行きたがらず、その戦場にいる部隊も士気は低い、とウィルソン大佐は言う。                                                                                           陸戦型ジムのコクピットの中。僚機から無線が入ってくる。 「テスマン、あのさぁ」 「何だ?、ヘイロ」  「聞きたいことがある。」 「聞きたいこと?」 「そうだ。」 「なんだよ」 「おまえの従姉妹って、今どこにいるんだ?」                                                             ヘイロは、テスマンの従姉妹のことは知っていた。ただ、14の時に軍に入ってからは全然見なくなった。ヘイロは、テスマンの従姉妹の妹の方に穂のかな恋心を抱いていた。 「あいつらなぁ。たしか、軍に入ったはずだ。」 「女なのに、軍に入ったのかぁ!」 「ああ、そうだよ。」                                                                            ヘイロは、どこか嬉しそうだった。士官学校を卒業したら、オーガスト大隊に配属されてくれれば…しかし、 「あいつら、もう士官学校卒業したぞ。」 「えっ?…」 「だから卒業したって。」 「配属先は?」                                                                              ヘイロはやや興奮気味で聞いた。『そんな!一緒になれないのか?』 ヘイロの予感はあたった。 「西ルーシア方面第14砲兵部隊第5砲兵師団にはいったって言ってた。」 「そうか…」                                                                                ヘイロの、ショックは、隠しきれなかった。本人は隠している積りだったが…テスマンも、ヘイロが自分の従姉妹に思いがあったのは知っている。ただ、あの2人がそう簡単に殺れないという自信はあった。 『なんか、やる気なくした。』そう思った時だった。テスマン機から通信が入ってきた。 「ヘイロ!右から来るぞ!」 「しまった!」                                                                              俺としたことが、'あの人'のことで頭が一杯になり、警報が鳴っているのに気が付かなかった。                                  「なんと言うドジ!」                                                                           ヘイロは、コクピットの中で叫ぶと同時に、本能的に機体をしゃがませた。それが幸いし、シールドに何かが当った。弾が機体に当らなかった事を見ると、森の中から2機のMSが出てきた。1機はバズーカーを持っていた。 「あれは、ザク!」                                                                          テスマン機もヘイロ機も、2機のザクに90mmマシンガンを乱射した。どうやら、先にMSを倒してから戦車、トラックと行きたいのだろう。戦車の  砲撃は、ほとんど無視するかのように回避しながらジムに向かっていた。テスマンはザクのバズーカーを何とか回避しながら、左手の90mmマシンガンを連射した。が、当らない。相手も接近戦に自信があるのか、今度はヒートホークを振り下げて斬りかかろうとしていた。テスマンは、初めてのザク相手に苦戦していた。                                                                 ヘイロはというと、ザクに体当たりを喰らわせた。敵もこの体当たりにかなり驚いたらしい。だが、ここで計算外のことが起こった。咄嗟の事なので、90mmマシンガンを落としてしまった。だが、それは相手のザクも同じ事だったらしい。2つのマシンガンが、ほぼ同時に地面に落ちた。相手のザクは、ヒートホークを持って躍り出た。ヘイロは頭部にある30mmバルカンで牽制すると、マシンガンを取りにいった。が、そのマシンガンは故障していた。「くそっ、こんな時に。」                                                                         さっきの体当たりか!そうヘイロは確信した。こうなったら。ふと思い、ヘイロはビームサーベルを抜いてザクに突進した。相手のザクは、ヒートホークを抜こうとしたが、腕の何所かが損傷したらしい。(さっきのバルカン砲のせいだろうか?)ヒートホークを抜こうとしなかった。いや、抜こうとしていたが、腕が動かなかったのだろう。必死にヘイロ機のビームサーベルを回避しようとしている。  『チャンスだ!』                                                                             そう思うと、一気にザクに斬りかかった。一撃目は回避されたが、2撃目で、ザクを真っ二つに切り裂いた。 ヘイロがザクを仕留める少し前、テスマンは左手の90mmマシンガンで、バズーカーを持ったザクを攻撃していた。何とか距離は保ったものの、 このままでは弾切れの恐れもある。 「このままじゃラチがアカねえ…。」                                                                    そうつぶやいても、命中精度が上がる訳でもない。どうする、テスマン…そう自分に言い聞かせている時だった。相手のザクのランドセルが爆発 した。先程から断続的に砲撃をしていたM60戦車の砲弾が命中したのだ。先にMSを倒したいという気持ちが裏目に出た。 「いまだ!」                                                                                 テスマンは、ザクにトドメを刺そうと90mmマシンガンを連射した。それでも攻撃は外れたのもあったが、何発かの内1発がザクのモノアイに命中 した。コントロールを失ったザクは、テスマンのビームサーベルで、コクピットを貫通させられた。目の前のザクが前から倒れた。それと同時に、もう1機のザク もヘイロ機によって撃破された。 「ご苦労だった。12小隊の諸君。…といっても、2人だけか。」 「補給物資内容、90mmマシンガン6000発、180mmライフル800発、220mmロケット砲120発、医療器具、食料4ヶ月分、生活用品…確かに、受け取りました。」  ここは、テントの中。2人の男が立っていた。1人は、微妙に短い髯と、顎鬚の2つを生やしていた。なんと言っても注目すべきはその頭。スキンヘッド。つるつるで何も生えてなかった。おそらく、剃っているのだろう。  もう1人は、その部下らしき男だ。階級は中尉。28か30と言ったとこだ。 「改めて、自己紹介をしよう。私の名は、マイティーン・ジョンソン中佐だ。この者は、ヨシユキ・サワダだ。」 「サワダだ。よろしく。」 サワダという男は、どこか子供っぽいとこがある目をしていた。 「君たちのことは、ウィルソン大佐から聞いている。戦車兵の報告によると、着任早々、ザク2機を撃破したらしいな。その若さで、たいしたもんだ。」 ジョンソン中佐は、豪快な笑いを立てた。 「いえ、偶然と運が良かっただけです。なぁヘイロ。」 ヘイロは、話を良く聞いていなかったらしい。 「?…ああ、そうだな、」 ヘイロは、慌てて言い繕った。その様子を見て、ジョンソン中佐はまたデカイ声で笑った。 「まあ、補給物資も受け取ったし、未来のエースパイロットにも出会えたことだし、今日は良い1日だった。」 「僕らはそこまで腕が良くありませんよ、中佐。」 ヘイロがエースパイロットという言葉を否定した。 「いいや、新兵であそこまでやれるのはそう居るものでもない。」 そんなものなのか?テスマン。ヘイロはそう聞きたかった。     2人が帰還すると、今まで聞いたことの無い歓声を浴びた。オーガスト大隊はこんなに人はいたっけか?それに、通信も山とばかりに入ってくる。 「よくやった!」 「すげぇぜオメェラ!」 「ザクを2つもやったんだってなぁ!」 「おまえら本当に新兵か?」                            たかがザク2機を撃破しただけで、そんなに凄いのか?テスマンもヘイロも、会話こそしなかったものの、そう言いたくなるほどだった。
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第2話 放たれた矢