第16話 決戦前
「艦長!ゲルググマリーネがあったな!?」
ブリッジに入ってきたマストが半分怒りの混じった声で言う。
「ああ、1機だけ特別に配給されたやつか。何かあったのか?」
ゲルググマリーネは本来なら海兵隊に配備されるはずなのだが、中尉であるマストに1機のみ配備されたのであった。
「さっき連邦の戦艦を追って攻撃しただろ?その中に化け物がいた。並のやつじゃない。」
先ほどのコロニーへの攻撃は、マストの部隊がア・バオア・クーに向かう途中、マインたちの戦艦を発見し攻撃しようとしたが、コロニーに入港したためにコロニー内に侵入したのである。
「気がおさまらんか・・・調整は終わっているはずだが・・・」
「航路から見てやつらもア・バオア・クーに向かっている。今のうちに叩かねば向こうで戦ったとき脅威になりかねない。」
マストはそう言ってブリッジを出て行った。
出て行く直前、マストは小声で呟いていた。
「あのコロニーの人達には悪いことしちまったな・・・」

「ア・バオア・クー・・・・ってことは戦争も終わりか・・・」
ヴァンが呟く。
「この戦争が終わったら、どうする?」
横にいるマインが訊く。
「軍、辞めようかと思ってるんだ・・・」
ヴァンがマインを見る。
「!・・おまえもか?」
マインがヴァンを見返す。
ヴァンはともかく、マインは元々好きで軍に入ったわけではないので、半分以上辞める気だったが、ヴァンも辞めるとは思っていなかった。
ヴァンは勿論、シエルと暮らす気でいた。
この前のやりとりはあっさりと終わってしまったが、戦争の後のことは言うつもりである。
マインはとにかく、軍を辞めた後は考えていなかった。
普通に暮らせればいいと思っているが、果たしてできるだろうか?
「今から戦争後のこと考えるなんて早すぎかな?」
「後のこと考えておいた方が生き残るにはいいと思うよ。」
ヴァンの問いにマインが答える。
後のことを考えることで生きる意志が強くなる。
戦場で生き残るには死なない意志は強い方がいい、そういうことである。
突然警報が響き渡る。
「敵襲かっ!?」
マインとヴァンがMSデッキに向かう。
ヘルメットのバイザーをおろし、コクピットに滑り込むと、MSを起動させる。
マインが戦艦から飛び出す。
続いてヴァンが出てくる。
「2機いる?同時に相手をするのは不利だな。」
マストが呟くと、隣にいるゲルググに手で合図をする。
今までの戦闘により、マイン達の方にはMSが少なくなっている。
合図を出されたゲルググはマインに攻撃を仕掛け始めた。
マストはヴァンに対しマシンガンを連射する。
「来たっ!?」
ヴァンがマシンガンを横にずれて回避する。
マインが攻撃してきたゲルググに反撃をする。
マインの攻撃をゲルググはシールドで防ぐ。
実弾武器ならかなり受けても平気なシールドだが、ビーム兵器は何発も受けられない。
防御できるとしてもせいぜい5,6発ぐらいであろう。
マインの周りに多数のMSが攻撃をしてくる。
それを回避しつつ攻撃をするマイン。
「こいつっ!」
ヴァンがライフルを撃つ。
放たれたビームはマストのゲルググマリーネのシールドで防がれた。
「くらえっ!」
マストがヴァンの頭部に向けてマシンガンを撃つ。
ヴァンがシールドで頭部を守る。
シールドを外し、ライフルを構える。
「いない!?」
そこにゲルググマリーネの姿はなかった。
頭部をシールドで守らせることで視界を一時的に塞がさせて、回り込むためであった。
左側からゲルググマリーネが斬りつける。
それに気づき、ヴァンが回避しようとするが、一歩遅く、左腕を切断されてしまった。
「っぐ!」
すかさずサーベルを横に振るがマストはそれを後ろにステップして回避する。
マストがサーベルで斬りかかる。
ヴァンはさっきサーベルを横に振ったせいで、振り切った状態になり反撃ができない。
「やばいっ!」
ヴァンが呻く。
目の前にゲルググマリーネが迫る。
そこにビームが飛んでくる。
そのビームはゲルググマリーネの目の前を通過した。
モノアイにビームの粒子が当たり、ディスプレイにノイズが走る。
「大丈夫!?」
ガンダム改がヴァンに接近する。
「シエル!?」
「ごめん、当たんなかった。」
「当たんなくてもいい!死ぬかと思った!ありがとう!」
ヴァンが言う。
そこにマストが斬りかかる。
防御が間に合わずシエルの機体が両断される。
「きゃああああ!!」
幸い、コクピットにはあたらず、その少し左側を切断された。
「シエルっ!!」
ヴァンがマストに斬りかかる。
マストはそれを回避し、シエルにマシンガンを向ける。
シールドで防御体勢になったヴァンがシエルの機体の前に飛び出す。
「てめぇ!!」
ヴァンがマストに急接近する。
マストがサーベルを横に振る。
「!!?」
ヴァンがそれを上に避ける。
そして後ろに回りライフルを構える。
マストが下方向にステップしながらヴァンに向き直り、マシンガンを連射する。
「右からくる!?」
ヴァンがマシンガンを回避する。
「何!?」
マストは呻きながら、ヴァンにマシンガンを連射しながら接近する。
ヴァンはシールドでそれを防ぐ。
マストがマシンガンを撃ちながら左腕のスパイクシールドでヴァンのシールドを弾き飛ばす。
「!?いないだと!?」
シールドの内側にはヴァンはいなかった。
「見えたぜ!あんたの動きが!」
ヴァンがゲルググマリーネの頭部から左腕をななめに切断する。
ゲルググマリーネが振り向き、マシンガンを乱射しながら後退していく。
ヴァンはそれを避けつつシエルに近寄る。
「シエル!生きてるか!?」
「生きてる・・・なんとか・・・」
シエル機をヴァンは抱えて戦艦に向かった。
「悪いな!!」
マインがザクUを両断する。
「後退していく・・・?こっちも退くか・・・」
マインも戦艦に向かった。

着艦し、マインがコクピットから出てくる。
「マイン!オレにも読めたぜ!敵の動き!」
「ヴァン!?本当かよ!?」
ヴァンが言い、マインが返す。
「嘘じゃねぇって!」
「オレたち2人で戦えばゼラにも勝てるかも・・・」
マインが呟く。
「ああ、やってやろう!勝って、生き残ろう!」
ヴァンがそれに応える。
マインが頷く。
ブリッジに向かう2人。
「マイン、ヴァン、2人とも昇格だ。マインは大尉、ヴァンは中尉だ。」
「え・・・?あ・・はい・・」
いきなり昇格と言われ少し戸惑うヴァン。
「ちっ・・どうしてもマインより一つ下か・・・」
小さな声で呟くヴァン。
「聞こえてるぜ・・・ヴァン。」
マインがにやけながら囁く。
「ところで艦長、ア・バオア・クーまでどのくらいですか?」
「そうだな、5,6日ぐらいだな。ゆっくり休めよ。長くなりそうだからな。」
艦長が答える。
「はい!」
2人がブリッジから出る。

「来たか・・・マスト。」
ブリッジに入ってきたマストに艦長が言う。
「?何か?」
「すぐ横に友軍の戦艦がある。そこに合流するんだが、おまえは向こうの戦艦に転属だ。」
「・・・了解しました。後のこと・・頼みます。」
マストはそう言って、隣の戦艦に向かう準備をしにブリッジをでた。
マストが新たに配属された戦艦のMSデッキには見慣れぬ2種類の機体があった。
片方は黒い機体、もう片方は蒼い高機動型ゲルググ。
「このMSは・・・?」
マストが呟く。
黒い機体・・・それはゼラのケンプファーカスタムであった。
蒼い高機動型ゲルググも改造され、やや細くなっている。
MSデッキからブリッジに移動するマスト。
「来たか・・・」
ブリッジに入ると艦長の横に2人のパイロットがいた。
そのうちの1人、少し異様な雰囲気を持った方が呟いた。
「アンタは?」
マストが訊く。
「ゼラ・フェイク。階級は少佐、隊長だ。」
あれからの戦闘でゼラは昇格し、隊長になったのである。
グレスも昇格し、大尉になったが、ゼラに追い越されたのである。
「ところで・・・オレの機体は?」
マストが問う。
「高機動型ゲルググカスタムを造らせている。それでいいだろう?」
横にいたグレスが言う。
「ああ、構わないが・・」
マストが応える。
部隊の説明等一通りのことを終え、3人はブリッジを後にした。
「マイン・・・もう後はない・・・次こそ終わりだ。」
ゼラは自分の部屋に入りドアを閉め、そう呟いた。
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第17話 戦闘開始